○ 納税者の個々の実情

そもそも国の税金は、納税者自らが申告と納税をする申告納税制度を採用しています。この申告納税制度が適正に機能するためには、納税者が、自発的に正確な申告をして期限内に納付することが必要となります。

したがって、税務署は、期限内に納付を行っている納税者との間の公平性の確保の観点からも、国税が期限までに納付されない場合には、自主的な納付を促したり、滞納処分を実施するなど、確実な税金の徴収を図ることとなります。

しかしながら、納税者によっては、自分の財産が災害を受けたことにより国税を一時に納付することができない場合、又は、差押えられた財産が直ちに換価されることによりその事業の継続若しくは生活の維持が困難になってしまう場合があります。

そのため、納税の猶予及び換価の猶予の制度は、このような事由がある納税者について、法令等に基づく一定の要件の下、強制的な徴収手続を緩和して、その個々の実情に即した適切な措置を講ずることによって、納税者との信頼関係を醸成して税務行政の適正かつ円滑な運営を図っています。

そこで、滞納整理に当たっては、画一的な取扱いをせずに、納税者の個別的、具体的な実情に即して適切に対応し、納税者の視点に立って、その申出の内容を十分に聴き取って、納税の猶予又は換価の猶予の申請がされた場合には、その申請の内容について、必要な調査を的確に行い、法令等に基づき適切な処理をすることとなっています。

ここでもう少し深掘りして説明をします。国税不服審判所の裁決事例から、国税局(原処分庁)が行った納税の猶予不許可処分(原処分)は、納税者(審査請求人、以下「請求人」といいます。)の個々の実情から納税の猶予に当たるとして、原処分を取消した事例です。

〇 平成24年10月29日裁決

本事例のポイントは、滞納後に発生した請求人の猶予該当事実を、滞納国税を一時に納付することができなかった事実と認め、国税通則法第46条第2項第5号(第2号類似)に該当するとしたものです。

事案の概要としては、請求人は、事業を廃止したこと及び請求人と生計を一にしない母が病気にかかったことを理由に納税の猶予の申請をしました。

しかしながら、原処分庁は、請求人が事業を廃止した理由には、法令の規定、公共事業の施行又は業績の著しい悪化等のやむを得ない理由がなく、また、請求人が母の入院加療に伴う支出を行う以前から税金を滞納しており、母の病気が原因で滞納国税を一時に納付することができなくなったとは認められないとして、納税の猶予不許可処分を行いました。

審判所の判断(要旨)としては、請求人には納付困難税額と猶予該当事実(請求人と生計を一にしない母の入院加療)に基づく支出とが、それぞれ存在することから、その支出又は損失の額が納付困難の原因となっているものとみるのが相当であり、請求人は猶予該当事実に基づき、滞納国税を一時に納付することができなかったと認めました。

また、国税通則法第46条第2項に規定するその他の要件も充足していると認め、原処分を取り消しました。

このように、納税者の個々の実情は大切です。税務署の担当者と相談をされる場合には、納税に対する誠意をもって、正直に担当者と向き合ってください。


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