前編に続き、後編では、会計事務所のM&Aの最新事情をはじめ、会計業界及びM&A業界の人材問題などについて、M&A仲介サービス大手のストライク(東京・千代田区)の代表取締役社長の荒井邦彦氏と、会計事務所業界の採用支援などを手掛けるレックスアドバイザーズ(東京・千代田区)の代表取締役の岡村康男氏に、最近の傾向と求められる人材などについて語りあった。(ファシリテーター:編集員兼論説委員 宮口貴志、撮影:KaikeiZine編集部)

株式会社レックスアドバイザーズ 代表取締役 岡村康男氏(左)株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏(右) 

企業だけでなく、会計事務所のM&Aも増えていますが、ストライクが仲介サポートするケースも増えていますか。

荒井:会計事務所のM&Aが増えているのは最近の傾向ですね。弊社がご支援させていただくこともあり、実績もある程度できています。

岡村:潜在的に後継者不在の問題を抱える会計事務所は多いですからね。

荒井:その通りです。会計事務所のM&Aの主な目的は、事業承継です。スタッフの雇用を守ることや、これまで信頼して関与してきた顧問先企業を守っていくのも会計事務所の使命です。地方においては、会計事務所が大きな雇用を生んでいることも少なくありません。そのため、所長個人の問題だけではなくなっており、会計事務所を継続させて、残していくことが重要になってきています。ただ、企業のM&Aと違い、所長の決心がつかず、2~3年迷われるというケースも少なくありません。

岡村:昔の監査法人のように大きな会計事務所がさらに事業を拡大してM&Aをしていくという流れもあるようですね。

荒井:おっしゃるとおりです。税理士の平均年齢は60歳を超えています。高齢化が顕著な税理士業界だけに、事業承継の潜在ニーズはかなりあると思います。

また、税理士が専門家責任を問われるケースが増えてきました。医師もそうだと思いますが、専門家の責任がだんだん重くなっている傾向にあります。過失で納税者が損害を被ったときに、税理士の賠償責任は容易に認定されやすいのです。

小さな会計事務所では将来、リスクが高くて対応できない仕事も増えると思います。大きな会計事務所になり、専門性の高い資格者を多く雇用し、質の高いサービスを提供する一方で、資本規模を大きくし、損害賠償リスクにも備えていくことが必要になると思います。

株式会社ストライク 代表取締役社長 荒井邦彦氏

会計業界で働くことの魅力

荒井社長はどうして公認会計士を目指されたのでしょうか。

荒井:学生時代から漠然とですが将来は起業したいと考えていました。ただ、いきなり起業する自信はありませんでした。そのため、いずれ起業するにあたって、何か役に立つことをやろうと考えていました。大きな会社に勤めたらいいのか、それとも、手に職を付けた方がいいのか、いろいろ悩んでいるとき、大学の生協で資格学校のパンフレットを目にしました。そこには「公認会計士は企業財務のドクターで、お金の流れやビジネスが理解できる」と書いてあったのです。このとき、公認会計士の資格を取得し、企業のお金について知識を身に付けようと思いました。公認会計士になり監査法人に勤務し、数年間は監査業務に従事しました。その後、今のこの会社を立ち上げました。ビジネスを始める素養として公認会計士という資格を取得したことは、お客様のビジネスや自分の会社のお金の流れを理解するのに今も役立っています。

岡村:公認会計士として、仕事を続けようとは思いませんでしたか。

荒井:起業するまでのステップとして、公認会計士を選んだので、資格としての公認会計士には拘りはありません。

とはいうものの最近、若者の中で、会計業界に夢を持てない人が増えていることは残念に思っています。10年ほど前のリーマンショックのあと、監査法人に残っていた公認会計士の同期と久しぶりに会ったら、リストラされたと言っていました。資格学校は「生活に困ることはない」と言っていたのに、と衝撃を受けましたね。

最近では、会計事務所の先生と採用に関する話をしているとき、資格を持っている税理士に跡を継いでほしいと話しても、責任ある立場には就きたくないと断られると言っていました。そして、公認会計士になりたい、税理士になりたいという若い人も減っているというのです。

私は、いまは企業の経営者ですが、会計業界の魅力について身をもって知っています。いろいろな会社の財務や税務の数字が見られるのは、会計事務所ぐらいです。銀行だって一部しか見られません。いろいろな会社の数字を見られるのが会計事務所。こういったことをアピールできれば、魅力ある資格として若者にも響くのではないでしょうか。「AIで要らなくなる職業」と雑誌でも特集されていますが、そんな話を聞くと歯がゆく思います。

起業を目指す若者にとっても、さまざまな会社の財務や税務の数字を見てきた税理士や公認会計士の経験は、大きなアドバンテージになります。こんな魅力的な資格は他にはありませんよ。

