今回ご紹介するのは税理士・植島悠介氏。税理士としてのキャリアをスタートさせたのは24歳の頃。税理士試験受験時には1年で3科目同時合格した実績もあり、現在は北海道・札幌市にある税理士法人の代表として30名のスタッフを率いる実力派会計人だ。しかし、税理士試験の受験すらできなくなってしまう危機があったと語る。その過去とは…?2021年8月に税理士法人シマ会計から、税理士法人Future Createに社名変更。“4年後までに従業員100人、売上10億円”を目標とし札幌から全国へ羽ばたこうとしている植島氏のこれまでのキャリア、そして今後の展望と共に話を伺った。(取材:レックスアドバイザーズ 市川)

広い世界に行きたいと思い札幌に出るも、留年を経験。

税理士を目指したきっかけについて教えてください。

植島:私の実家は農家で、札幌から1時間半くらいの新篠津村というところで育ちました。村から外に出るバスは1日に3、4本。買い物できる大きなお店もないし、不便さを感じていました。そんな私が当時夢中だったのがインターネット。パソコンから日本中の情報を見ることができ、これには驚きました。

Googleアースなど飛行機でないといけないようなところにも一瞬で移動ができ、その街を知ることができる。もっと広い世界があるのだと好奇心は更に高まり、パソコンが使える時間が多そうという単純な理由で高校は商業科に入り、その流れのまま札幌の大原簿記専門学校に進学しました。この段階では、とにかく少しでも都心のほうに行きたいという気持ちしかなかったので、税理士になりたいというわけではありませんでした。

とはいえ入ってしまったからには目指すしかないと思い、入学してから日商簿記1級、全経簿記の上級の勉強を始めました。しかし当時18歳の自分は都会の札幌に出られたことが嬉しくて、毎日遊んでばかり。

結局合格したのは、日商簿記2級だけ。商業高校で学んだ簿記の知識で取れたものでした。

ここでピンチが訪れます。大原では、1年生で日商簿記1級に受からなければ税理士を受験するコースには進級できず、2年生になると就職活動に有利な資格を取るコースに振り分けられてしまうのです。このときに、初めて危機感を覚えました。私は高卒なので日商簿記1級の資格がなければ、税理士の受験資格すら与えられなかったのです。

広い世界に来たつもりが、将来の選択肢がむしろ狭まっていることにこのときようやく気が付きました。心を入れ替え、親にも頼み込みもう一度専門学校の1年生をやり直すことに。ここからは平日は朝7時半から夜10時まで学校で勉強、土日も勉強。今まで遊んでいた友人たちも離れて行き孤独を感じましたが、もうそれどころではないと必死でした。その結果、日商簿記1級・全経上級に合格ができ、税理士試験受験資格を取得することができました。

この一年は、私にとってターニングポイントにもなりました。もう一度やり直した1年間で勉強の習慣が付きましたし、成功体験を積んだことでどんなことでも頑張れば達成できると思えるようになったのです。

※税理士資格を受験するためには、大学卒業もしくは日商簿記検定1級合格、全経簿記検定上級合格が必要となる。

幅広い経験ができると思い少人数の会計事務所に入所するも大きな壁が…

21歳で4科目目に合格、そして、この時に現在の会計事務所に就職をされています。

植島:こうして晴れて税理士試験受験の資格を手に入れたわけですが、1年の遅れを取り戻したい気持ちもあって、税理士試験の受験初年度は記論・財務諸表論・消費税法の3科目を同時に勉強して、結果的に3科目に合格することができました。

今まで遊んでいた友人たちとは疎遠になりましたが、大原に通い詰めて必死に勉強をしている姿を見てくれていたのか、税理士を目指している先輩や他の仲間に声をかけてもらえるようになりました。とても優秀な方たちばかりで、税理士の仕事についてもここで教えてもらいました。

これまでとりあえず、行きつく先は分からず税理士試験の受験資格を取ることだけに目が向いていましたが、税理士とは税務を通じて中小企業の応援をするものだと知りました。

おじい様が税理士の先輩もいて、実際にどのようにして顧客に貢献しているのかを話すその姿に、税理士は魅力的な仕事なのだとモチベーションにもなりました。

21歳のときに4科目目の法人税法に合格。この頃、大原で1年だけ講師として働いていた同法人の代表・島元と出会い、声を掛けてもらったのが島元の事務所に就職したきっかけです。そこから14年勤務をしています。

所謂Big4と呼ばれる大手税理士法人も魅力的ではあったのですが、すでに体制が整った法人だと一つの事案の一部しか触らせてもらえないのではないかと思っていました。その点、島元は開業1年目だったので、何でも挑戦させてもらえると考えて入所を決めました。

