今回ご紹介する実力派会計人は、石川桂太氏。会計士試験合格後は、監査法人への入所はせず、大学4年生でインターンとしてインドの会計事務所へ。その後は、大手総合シンクタンクのインド法人にて日本企業の海外進出支援やM&Aの経験を経て株式会社エアークローゼットに入社。27歳で執行役員になり、現在は新事業創造、既存事業の推進、プラットフォームに蓄積するデータを当社および産業界の成長に役立てるデータサイエンス事業の立ち上げを行っている。「幸せになるには角度が重要」と語る石川氏の、キャリアの選び方、生き方について話を伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

英語が話せない…それでも自らの意思でインドの会計事務所へ

会計士試験合格後、インドに行かれています。

石川:大学3年生で会計士試験合格後は、インドの会計事務所にインターンとして入所しました。理由は、ある公認会計士の先輩の話を聞く機会で「公認会計士の資格だけに捉われるな。世界はもっと広くて、もっとすごい人がたくさんいる。」とアドバイスをされたからです。

会計士試験に合格したら監査法人に行くものだと思っていた私は目から鱗でしたが、たしかにそうだなと思いました。その頃は世の中もグローバル化や世界で活躍という風潮があったのと、その先輩の先輩がインドで働いていたことも後押しをし、インドに行くことにしました。

しかし実は英語がこのときは話せなくて…。2ヶ月ぐらいはコミュニケーションも取れず、さらには屋台の食事で体調を崩し入院をするなど最初は仕事すらしていませんでした(笑)。環境的には厳しい状況だったかもしれません。それでも少しずつ英語が話せるようになったり、移転価格税制など海外の法務知識を得られることで成長を感じることができ楽しかったです。

インドの人口は約14億人。仕事はもちろん、人種、宗教も多種多様でカースト制度の考え方も残っている。ものすごく貧しい人もいるし、日本では見られない貴族のような暮らしをしている人もいました。それ故、多様性の中で生き残らなければいけないという意識が高く、ビジネス面においては発展途上国ならではのハングリー精神のある方が多いように感じました。私も多少のことでは挫けず、このままでは日本に帰れないという気持ちで過ごしていました。

その後、大学卒業のために一時帰国し、再度インドに行くことになります。新卒で野村総合研究所(以下、野村総研)のインド法人にコンサル職として就職をしました。2年ほど在籍をしていましたが、基本的には日系企業がインドに進出してくるときの経営コンサルティングの仕事をしていました。1年目は自動車の製造業を中心に事業コンサルを経験し、2年目はM&Aの案件を担当していました。買収先を探したり、パートナーシップを結ぶためのMOU締結、最終的に弁護士と契約書を作ってクロージングまでを行っていました。

面白いなと思ったのは、M&Aの交渉に同席したときのことです。インドの人たちは交渉事にとても強い。M&Aも、買収する側は10億円だ、インド側は20億円だ。12億、14億となって、15億でクロージングするのかと思ったら、インド側が25億だ!と言い出したり(笑)。シルクロードで商売をしてきた国の交渉力を、目の当たりにしました。

マネジメント経験を通じ”人が成長する”ことの感動を知る

エアークローゼット社にはどのような経緯でご入社をされましたか。

石川:こうして約2年が経とうとしていたときです。この頃になると周囲の優秀さ、頭のキレ味に追いつけず“自分のいる場所はここではないのでは“という気持ちが過り始めます。あるとき、お客様だった日系の企業の方にそんなことをこぼしてみたところ、

「40、50代になって、頭の切れ味だけで仕事をしている人はいない。優秀な人達と結果を出すための、大きな器になれればいい」と言われました。

自分自身が突出した能力を持っていなかったとしても、周囲にいる人たちの力を合わせて結果を出せればいいし、そういうチームを支えられる器になりたい。それもあって、経営層、マネジメントへの興味が湧いてきました。

当社に入社をしたきっかけは、サービス開始前のティザーサイトを、Facebookでたまたま見かけて、洋服のシェアリングという概念が、人々のライフスタイルにイノベーションを起こせそうだと直感したからでした。代表の天沼の考える、『”新しいあたりまえ”をつくりたい』という思いにも共感をしました。

あとは、どう自分で計算しても、ビジネスとして利益が出なそうだなと思って(笑)。でも収益化が難しそうな事業にあえてチャレンジすれば、どんなことを自分が始める際にもその経験が役立つのではと思いました。

入社当初は、どうすれば事業が成り立つのかというモデルを作っていました。在庫をどのくらい持っていればいいのか、クリーニングやスタイリストなどコスト構造と、それに対する売上も計画しました。そこから事業計画を策定し、資金調達も行い、事業全体のプロジェクトマネジメントを行いました。新規事業を複数立ち上げ、マーケティング組織も創るなど、やったことないことしか、やっていませんでした(笑)。人数も増えるにつれて、メンバーをマネジメントする経験もするようになりました。

マネジメント経験を通じて思ったのが、人が育つ瞬間というのはハード面・ソフト面ではなくて、マインドやスタンスが変わるタイミングなのだということでした。スキルは急に身に付いたり、ある日いきなり仕事ができるようになるわけではないんですよね。それは、日々少しずつ身につけていくものです。

