今回話を伺ったのは設立22年目となる独立系コンサルティングファームにて経営支援事業本部長を務める日髙幹夫氏。銀行員時代に気付いた取引先の会社とのいびつな関係性。会社側に立ってステークホルダーとフェアな立場で接したいという一心から会計士資格を目指し、コンサルタントとして、CFOとして活躍してきた実力派会計人だ。日本では安定したキャリアを積みにくいと言われているCFO。CFOとなり得る一流の人材を育て、企業に定着させるためには。その考えや、日髙氏のこれまでのキャリアから現在に至るまで。そして今後の新規事業について話を伺った。(取材・撮影:KaikeiZine編集部)
銀行の融資営業として「貸し剥がし」を経験した新卒時代
会計士を目指したきっかけについて教えてください。
日髙:私は鹿児島県種子島の出身で、中高で鹿児島市内に出て、大学で上京しました。卒業後、95年に大手都市銀行へ入行したところから社会人生活がスタートしました。
98年には金融恐慌があって、日本債券信用銀行や日本長期信用銀行、山一證券が破綻する時代。今では「貸し渋り」「貸し剥がし」が馴染みのある言葉になりましたけれど、ちょうどそんな言葉が生まれた時代に、私は銀行員として融資の営業をしていました。つまり、取引先企業に対して「剥がす」立場だったわけです。
自分で経験してみて気が付いたのは、銀行と会社の関係が非常にいびつであり、その結果として「貸し渋り」「貸し剥がし」が出てきたのだということでした。銀行員は簿記の2級は取りますが、メインバンクとして会社にアドバイスをするなら、もっと深く会計を理解することが必要だと感じました。私自身は会社側に立って銀行をはじめとするステークホルダーとフェアで友好的な関係を構築・維持する立場として活躍したいと思うようになりました。それが会計士を志したきっかけです。
会計士試験の勉強をする中で、何か大変だったことはありましたか。
日髙:予備校に通っていましたが、周りはほぼ学生。社会人経験者は1割くらいでした。どちらかというと、暗記量が多いという部分は学生たちより年齢が上な分、大変でした。しかし経営学などの分野では、一度社会人経験があるので理論的なものを具体化して理解することができました。だから前職があるというのは一長一短でしたね。学生の頃のような暗記はできなくても基本的な理論を読んで理解するという勉強法を模索しました。
その後、論文式試験に合格し、2001年にエスネットワークス(現職)に入社されていますね。
日髙:試験に合格すると監査法人に就職する人が大半ですが、会計士を目指したときの会社側に立ってステークホルダーとフェアで友好的な関係を構築・維持する立場になりたい、という志を実現するためには、監査法人という選択肢はありませんでした。
当時の会社はまだ2年目で、規模も20人くらい。創業者の二人が監査法人トーマツの株式公開部門にいたことから、株式公開コンサルティングからビジネスを始めていました。規模としては大きくありませんでしたが、私のような意気込みをもった鼻息の荒いメンバーを積極的に採用していたのです。お客様からご用命を受けて、数々の業務をこなしていくと、自分の経験値もその分増えていきそれが楽しかったですね。
独立を考えたこともありましたが、あるとき、ファウンダーの佐藤(現:太陽ホールディングス株式会社 代表取締役社長)がお酒の席で、私みたいなやりたいことを持った人間に対して「そういうメンバーが『もう少し残ったらもっと面白いことがあるかもしれない』と思える場を提供するのが俺の役目だ」と言ってくれたのです。それを聞いて「そう思ってくれている経営陣がいるなら、どんな面白いことがあるのかを見てみたい」と思いました。そうして仕事をしているうちに、今の立ち位置になっていました。今は私が佐藤の言っていた役割を引き継いだ一人として、メンバーにどういった機会の提供ができるのかを考え続けています。
創業当初から続いている徹底的なハンズオンコンサルティング
これまで様々な案件に携わってきた中で一番印象的だった出来事を教えてください。
日髙:印象に残っているのは再生の案件ですね。
ある案件では、何を優先するのかという方針が社内でも異なっていたことがあります。この会社を再生させたいという思いは一緒ですが、オーナーを守る、雇用を守る、といった優先順位が異なっていました。CFOと一緒に再建プランを作って、銀行団へ説明に回って返済条件の調整をしましたが、今では財務体質もピカピカの会社になりました。再建プランの同意を取り付けるだけでなく、銀行との関係を軌道修正するためのインフラを整えた案件ということで印象深いです。その会社が無くなるだけで数千人の雇用が失われるのですから、お役に立てて本当に良かったと思いました。
会社が追い込まれている中で優先順位をつけなければいけない、会社のステークホルダーの中で何を優先するか、何を後回しにするのかを議論しなければなりません。会社のステークホルダーの中で大きなものといえば投資家と金融機関です。しかし、この2つのステークホルダーは行動原理が全く違います。お金の返済順位も異なります。理論的には、お金を返済するのはまず金融機関。そして余ったお金を投資家へ、となります。しかし再生という局面では、事業から得られたお金をどこに振り分けるかということで揉めることが多くあります。