しかし、少人数の事務所ならではの壁があることを入所後に知ることになります。

私が21歳で最初に担当したお客様が、飲食店でリーマンショックの影響を大きく受けていました。そのため最初にお会いしたときに「破産ってどうやったらいいのですか?」と尋ねられたのです。とても衝撃を受けました。消費税や法人税がいくらになるという次元ではなかったのです。その後もこういったお客様とお話しすることが多く、「借入のリスケってどうやったらいいのですか?」「個人の債務の整理方法を教えてほしい」など税務以外の質問を受けました。

「お客様のニーズって税金だけじゃないんだ」ということに気付けたのと同時に、ノウハウがなく、答えられず何もできない自分にも歯がゆさを感じました。

それこそノウハウがある大手の法人であれば1年目の社員でも、サポートはできたでしょう。

そのような日々が3年ほど続き、次第に顧客にしっかりとサポートをするには自分たちが強くなるしかないのだと思うようになりました。そのために当会計事務所にナレッジを蓄積してくれるような志を同じくする優秀な仲間を増やそうと人材採用にも力を入れることになります。2010年の頃です。

今後の展望―中小企業の副操縦士のような存在を目指して

製販分離によって事務所が大きくなっていったとのことですが、どのような背景だったのでしょうか。

植島:中小企業を強くする、そのために自分たちも強くなろう、強くなるためにノウハウをいかに貯めるか…採用をして人数を拡大していくことを決めたわけですが、少人数の会計事務所でよくあるのが、数年勤務をして退職を繰り返すという離職率の高さ。また一人の担当者が記帳代行から巡回監査まで持つことで顧客数も限られ属人化してしまう。その人しかできない仕事だからということで、残業の多さも会計業界にはつきものですが、それではいつまで経っても、規模もノウハウも増えないと思い、製販分離の組織にすることにしました。

当法人では、記帳代行チーム、決算チーム、顧客巡回チームといった形で役割を細分化し数名で1社を担当するという仕組みにしています。ここで懸念されるのが例えば記帳代行ばかりやっているとキャリアプランの見通しが立てづらくなってくるという点ですが、もちろん希望に応じて、別のチームに異動することも可能です。新卒においては、ジョブローテーションを導入しているので一通りの経験ができるような体制にしています。

労働環境という面では、当法人ではテレワークを実施したり、残業時間を人事評価に組み込んだりといった仕組みにしています。その甲斐もあり職員の残業時間は、繁忙期であっても、月平均7時間程度になりました。

こうした取り組みもあり定着率も上がり、現在、30名ほどのスタッフが活躍してくれています。少しずつではありますがノウハウも貯まってきたので、更に拡大をさせようと2021年8月に税理士法人シマ会計から、税理士法人Future Createに社名変更をしました。新たな展望として「4年後までに従業員100人、売上10億円」という目標を掲げることにしました。

今後は、アドバイザーとして全国の経営者をサポートしたいと思っています。もう一つの目標として掲げているのが「企業のファーストオフィサー(副操縦士)になる」こと。飛行機はパイロットだけでは飛び立てません。副操縦士がサポートして、目的地までたどり着けます。そういった役割を担えるサービスを、私たちが展開したいと思っています。

所謂コンサル業にはなりますが、コンサルは、飛行機でいうと「管制塔」。千歳空港から羽田空港に行きなさい、と指示するだけのようなものです。しかし経営には絶対的な正解はありませんよね。その会社に合ったやり方があるし、社長の思いに沿った方法でなくてはいけません。お客様のペースでサポートするなら、我々は管制塔よりも副操縦士になりたいのです。

税理士という仕事は、経営者の話が聞けて、会社の利益貢献にも繋げられる素晴らしい仕事だと思います。これまで、広い世界に行きたいと札幌に出てきて、少しずつではありますが道内のお客様からのご依頼を増やしてきました。そして顧客を通じ、色々な世界があるのだと知り、弊法人に新たに入ってきてくれたスタッフを通じ、知見も増えていきました。

これからは札幌市に留まらず、日本全国の企業を元気にし、私たちのサービスを通じて経営者の皆様が“目的地”にいけるようサポートしていきたいと思っています。

 

【編集後記】

会計業界をより魅力的にし、業界全体で働いてくれる人を増やしたいとも語られていた植島先生、勢いのある会計人のインタビューとなりました。この度は、ありがとうございました!

税理士法人Future Create (フューチャークリエイト)

●創業
2007年

●所在地

北海道札幌市白石区東札幌4条6丁目4番12号

メモリアル88ビル 2階

●理念

我々の成長がお客様の発展につながる

●企業URL

https://www.shimatax.com/index.html

 

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