税理士法人エスネットワークス 代表理事の税理士 板村和俊氏、常務理事の税理士 井上浩氏は、クライアントへの訪問では、税務の話はほとんどせずに雑談中心と言う。なぜなら、雑談の中にこそ、クライアントの悩みが隠されており、それを解決することでクライアントの信頼を勝ち得てきた。今や、急成長中のエスネットワークス。お二人に急成長の秘密など、会計事務所の組織運営や今後の展望について話を伺った。(取材、撮影:KaikeiZine編集部)
顧客視点の組織運営とは
事務所の特徴、得意領域について教えてください。
板村:弊社は「経営者の支援及び経営者の輩出を通して日本国(アジア)経済に貢献する」を企業理念に掲げ、事業を展開してまいりました。
✓ 現場に入り込み課題を解決する
✓ 経営陣の意思決定を支援し現場を動かす
この2方向から会社を動かすことで「経営者の支援」を日々行っております。
また、CROとしての経営者支援、組織再編、国際税務及びTax Techなど経営者支援と専門性を兼ね備えた強みがあります。
弊社では法人税、資産税といったように部門ごとに担当者を分けていません。専門家としてどのようなニーズにも対応出来るように法人及び経営者につき一つのチームが受け持ちます。相談内容によって担当者が変わらないので、一気通貫して対応することができます。
お客様は相談内容を税法によって分けているわけではなく、悩みごととしてお話しされているので、同じ担当者というのは顧客視点とも言えますね。
板村:そうですね。そもそもそれが専門家としてのあるべき形であると考えております。私が訪問するときにはほぼ税務の話はせず雑談なのですが、お話ししていると経営者の口からいろいろなニーズ、悩みが出てきます。相談する際に、経営者自身は自分の悩みが資産税の話なのか、法人税の話なのか分かりませんよね。もちろんさまざまなお悩みに対応する力を付けるということは、経験がないスタッフにとって辛いこともあるかもしれません。初めの3年ほどは、悩むこともあるでしょう。しかし3年後には必ず力が付きますし、違う世界が見えてきます。
例えば個人オーナーの相続税対策は法人税のことだけはなく、所得税や贈与税などを総合的に勘案することが必要です。経営者の支援には相談を受ける側が全体を俯瞰する力が必要。「経営者の支援」の形は各スタッフの役割によって異なりますので、スタッフに合った全体的な知識の底上げを図っています。
組織や業務の振り分けの切り口が、顧客視点ですね。経営者の支援に重点を置いているということですね。
板村:そうですね。そして、経営者視点に立つためには、30分でも税務以外の話をする力を身につけてほしいとも思っています。税務について聞きたいというお客様はいらっしゃいますが、その話だけですとただの「税務に詳しい人」としか思ってもらえませんし、他とも差別化できません。その会社のビジョンや社長の展望を聞ける力があって、その上で「それならこういう会計・税務の処理ができるのでは?」と考えられるようになってほしいと思っています。
租税調査研究会の会員になったきっかけ
井上:税務上の取扱いが不明瞭なケースがどうしても出てきますので、セカンドオピニオンがほしかったというのが理由です。条文に書いてあったり、判例がしっかり出ていたりするものについては悩みませんが、実務上では判断に悩む部分が多々あります。租税調査研究会の研究員・主任研究員の先生方は、皆さま国税OB税理士で、当局側の税務の判断ポイントなど熟知しております。さらに、各税法分野の主要ポジションを務められた方ばかりなので、その分野の知識・ノウハウは他とは比較になりません。実務の現場では、税務調査の際にはどこがポイントになるかなど、税務当局に居たことがない人には分からないことも多くあります。判断に迷うケースでは、具体的な方向性について貴重なご意見をいただいております。
国税出身者のセカンドオピニオンサービスというのはいくつかあると思うのですが、そちらとの比較検討はされましたか。
井上:現在は租税調査研究会を含めて2団体にお世話になっていますが、租税調査研究会は電話での回答になるので、回答スピードが速いのが良いと感じています。ほとんど即日に返答がきます。他のサービスですと一週間くらい掛かってしまいます。弊所のお客様はなるべく早く回答がほしいというケースも多いので助かっています。「相談をしてくる税理士の先にはお客様がいらっしゃるから、待たせてはいけない」という気持ちから素早く回答をくださるそうで、助かっています。
租税調査研究会に相談して助かっていること
どの税法科目の相談をすることが多いですか。
井上:弊所では事業承継のコンサルティングを数多く手掛けているので、法人税や相続税が多いですね。特に相続税では、税務調査での対応を相談することが多いです。法人税では「調査官からこう言われているけれど、どう切り返したらいいですか」といった内容が多いです。切り返しの言い方ひとつでもだいぶ変わりますから。
これは相談してよかった、という案件はありますか。
