今回話を伺ったのは、一般社団法人事業承継ドクター協会の理事長:佐奈徹也氏(株式会社古田土経営/執行役員)、理事:眞船雄史氏(税理士法人みらいコンサルティング/代表社員)。設立から、半年で600会員数(2021年4月時点)を抱える当協会。それぞれの会社での業務を抱えながらもなぜ共同で協会を設立したのか。事業承継業務に懸ける思いとは。当協会のことや、事業承継の難しさ・面白さ・やりがいなどを前編・後編の2回に分けてお届けします。(取材・撮影:KaikeiZine編集部)
佐奈氏と眞船氏の運命の出会い
― 協会を立ち上げたきっかけについて教えてください。
佐奈:古田土経営代表の飯島とみらいコンサルティングの岡田代表が、ある会合で「これからは事業承継をやらないといけませんよね」と意気投合し、そのあと岡田代表から「意見交換しませんか」というお話をいただいたのが始まりです。
眞船:その意見交換会のあとに、「次は実際に現場でやっている人間を」となって、弊社から私ともう1名候補が出て、たまたま日程が空いていたのが私でした(笑)。あれから佐奈さんとは知り合ってまだ1年も経過していませんが、今となっては事務所の人間よりも会っています(笑)。
佐奈:眞船さんとはその時初めて会いましたね(笑)。
― 今とても仲が良さそうにされているので、もともとのお知り合いなのかと思いました!
そこから立ち上げまでどのような思いがあったのでしょうか。
佐奈:私が元々所属している古田土会計グループでは、ミッションとして「日本中の中小企業を元気にする」を掲げています。中小企業が活性化したら、中小企業で働いている多くの人々に還元されますし、日本が良くなります。だからこそ事業承継はもっとしっかりやらないといけないし、それを相談されているのは会計事務所のはずです。
中小企業の事業承継をサポートする件数をもっと増やさなければならないと思っていますが、会計事務所1社でやるのは限界があります。もともと、弊社ではお客様に対して、他の士業の方や会計事務所の方と連携して、提案や実行支援をしていましたので、この輪をもっと広げていきたいと思いました。であれば、会計事務所としてやるより、思い切って一般社団法人にして、開かれた組織にした方が、会計事務所や士業の皆さんと連携して輪を広げやすいかなと思いました。
先日もとある地方の会計事務所を二人で回っていましたが、どの事務所も事業承継コンサル業務を行うための人材育成について悩んでいました。やはり、自社だけのリソースで完結するのは難しいと思います。事業承継ドクター協会を作った目的もそこにあります。
事業承継を1件でもできたら「あ、できるな」と思ってもらえると思いますし、こんなにやりがいのある仕事を会計事務所の方に体験してほしい。そして、事業承継をしたということは、その会社がこの先30年、40年存在するということです。事業承継は新規の顧問契約先が増える絶好の機会でもあるのです。「分からないから」「難しそうだから」と、こんな素晴らしいチャンスを逃していたのではもったいない。私も初めの一歩は怖かったです。だからこそ他の士業の方に聞きやすい環境を作ったら、事業承継に踏み込めるのかなと考え、協会を作りました。
お客様の最善を常に考え、捨てたプライド
― 事業承継支援は難しいイメージがあります。実際、いかがでしょうか。
佐奈:最初に事業承継の相談を受けたとき、そもそも何から手をつけて良いのかわからず、不安と焦りばかり募ったのを覚えています。お客様からご要望をお聞きしても、経験が乏しく何が正解なのか分からない。自分も経験はないし、当時事務所(古田土経営)には事業承継部門はなく他の誰にも聞けない。どうしたらよいのか悩みましたね。
― どのように解決されましたか?
佐奈:本を読んでも分からないことがたくさんあったので、経験のある他の会計事務所やコンサル、また弁護士や司法書士などの他の専門家の方の力をお借りしました。先ほども話しましたが、弊社は内部で全て解決せずに「餅は餅屋」で色々な方の力を借りて一番いいサービスをお客様に提供しようという文化があったので、アライアンスを組んでチームで解決にあたりました。それだとお客様が取られてしまうと思われるかもしれませんが、実はお客様が感謝してくださるのは私なのです。確かに一緒にやってくださった会計事務所の方も感謝されるとは思いますが「こういう人を紹介してくれてありがとう」と心から感謝されますし、顧問契約も続きます。つなぎ役・ハブのような役割であってもお客様から喜ばれるというのは、印象的な体験でした。
― 眞船様はいかがでしょうか。
眞船:そうですね。当時は事業承継支援を難しそうと考えていました。しかしそうすると佐奈さんもおっしゃっていたように事業承継が日本中に拡がっていきません。税理士は、お客様のために何とかしたいという気持ちを持っていらっしゃる方がとても多いです。ただ、良い人過ぎて収益化できないこともあるのではないでしょうか。事業承継支援は比較的報酬も高くいただけます。潜在的・顕在的ニーズは必ずあるのに、税務顧問契約だけで終わるのが、もったいないと思います。
― 一般社団法人事業承継ドクター協会は会計事務所同士での協業ですよね。他の事務所と一緒に新しいことを始めるということに抵抗はなかったのでしょうか。
佐奈:どちらの事務所も、経営計画として、会計事務所がプラットフォームになるという目標を掲げていました。代表同士も、事務所も同じベクトルを向いていたためスムーズでした。どちらも目の前の自分たちの損得に固執するのではなく、市場が必要としていることを優先していれば自然と利益は付いてくるという考え方だったので一緒に組みやすかったですね。
― そもそも、「一般社団法人事業承継ドクター協会」という名前の由来は何でしょうか。
