今回の実力派会計人は、税理士・早戸崇倫氏。大手税理士法人を経て、創立間もない会計事務所へ転職。現在は独立をし、スタートアップ起業支援を中心に税務アドバイスを行っている。ビジネスは勝つか負けるかのシビアな世界だと話す早戸氏だが、採用面では未経験者も積極的に教育をし、スタッフを大事に育てあげている別の一面も持っている。今回は早戸氏のこれまでのキャリア、そして今後の展望について話を伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 村松)
中小企業の支援をしたい。大手税理士法人からスタートアップの会計事務所へ
独立までの経緯を教えて下さい。
早戸:大学を卒業したあと1年間勉強に専念して、EY税理士法人に入所をしました。当時は大手税理士法人で働けることに嬉しさを感じていたのですが、やはり大きい組織なので、クライアントに対して何かを働きかけるというよりも、内部で作業をこなすという仕事が中心で、私のイメージしていた税理士の仕事と異なる点が多かったです。
もちろん、新人の私に一からビジネスマナーや税務に関することを教えていただいたことについてはとても感謝しています。しかし、私が税理士を目指したのは、社長と直接話をして、その悩みを解決するような仕事がしたかったという理由でした。そこで、一旦仕事をやめて、本当にこの道でいいのかを考えてみることにしました。
正直、想像していた仕事と違っているし、税理士の仕事は自分には向いていないのではないかと感じていました。それにまだ5科目合格しているわけではなかったので、今なら別の職業の道に変更できるとも思っていました。
そんなとき、就職活動の一環として求人サイトを眺めていると、ある会社が目に留まりました。試しに応募をしてみると、すぐにお電話をいただきました。印象としてとてもフランクで、実際の面接も親しみやすさを感じたので入社をすることにしました。
それが前職で、ベンチャー支援が強みの税理士法人でした。入社したのは2011年。現在はグループ全体で1千名を超える組織となっていますが、当時東京オフィスの人数はまだ10人ほどで、これからスタートアップを立ち上げていこうとする人を、同じ目線で一緒に走っていくというような活力のある会社でした。
当時は創業間もない中小のクライアントをメインに担当していました。夢を持っている経営者のサポートを軌道に乗せるのは正直大変なことも多かったのですが、こういう仕事なら税理士という職業を続けていく意味があるかもしれないと感じられました。そう思えたので改めて、税理士試験も続けて5科目を30歳のときに合格しました。
仕事は充実していてとても楽しかったのですが、新しいことを自分が主体となってどんどんやっていきたいという気持ちが強かったので、独立を決めました。

スターズラボの由来-スタートアップのサポートを。
事務所名の由来は何でしょうか。
早戸:自分の名前が珍しいので、最初は私の名前にしようかとも思っていました。しかし最終的には私が表に立たなくても、会社の名前でブランディングされていくことが重要だと考え、今の事務所名になりました。
この「スターズラボ」という名称には、下記の意味が込められています。
Start up→スタートアップ企業の
Support→支援を行っていくために、常に最善の一手をお客様へ提案するために
Lab→研究し続けていく集団でありたい
弊社ではスタートアップのお客様を対象にご支援しています。会社設立から始まって、その後も顧問としてサポートさせていただいていることから、「スタートアップサポートラボ」を縮めてアレンジしました。
名前の通り、弊所では、会社設立支援からの税務、会計業務の他に、開業当初から融資支援を積極的に行っていたことにより、日本政策金融公庫(創業向けの国民生活事業部・年商5億円以上向けの中小事業部)をはじめ数多くの民間金融機関とのパイプを持ち、中小企業の経営者の方々の財務支援を強みにしています。コロナ禍においても新規のお客様が増え続けている理由の一つがこの融資支援業務を積極的に行ってきたからだと思っています。
その他の特徴としましては、私たちはとにかくレスポンスの速さを徹底しています。相談してもなかなか返信が来ないのでは、お客様が不安に思われてしまいますよね。
そのため、当会計事務所ではクラウドを積極的に入れようとしています。連絡手段として使っているのはLINE、チャットワーク、slack、メールなど。SNSはメールに比べてすぐに返さなければいけないというプレッシャーがあるという考えもあるかと思いますが、その分お客様の信頼も得られやすくなると思っています。
AIにもコンサルにも価格の安さにも勝るのは、お客様ときちんと向き合うことだと思っています。相手の立場に立って、何をしたらいいのかを常に考えるようにしています。
コロナ禍で新規開拓営業に変化などはありましたか?
早戸:あまり変わらないです。コロナ禍においても起業される方は多く、コロナ前に比べても感覚的に変わらず開拓できると思っています。
個人事業主から法人になろうとする方もたくさんいらっしゃいますね。
熱い思いを持って起業される方が多いので、我々もしっかりその思いに応えていかなければならないと強く感じています。現在は、Web広告で月間60件ほどの問い合わせを頂いている状況です。目先の目標としてはWEBからの新規件数と既存のお客様からのご紹介の件数と合わせて月に平均20~30件の成約を実現していくことですね。
今もZoomと対面と半々でお客様と会っています。職員はリモートにはしていません。帰属意識が薄くなりますし、事務所の人間と話すことで新しい気付きもたくさんあります。