井上:税務調査の立ち合いをしているときに、国税当局からさまざまな論点で質問されたのですが、どう回答すればいいか悩むケースもありましたが、それにどう対応すればいいのかを租税調査研究会の主任研究員に細かく教えていただいて、結果として是認に近い形で終わることができました。
税務調査の立ち合いをする税理士としては、当局側の指摘に納得できなければ、納税者の代理人として国税当局に納得のいく説明を求めることが必要です。そうしたやり取りをしていくなかで、国税当局側の指摘を受け入れる部分と、そうでない部分が出てきます。この判断が難しいこともあり、租税調査研究会の主任研究員の先生方に相談することが少なくありません。5個指摘されても、全て直さないといけないわけではありません。しかし税務では「総合的に判断します」となっていることが多く、それでは実際にどこに力を入れるべきか難しいのです。ですから個々のケースについて相談しています。租税調査研究会は、まさに”調査官の気持ちを教えてくれる”機関ですね。
相談する税務の取扱いに関しては、条文解釈や通達、判例で明確に否定されていない、事実認定が重要視されるものについては、アグレッシブな回答も多いように感じますね。聞く人によっては「やめておきなさい」と言われることも、租税調査研究会では納税者の方の立場を考えて「こうやったらいいんじゃないか」「こういう説明の仕方をすれば何とかなるかもしれない」といったアドバイスをいただけます。これは当所のスタンスとも近いので、アドバイスを有効に活かすことができます。
租税調査研究会はどういった会計事務所にとって便利だと思われますか。
井上:1人、2人の少人数の事務所では、疑問があっても聞く人がいないケースもあるでしょう。セカンドオピニオン的な拠り所があると心強いですよね。ただ、主任研究員の先生方は厳しい面もあり「ちゃんと調べてこないと、それなりの回答しかできないよ」とおっしゃいます。弊所は根拠条文を挙げて「こういうことだと考えていますが、どうでしょうか」と聞いているので褒めてくださっています(笑)。
所員が10人くらいで、税理士も数人いるような中堅の事務所にも、こういった機関が役立つと思います。お客様の規模も大きくなると、質問も難しくなってきますから。自分たちの出した結論を後押ししてくれるセカンドオピニオンの存在によって、事務所としてのクオリティも高まりますし、スタッフのレベルも上がるでしょう。お客様から質問があったときに「過去にこういう対応をしたから大丈夫です」と言えるノウハウがどんどん蓄積されていきますし、人数が多ければ多いほど経験値も2倍、3倍に増えていくでしょう。
租税調査研究会に相談して助かっていること
最後に、税理士法人エスネットワークスの今後の展望について教えてください。
井上:当所としては、経営者の支援と輩出を通じて日本経済に貢献していくことや、経営者に安心と決断を与えていくことが事業理念。ですから、どこまで行っても経営者に寄り添っていきたいと思っています。
税務のテクニカルな部分はある程度の上限がありますが、経営者と二人三脚でやっていくということにゴールはありません。お客様からの相談も、税務・会計以外でも、家庭のこと、新しい事業のこと、昨今のコロナなどで情勢が変わっていくときにどう対応するかといったことなど、内容は多岐に渡ります。オールマイティに対応できるような力を付けて、最終的には経営者に安心と決断を与えられるようにする。ここまでいけたら良いなと思っています。
そして、スタッフをある程度まで増やすことも、より経営者の方のお役に立つためには必要だと感じます。
経営者は決断するのが仕事。我々は前提条件を整理して、速やかな判断ができるお手伝いをしなければなりません。その際「他社ではこういう事例もありましたよ」とお話しできるようにするためには、事務所の人数を多くしてお客様が安定して増えていけば、事例も増えていきます。そうすれば、さまざまな事例をもとにもっと面白いご提案ができるはずです。
板村:引き続き意義のある面白い仕事をメンバーと一緒に行いたいと考えています。そして、経営者の支援が出来る人材・機会を増やしたい。そのためにはある程度の規模拡大は必要だと考えております。単純に大人数にしたいであったり、地方に支店が欲しいというよりも、同じベクトルを向いた人と仕事をしたいと思っています。
経営者に寄り添いながら、専門家としての視点で支援が出来る人材をどんどん増やしていきたいですね。
【編集後記】
一定の人数になると、法人税務部門、資産税部門など組織が分かれている会計事務所が少なくありません。お客様からするとどの相談が法人税で所得税なのかよく分からない、だから分けずに一気通貫で対応している、という理由を伺い、納得。貴重なお話を伺うことができました。板村先生、井上先生、ありがとうございました!
税理士法人エスネットワークス
●設立
1999年
●所在地
本社
東京都千代田区丸の内2丁目7-2 JPタワー23階
●理念
「経営者の支援」及び「経営者の輩出」を通じて、日本国経済に貢献する。
●会社HP