この2つの相反するステークホルダーをまとめあげるには法律の知識も必要ですし、彼らの行動原理も知らなければなりません。これが非常に難しいところです。
再生の局面は彼らの欲がストレートに出てきますから、その中で私たちの再建プランに乗っかろうと思ってもらうためにはどうしたらいいのか。“投資家にはこのストーリー” ”銀行にはこのストーリー”と風見鶏のように話すのではなく、同じことを話して両方に納得してもらうことがCFOとしての腕の見せ所ですし、その方が会社も持続していきやすいのだろうと思います。
近年、上場企業はアクティビストの登場だったり、未上場企業は事業承継の局面を迎え株主としてのオーナーチェンジといった事象が普通になってきたこともあり会社の持続的成長を実現するために必要となるステークホルダーとの関係にこれまでにない大きな変化が起きています。その領域に直視して取り組まなければならないCFOは圧倒的に不足しています。そして彼らをサポートするには問題に潜む複数、そして有機的に関連づけられる課題に同時に取り組む必要があります。たとえば業務フローの整備をしなければならないという話があったとしても、弊社では業務フローの整備が必要だと考える背景からヒアリングしていきます。「業務フローよりも個人の業績報酬と連動しているKPIの方に問題があるかもしれない」とか「人事制度に問題があるかもしれない」といった、別の問題に気付くことも多々あります。私たちは現場の中で何が問題なのかを見極め「こちらの方が問題だからこちらを先に解決させてほしい」と経営陣と相談し状況によってはそちらを優先し対応します。そういうスタンスは創業時から一貫して続けているハンズオンによる支援スタンスがなければ実現しえないと考えていますし、それが他社と違う特長なのだと思っています。
設立当初から変わらぬ経営理念。「経営者の支援・輩出」とは
コンサルタントやCFO人材を育成していくための秘訣を教えてください。
日髙: コンサルタントやCFOとしてどういう人が一流になっていくのかというと、一つ一つのミッションをちゃんとやりきることです。
”事業からキャッシュフロー・利益を得る” ”債務を返済する” ”配当として還元する”など、そうした約束をきちんとやりきることで、ステークホルダーの信頼を得ることができます。それができるのがCFOだと思いますから。
その力を鍛えてくれるのは現場ですし、現場で経営者・社員と向き合えば、生々しい切実な願いを聞きます。そのように同じ釜の飯を食うような感覚になっていると、もしこの会社が無くなって全員が失業するなんてあってはならないと思いますから自分が「やりきる」ことの自覚と責任も芽生えます。
そのような人材に対して日髙さまはどのような活躍の場を提供したいとお考えでしょうか。
日髙:このあとの10年で投資事業を行い、投資した先にCFOとして送り込む。行った先できちんとガバナンスを掛けてもらって、もし揉めたら戻ってきてもらっていい。戻ってきたらコンサルをしてもいいし、私たちが用意する他の投資先のCFOになってもいい。健全に堅実にCFOとしてのキャリアを積み上げていく場を提供していきたいと思っています。
例えばベンチャー企業のCFOは安定的にキャリアを積み上げることがとても難しいのが現状です。多くの場合、先に創業者であるCEO、COOがいて、そろそろ上場したいなという段階で監査法人にいた若者をCFOとして招きます。CEO、COOは会社を飛躍的に成長させたいと考えていく過程で、コンプライアンスやガバナンス的に問題がある判断をするケースがあります。そんな時、それを止めなくてはならないのがCFOなのですが、そういった諫言を望まない方もいたり揉めたりすることも多いようです。そうして短期的なキャリアになってしまい転職を重ねていく人が多いことも、CFOというマーケットを狭める理由になっているように思います。
私たちは日本におけるCFOの不足を課題として認識し、それを解消するためのインフラを整備しようとしています。CFOを送り出すというシステムは現在整備中ですが、その一つとしてファンドの組成を進めていますし、CFOとして来てくださいという話もいくつかの企業からいただいているので、年明けには少しずつ実現していきます。このあとの10年をご一緒できる方をお待ちしています。
【編集後記】
「CFOとしてステークホルダーの方たちの前でどういう役割をこなすべきかと考えるのは、役者としての思考が活きているかもしれない」ともお話してくださった日髙さま。学生の頃は劇団に所属されていて、有名脚本家の作品に役者としての出演経験もあるんだとか・・・!投資事業も始まるとのことで今後がとても楽しみです。日髙さま、お話いただきありがとうございました!
株式会社エスネットワークス
●創業
1999年(平成11年)10月7日
●所在地
東京都千代田区丸の内2丁目7-2 JPタワー23階
●理念
「経営者の支援」及び「経営者の輩出」を通じて、日本国経済に貢献する。
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