岡村:本当に、そのお話には共感できます。今は大学生が学生ベンチャーのような形で起業することも多いです。そういう方々が最初からファイナンスの知識や経験を持ったうえで起業をしたら、その後の失敗の確率も低いでしょうね。

公認会計士や税理士の中には、会計事務所に勤務するのではなく、企業へ転職される人も少なくないと聞きますが、最近のキャリアに傾向はありますか。

岡村:年齢やキャリアによります。現在監査法人にお勤めの公認会計士は、企業志向が圧倒的に多いように思います。監査業務からコンサルティング、もしくは監査業務から企業のCFO(最高財務責任者)に、あとは独立を視野にどこかで税務の経験を積むために会計事務所に転職しようなど、いろいろな流れがあります。

あくまで傾向にはなりますが、公認会計士は、監査法人で大手企業を見てきたので、同規模感のクライアントがいる会計事務所の方がマッチするでしょう。逆に、税理士はどちらかというと個人の会計事務所で修業や勉強をされていることが多いため、小さな企業の方が馴染みます。方向性が違うという感じはします。

企業へ転職する上でのポイントは、どのポジションで行くかということです。下のポジションで大手企業に行っても、なかなか活躍はできません。監査法人でマネージャーを経験されてマネジメントができれば、ベンチャー企業や上場企業で活躍できるでしょう。荒井社長は、当初の段階から公認会計士という業務から一気に振り切られて、M&A業界に移られていますね。本当に先見の明があると感じます。

株式会社レックスアドバイザーズ 代表取締役 岡村康男氏

活躍するタイプ「ATM」とは

岡村:自社採用に関して荒井社長に伺ってみたいです。どのような人物像の方が活躍されていますか。

荒井:どの会社でも共通するのではないかと思うのですが、へこたれず、前向きにとにかく進んでいく人です。私はよく「ATM」と言っています。A=明るく、T=楽しく、M=前向きに、の略です。この3要素を踏まえた人がパフォーマンスを発揮している傾向があります。

M&Aという選択肢は重い決断です。しかし、重い決断だからこそ暗くしてはいけません。暗い人に説得されたくありませんよね。それよりも「仕方がない。あなたが言うなら決めるか。」と思ってもらえるような人物かどうかが大事です。

岡村:社員の中には、公認会計士などの資格者を持っている人もいらっしゃいますが、資格を持っている人とそうでない人で何か違いは感じますか。

荒井:資格によって職業経験は異なります。例えば監査法人は、まず公認会計士試験に合格していなければほぼ入社できません。税務書類の作成も、税理士でないとできません。資格を持っていないとできない職業経験はありますが、逆に言うとその差ぐらいです。それをカバーできる何かがあれば資格は関係ないと思います。

私はこれまでの経験から、リーダーとして組織を発展させられる人とは、できる人材をより伸ばせられる人です。できない人を引き上げて、チームを引き上げようとする人もいますが、それでは全体がそのできない人のレベルに合わせて下がってしまうことがあります。それよりも、できる人にレベルを合わせていけば、できない人もレベルの高い人に合わせていこうと努力するので、全体的にレベルは上がっていきます。当社では、資格の有無に関係なく、頑張りたい人が頑張る自由を保障してあげたいと思っています。

M&Aを国として整備し推進していく必要がある

M&A業界も盛り上がってきています。今後どうなっていくと思われますか。

荒井:中小企業のM&Aを国としてもっと推進していく必要があると考えています。後継者不在に悩む中小企業もありますが、それだけでなく、日本の抱えている問題、課題は山積みです。以前は中小企業のM&Aが事業承継という枠組みで語られていましたが、近年は経済産業省、中小企業庁が「生産性を上げるためのM&A」といううたい方をしています。

岡村:M&Aに関する企業ニーズがますます高まると思います。

荒井:日本の高齢化と人口減少は、労働者数と消費者数の減少を意味します。すなわち、経済規模が縮小してしまうわけです。経済規模を維持しようと思ったら、生産性を上げるしかありません。そして、生産性を上げるときに重要なのがM&Aです。中小企業が安心してM&Aを進められる環境にしていかなければならないと思います。

M&A仲介業の新規参入はあった方がいい。「うちとは違うけれども、あれは面白い」と刺激にもなりますし、業界の発展にも繋がります。しかし理念、理想を持った会社が出てこられるように、国として監督官庁の整備が必要になるのではないかと思っています。

株式会社ストライク

●設立
1997年7月

●会社概要

M&Aの仲介、企業価値の評価、企業価値向上に関するコンサルティングなど

●企業URL

https://www.strike.co.jp/

 

株式会社レックスアドバイザーズ

●設立

2002年10月

●会社概要

会計税務業界、士業、管理部門人材の採用、キャリア支援など

●企業URL

https://www.rex-adv.co.jp/



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