前編では、一般社団法人事業承継ドクター協会の理事長:佐奈徹也氏(株式会社古田土経営/執行役員)、理事:眞船雄史氏(税理士法人みらいコンサルティング/代表社員)に当協会の立ち上げから今後の展望まで伺った。そこで今回は、佐奈氏と眞船氏がなぜ会計業界を志したのか、日々現場で事業承継に携わっているお二人より、事業承継業務で苦労したことややりがいに感じたこと、事業承継の必要性についてなど、赤裸々にお話いただいた。(取材・撮影:KaikeiZine編集部)
会計業界を目指した理由はなんだっていい!挑戦できる環境、充実した今があるからそう思える
― お二人が会計業界を志したきっかけを教えてください。
眞船:当時お付き合いしていた人に負けたくないと思って日商簿記2級を独学で勉強し、3カ月で合格しました。もともと商業高校出身だったので、簿記の基礎知識があったというのも大きいですね。そのときたまたま自分のゼミに予備校に通いながら日商簿記1級の勉強をしている人がいて、ダブルスクールという響きがかっこよく思えたので(笑)、自分も通おうと予備校に行きました。予備校の受付で話を聞くと、「どうせ目指すなら将来に繋がる資格を目指した方がいい」と言ってくれて、税理士を目指すことに決めました。今まで勉強していなかった分、逆に勉強が面白く感じて朝から予備校が閉まるまで、ずっと勉強していました。
佐奈:会計業界を目指したのは、親が中小企業の経営者で自営業だったので、自分も手に職を付けたいという意識があったからです。何か資格を目指そうと予備校のパンフレットを見たところ、税理士は税金の計算とコンサルティングもできると書いてありました。親のように中小企業を経営している人の助けになれる、相談相手になれる身近な職業なのだと知って、とても魅力を感じましたね。税理士を目指して、大学院にも進学しました。
私たちの時代は、就職氷河期であると同時に、まだ終身雇用で一生をその会社と添い遂げるという風潮でしたが、そういう自信がなかったのも税理士を目指した理由です。小中高の担任の先生からは「学校の先生になったら?向いているよ」と言われていました。世話好きというよりは、相談されやすいタイプだったのだと思います。
― その後、現在に至るまでのキャリアはいかがでしたか。
眞船:23歳で税理士試験5科目合格しました。一年間だけ会計事務所でお客様と接してみて、やはり自分がやりたいのはコンサルだと気付きました。そこでなぜか(笑)会計士試験を受けまして。「コンサル会社に行こう、『みらい』で『コンサル』というのはかっこいい」と考えて、HPから現職(みらいコンサルティング)に応募しました。大多数がエージェントから応募する中で、HPからの応募が珍しかったのか採用してくれました。結局、会計士試験の論文は落ちたのですが、会社が「税理士試験に合格しているんだったら、税務チームで2年間の実務経験が必要だし名刺に書けるようにしたら?」と言ってくれました。
ただ、正直にいうと最初の1年目は辛かったです。税理士資格があるというだけで、世の中の経営者との知識のギャップがあって全く良い仕事ができませんでした。2年目になって基礎的な税務の基盤をしっかり作ったら、お客様とのコミュニケーションが取れるようになってきました。この頃には、またコンサルをやろうという気持ちが戻ってきました。
佐奈:私は大学院を卒業して、今の古田土会計・古田土経営に就職したのですが、仕事に圧倒されて3年で辞めました。もともとコンサル志望だったので、経験値を上げることで社長から信頼を得られる、だから何でもやろうという意識は当時からありましたが、会計業界は勉強をしてきた人が入るところですから、他の人に負けたくないと思って肩肘を張ってしまったのでしょうね。しかもその時期に親が倒れて、中小企業の経営に携わるのも親孝行かと思って実家に戻りました。ただ、継ぐのではなく、事業縮小していく作業を2年ほどしました。
そしてそのあと、もう一度古田土会計・古田土経営に戻ります。また会計業界に戻ろうと思ったときに他の事務所の話も聞いたのですが、当時の会計業界は税法に対してのアピールばかりでした。しかし私がやりたかったのはコンサルティング。その点、古田土経営は「日本中の中小企業を元気にする」という分かりやすいミッションで、中小企業にとって会計事務所が一番役に立てる規模でしか仕事をしません。会社が50億円規模の企業に成長したら、他の会計事務所に渡します、という事務所なのです。そういうところで働いていたので、他の会計事務所の説明を聞いてもあまり魅力を感じませんでした。
組織に在籍し続けたことで気が付くことができた事業承継の魅力
― 現在お二人は入社されてから一カ所に長く在籍されていますが、これまで独立を考えたことはなかったのでしょうか。
眞船:ありますね。常に天秤にかけていますし、会社にも言っています。面白くなかったらやめると言ったら、社長から面白い仕事は自分で作るものだと言われました(笑)。でもそういう思考でいると、良いタイミングで出会いがあります。いまこうして古田土経営の方と一緒に仕事ができていますが、当初は会計業界の方と一緒にやるという思考がありませんでした。一緒に社内開業のような形で仕事ができて、とても面白いです。
佐奈:独立したいという気持ちは何回かあったと思いますが、本気で考えたことはありませんね。ただし「一番自分の楽しい仕事ができるのはどこか」という基準はあります。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、会計事務所の良いところは、お客様の役に立つことが自分の評価に直接繋がること。そういう業種は少ないのではないでしょうか。頑張れば頑張るほどお客様の会社が良くなり、ありがとうと言ってもらえる上に、顧問料をいただき、新しいお客様のご紹介をいただくことも。そこが会計業界の面白みですし、最高の職業だなと思っています。