佐奈:実は私が名前を考えたんですけど眞船さんはもうちょっと考えたほうが良いって顔するんですよ(笑)。
眞船:すみません、私ミーハーなのでもっとかっこいいというか流行りっぽい名前が良いなと思っていて・・・(笑)。
佐奈:ははは(笑)。会計事務所は企業の「かかりつけ医」のような存在だと思います。しかし時には、地域医療と一緒になって診てあげられる総合病院が必要です。そして、その総合病院の役割を果たすのが、一般社団法人事業承継ドクター協会。自社の商品を推すのではなく、「ドクター」として診断をした上でお客様に必要なものを見極めて、より健康的かつ筋肉質な会社にできるようにしたい。そういう願いを込めて付けました。
― とてもシンプルな名前で分かりやすいなと思っていました。由来も素敵ですね。
現在、会員数が600を超えています。上手くいっていることや課題に感じられていることはありますか。
佐奈:事業承継のコンサルは通常の顧問料に+αで行う業務で一般的には高単価な商品ですし、今後の新規顧問先と出会う絶好のチャンですので、我々としては「どんどん挑戦して頂きたい」と思っています。ただ、事業承継コンサルは予防ビジネスに近いため、提案から入らなくてはなりません。しかし目の前に起きていないリスクに対して、ただでさえ忙しい会計事務所や税理士の先生が新たに足を踏み入れるのは難しい。季節業務もありますし、通常の業務に加えて事業承継支援を始めるのはハードルが高いようです。それが課題ですね。
事業承継支援を行うための人材育成
― 事業継承支援は未経験の方が多いかと思います。対応できるようにするために会員の方へは具体的にどのようなことをされていますか。
眞船:ちょうど今、マニュアルや「事業承継支援の色々な型」を作っています。税務顧問契約だけでお客様と接していた会計事務所の方から話を聞くと、今まで新しいものを提案する経験がなかったんだなということが分かります。これはそういった会計事務所の方と接して初めて分かったことです。
経験がない方でも事業承継の提案・支援が行えるように、案内資料から実際の税務的な資料まで作って、そのまま使っていただければいいなと思っています。マニュアルをフルオープンで定期的に発信し、Webセミナーを開催してノウハウを提供しています。
士業は、どうしても自社のノウハウを外に出したがらないことがあると思いますが、それでも「一社でも多く事業承継を」と思ったら自社のノウハウを外に出すのは避けて通れません。ですから提案書からクロージング、実行支援まで、当社のノウハウをどんどん吸収してほしいです。
佐奈:今までの協会のスタンスは、ノウハウを教えるから皆さんでやってみてくださいというスタンスだったのですが、自分が始めた当時のことを思い出すと、それでは厳しいなと思いました。ノウハウを教えるだけでなく、最初の1、2回を実際に見せることが大事だと思うようになりました。
今は会員の方と協会とで共同で受注して、並走しながら事業承継支援を行っています。また、私たちは地域ごとに我々のような伴走してくれる方を探す活動を行っています。今まで事業承継を行ってきた会計事務所を巻き込んでいこうとしているのです。それができれば、企業の事業承継の拡がりも掛け算で増えていくでしょう。そして日本の事業承継の将来を考えて参加していただける会計事務所ももっと増えていきます。
叶えたい2つの目標
今後の展望について教えてください。
佐奈:2025年が事業承継の転換期と言われています。社長の平均年齢が70歳に近くなって、事業承継も今より差し迫った課題と捉える企業が増えるでしょう。そんなときに、事業承継といったらこの協会といわれるくらいにしたい。事業承継のあらゆる課題を解決できる方々と提携して、この問題に取り組める協会にしていきたいと思っています。これが大きな目標です。
そして、もう一つの目標は、会計業界という職業の魅力を皆さんに再認識してほしいということ。私は会計事務所出身ですし、会計事務所の素晴らしさもとてもよく分かっています。こんなにやりがいのある仕事はないと心から思っているのです。今、税理士人口がどんどん減り、会計事務所が今後AIの台頭で無くなるとも言われていますが、そんなことはありません。これほど中小企業の役に立てる職業はないのですから、それをもっとアピールしていきたい。これらをあと17年ほどで達成したいですね。その頃には60歳になっていて自分が事業承継をされる立場になっているかもしれません(笑)。
眞船:協会としては、12月15日までに会員数2千まではいきたいと思っています。それにはアライアンスパートナーを見つけて、一緒にセミナーをして事業承継の認知度を上げていく必要があります。
あとは、若い人たちにとって魅力のある、目指したいと思える業界にすること。そして会計事務所の中でも選ばれる会計事務所になるためには給料を上げていく必要があります。そしてその両方の解決策となり得るのが事業承継だと思っています。プレイヤーがそもそも少ないので、今がチャンスです。ぜひ思い切って飛び込んでほしいですね。
【編集後記】
話を聞けば聞くほど日本の明るい未来を想像することができ、私までワクワクしていました。忙しくしていると言いつつも楽しそうにお話されているのが印象的でした。佐奈様、眞船様ありがとうございました!後編ではそんなお二人が会計業界を目指されたきっかけや事業承継の更なる魅力についてお届けします。
一般社団法人事業承継ドクター協会
●創業
2020年10月
●理事
理事長:佐奈 徹也(株式会社古田土経営 執行役員)
理事:眞船 雄史(税理士法人みらいコンサルティング代表社員)
●理念
中小企業のドクターとして、1社でも多くの中小企業の事業承継をサポートすること
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