でも、マインドは変えようと覚悟したその瞬間から、変えることができます。プロフェッショナリズムや仕事に向き合う姿勢、そして自分に向き合う姿勢が変わる瞬間に人は化けるのだとメンバーとの仕事を通じて学びました。

私自身これまでハード面ばかりを気にして、インドの優秀なコンサルタントと比較し劣等感を感じることも多々ありましたが、”自分の中の幸せ”は外側にあるなにかと比較して決めることではなく“自分の内面”が決めるのだと思いました。

インドでの生活を改めて思い返してみると、貧困の格差が激しくそれでもみんな“自分が今持っているもの”に目を向け大切にされている方が多いように感じていました。

だからたびたび日本に帰ってきたときは綺麗な空気、清潔で安全なインフラがあるのに、なぜ丸の内を歩く日本人は下を向いているのだろうと疑問に思っていました。

これも本当の意味での幸福は、他人との比較ではなく“自分自身が決めること”なのかもしれません。

指導者の指導者になりたい。石川氏の夢とは

今後の展望を教えて下さい。

石川:私自身、新卒でインドでの仕事をスタートした経験は少し変わったキャリアかもしれません。周囲からは英語もロクに話せないのに、よく行ったねと言われることもありますが、幸福度には角度が重要だと個人的には思っていて…。要するに少し背伸びをして、そこに届く過程にやりがいや楽しさ、苦しいかもしれないけど成長があるんじゃないかなと。

私は常に、“自分が成長できるか”どうかの基準でキャリアの選択をしていて、その目標達成ができそうな体験を選んでいるだけなんです。変わった体験だからインドに行ったわけではなくて、優秀な人材が集まり、自分にとってはハードな環境であるインドで仕事をした方が成長できそうだから、という理由で行きました。言葉やカルチャーの壁には慣れるまで大変でしたが、それでも行ってみたい!という気持ちが勝ったので自分の心の赴くままに行動をしました。

それは現在、スタートアップに身を置くことにも繋がっていると思います。「何もない状態」から何かを作る、大きな伸びしろがある状態を体験するということ。そこが成長であり、面白さだと思います。

スタートアップで仕事をすることのメリットは、権限・裁量が大きいこと。私自身、仕事の面白さや、そこで得られる成長を目的にスタートアップを選びました。だからそういったスタートアップのメリットを、社員が感じられる環境にすることは特に意識しています。今の一番の喜びは人の成長を見ることですね。

今後の目標に関しては、エアークローゼットでまだまだチャレンジしたいこともあります。そして自分で事業を行う経営者になりたいとも思っています。最終的には、指導者の指導者になりたいという気持ちもあります。世の中に素晴らしいリーダーを輩出したいのです。

インドに行ってみて、14億人という競争社会の中で生きるリーダー層の優秀さは本当に素晴らしいと感じました。私自身もまだまだですが、いつかは自分の経験を誰かに伝えられるぐらいにまで成長をして偉大な指導者を育てたいと思っています。

こうした夢に向かえるのも、会計の知識があったからだと思うこともあります。会計の知識は私にとって自分がやりたいことを成し遂げるための武器の一つになりました。この武器に助けられたことはたくさんあり、社会人経験もないのにインドにインターンで行けたのも、きっと実務経験はないけど会計士試験に合格しているから何か役に立つのでは…と思ってもらえたからだと思います。野村総研でのM&Aの仕事でも、会計士試験の勉強で得た知識をたくさん使うことができました。エアークローゼットにおいての事業モデルの策定や、資金調達での経験もそうです。

会計業界の「世界はもっと広い」。これから就職を考えている方や会計士試験に合格をされた方は、各々の持っている知識やスキルを、本当の意味での「武器」にしてほしいと思います。固定概念を外し、足りないものはなんとかなると信じ切り、自分がやってみたいことをシンプルに選んでほしいなと思います。誰に何を言われようと“これがいい”と思えるものであれば、それが正解なのだと思います。私自身、これからも様々なことに挑戦をして、キャリアの幅を広げていきたいです。

 

【編集後記】

現在、会計士試験勉強をしている方に「本気でやってみたい」と思うなら、その道に進んでほしいとも語られていた石川様。固定概念に捉われない生き方を語っていただきました。石川様、ありがとうございました!

株式会社エアークローゼット

●設立

2014年

●所在地

東京都港区南青山3丁目1−31 KD南青山ビル 5F

●理念

ビジョン「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」   ミッション「発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する」

人とモノの最適な出会いの提供。 ひとりひとりの時間価値の最大化。 新しい自分の発見で、日々のワクワクが増える。新しい出会いで、ライフスタイルが豊かになる。

●会社HP

https://corp.air-closet.com/

●運営サービス
月額制ファッションレンタルサービス『airCloset(エアークローゼット)
メーカー公認月額制レンタルモール『airCloset Mall(エアクロモール)
ディズニーアイテムのファッションレンタル『Disney FASHION CLOSET
独自の100通りの診断結果から「自分らしさ」と「なりたい姿」を叶えるコーディネートが見つかる『パーソナルスタイリング診断
似合う服と着たい服が見つかるファッションメディア 『airCloset Style

 

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