あとは、独立したら一からやり直さないといけないというのも、独立しない理由ですね。組織に属している今だったら大きい視点で見られることも、独立後に足元の利益をまずはなんとかしないといけないとなったらなかなか難しい。私が古田土経営に入ったときは、80人いなかったくらいですが、今はグループ含めて360人ほど。メンバーが一緒にいて仕事ができるのは楽しいですよ。教育していて成長していく姿が見られますし、チーム単位で喜ばれるのは嬉しいです。そしてお客様の会社も、自社の後輩も、成長していく姿を見るのが何よりも嬉しいです。
― 事業承継に携わるきっかけや、ご苦労ややりがいについてお聞かせください。
眞船:現在の執行役員が「今よりもっと面白い仕事だし、独立したらできないよ」と、組織再編や事業承継を勉強するきっかけを作ってくれました。実際にやってみると、こんな世界があるんだと驚きましたし、まだまだやれることはたくさんあると思えましたね。
事業承継で苦労したエピソードもありますよ。金融機関からお客様を紹介いただいて事業承継支援をやっていますが、金融機関から「こういうスキームを組んだら?」と言われることがあります。しかし、それがお客様のためにならないスキームの場合もあるのです。そういった場面で、お客様を取るのか、紹介元を取るのかとなって、私はお客様を取りました。そして金融機関とケンカして(笑)上司が謝りに行く事態にまでなりました。そのお客様とは現在6、7年の付き合いになっているので結果的には良かったのですが…(笑)。今だったら金融機関も上手く巻き込む進め方ができると思いますが、当時は若かったのでそういうやり方しかできませんでした。
― 佐奈様はいかがでしょうか。
佐奈:江戸川区にある会計事務所なので製造業のお客様も多いですし、たまたま自分のお客様の社長たちが世代交代の時期だったのが、事業承継に携わるようになったきっかけです。親子だと素直には話せないこともあります。その間に入るのが町の会計事務所の役割でした。
面白さややりがいはとてもありましたね。お客様から悩みや本音を聞けますし、将来設計やご子息のやりたいことも相談いただきます。会計事務所の仕事の中では一番信頼関係を築けるタイミングですし、喜ばれながら通常よりも高い報酬をいただけます。お困りごとというのは、報酬をもらいやすいのです。会計事務所は顧問契約なので報酬もルーティンになりがちです。それとはまた違った仕事があるんだと新鮮でした。
古田土経営は若くても挑戦させてもらえた風土がありました。資産税は年齢が上の人がやっているイメージがありましたが、34、5歳で関わらせてもらえたのは大きかったです。
30代で役員に抜擢して頂きましたが、事業承継部門を立ち上げて成果が出せたことも大きかったと思っています。毎月の顧問料は3~5万円程度ですが、事業承継はスタートが10~30万円。自分のお客様だったらそれだけの金額をいただきにくいかもしれませんが、新しいお客様ならいただきやすいです。顧問ではないなら提案料で100万円単位も可能です。あとは保険を使うアライアンスや不動産の紹介も。そうやって上手く提携を絡めたら、年間5千万円くらいの売上も夢ではないです。 しかも、事業承継はプレイヤーがいないから新たなお客様を紹介してもらえるのです。後継者の未来を考えるから後継者の方とも現社長とも仲良くなるし、後継者の方の仲間はやはり社長。若い経営者はそういう繋がりがあるので、事業承継ができる会計事務所があるよ、と紹介をしていただけます。さらに後継者のための勉強会を開いてくれることもある。そういったご縁も広がりますし報酬もいいので結果を出しやすかったです。
― 一人のお客様に真摯に向き合うと結果が出やすいということですね。
佐奈:そうです。新しいお客様を紹介いただけて、売上もあって、信頼関係も築けて、良いことばかりです。ただ、そこに行くまでのハードルが高いと思われる方も多いのかもしれません。そんなときはぜひ、事務所の外を頼って良いと思います。会計事務所の方は、全部自分たちで解決しなければいけない、というマインドが強すぎるように見えます。もっと周囲を頼れば、最初の苦しいところを越えられて、その後は事務所にとってプラスになっていくのに、と思いますね。どんなに他を紹介しても、顧問先のお客様が信用しているのは、顧問をしている先生や担当者。紹介したとしてもお客様の期待に応えられればいいわけですから。
― お二方は相手のためにという思いが強いと思いますが、他の税理士の方もその思いが強ければ事業承継に携わることができるのでしょうか。
眞船:もちろんできます!お客様のお役に立ったうえで報酬をいただくのが本来の会計事務所の役割です。
佐奈:枠組みとして会計事務所が提案すると、今の顧問報酬と比較されてしまうと思います。そうなると、報酬を上げづらいですよね。そういったときに事業承継ドクター協会のような枠組みを使えば提案しやすくなるのではないでしょうか。
【編集後記】
インタビュー中は終始笑いもあり、楽しく話してくださったお二人。お客様を心から大切に思う気持ちが十分に伝わりました。事業承継に携わってみたいと少しでも思っているそこのあなた!勇気を振り絞って一歩踏み込んでみてはいかがでしょうか。陰ながら全力で応援しています。佐奈様と眞船様が笑顔で迎え入れてくださります。佐奈様、眞船様ありがとうございました!
一般社団法人事業承継ドクター協会
●創業
2020年10月
●理事
理事長:佐奈 徹也(株式会社古田土経営 執行役員)
理事:眞船 雄史(税理士法人みらいコンサルティング代表社員)
●理念
中小企業のドクターとして、1社でも多くの中小企業の事業承継をサポートすること
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