採用にも力を入れていると伺っています。
早戸:人と対面する仕事なので、採用にも人物重視です。大事なことは、自分の知識を話すのではなく、お客様のお話をじっくり聞けるかどうか。当会計事務所では、飛び込みやテレアポで新規のお客様を獲得するわけではないので、お電話の問い合わせがきたところから営業がスタートします。「電話で話を聞いてみるだけ」と思って掛けてこられたお客様でも、2回目に繋げて会ってみれば信頼していただけるかもしれません。要するに”売れる営業”に育て上げることに力を入れています。
契約を取って売上を伸ばして、事務所の規模を拡大していけば従業員にも還元されます。そのためには一人ひとり成長をしていってもらわなければなりません。人材を大事に考えているからこそ、より相談しやすく働きやすい環境を作りながら、他にはない会計事務所にしていくのが代表としての役割だと思っています。
ちなみに、そうやって弊社で採用した事例をお客様に共有して、経理でこういう人を取ったら今これだけ活躍していますよ、と共有することもあります。採用に力を入れているので、成功事例をお伝えしやすいのです。また、採用した人自身も、税理士としてお客様のお役に立てるスキルを社内で身に付ければ、将来にも役立つでしょう。

ビジネスは勝つか負けるか。早戸氏の考える今後の展望
今後の展望を教えて下さい。
早戸:今後の展望としては、大きい会社の顧問になることは考えていません。それよりも、今以上に社労士や弁護士の方など他の士業の方とも繋がって、ワンストップサービスを充実させたいですね。
また、現在はWeb集客に力を入れてどんどん規模を拡大させている時期です。いろいろな知見を持った社員を集めて事務所の強みとなる分野を増やし、さらに体制を強くしていきたいです。近々法人化も考えているので、西の方に支店を出していくことも視野に入れています。
ただ、事務所が大きくなりすぎる前に分割はしたいと思っています。私の考えでは、30人くらいの規模になったら支店を出したいです。人と人との相性がありますし、もし現在の職場で合わなくても、別の支店なら合うかもしれませんから。そうやって一人ひとりを大切に育てていきたいです。それに、東京はやはり競争が激しいので、あえて地方に行ってみるという勝ち方もあるかと考えています。
ビジネスは勝つか負けるか。今はお客様と一緒に走りながら、どんどん事務所を成長させていく時期だと思っています。
【編集後記】
勝ち続けることがお客様のためにもなるという信念のもと、今後の拡大に向けて戦略的に、かつ事務所一丸となって施策を実行されている点がとても印象的でした。早戸代表、ありがとうございました!