税務に関する訴訟は納税者(滞納者)等が原告となって訴訟提起することが多いですが、国税当局が原告となって訴訟提起して滞納となった国税の徴収を実現する手続きがあります。今回はそのようなケースの中から「詐害行為取消訴訟」について、元国税徴収官が分かり易く説明します。

◇詐害行為取消訴訟とは

滞納者と第三者との間における債権者(国)を害する財産に関する行為(詐害行為)の効力を否定して、滞納者から離脱した財産をその第三者から取り戻して滞納者に復帰させるための訴訟をいいます(国税通則法第42条、民法第424条)。

国税通則法第42条【債権者代位権及び詐害行為取消権】

民法第3編第1章第2節第2款(債権者代位権)及び第3款(詐害行為取消権)の規定は、国税の徴収に関して準用する。

民法第424条【詐害行為取消権】

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

国税当局は、滞納者の財産に対し、差押処分を執行していない限り直接に権利を持っていませんので、滞納者が行う財産管理(処分)に干渉はできません。

しかしながら、上記のとおり、詐害行為取消訴訟を提起し、勝訴判決を得ることにより、滞納者から離脱した財産を滞納者に取り戻し、当該財産について滞納処分を執行することができます。

◇要件

①滞納者の行った財産上の行為であること。したがって、離婚による財産分与は、原則として詐害行為にはなりません。

②詐害行為の結果、滞納者の財産が減少し、滞納税金を納税するのに足りなくなること。例えば、贈与や一部の債権者への担保の供与、相当価格での財産の売却も詐害行為となります。

③詐害行為の前にすでに滞納が生じていたこと。

④滞納者が詐害行為を行った時に、滞納税金の返済が出来なくなることを知っていたこと。

⑤詐害行為により直接利益を受けた受益者や、その受益者から利益を受けた転得者が、詐害行為により、滞納税金の返済が出来なくなることを知っていたこと。