今回話を伺ったのは、伊藤国際会計税務事務所の代表を務める公認会計士・税理士 伊藤 耕一郎氏。金融業界から会計知識ほぼゼロで公認会計士に転身し、PwC税理士法人で勤務後に独立を果たし、国際税務に特化した会計事務所を設立。世界を股にかけて幅広く活躍している実力派会計人だ。
特化した強みを押し出しにくい税務において、英語という強みを最初から活かし、クライアントから替えの効かない存在になるためにどんな工夫を重ねてきたのか―。自ら切り拓いてきた道のりに迫る。(取材・撮影:KaikeiZine編集部)

ゼロから会計業界へのキャリアチェンジ

まずは、会計業界を目指されたきっかけを教えてください。最初に就職されたのは外資系証券会社だそうですね。

伊藤:元々は京都で生まれ育ち、京都大学の数理工学に入学して大学院を卒業しました。当時は金融業界に理系の人間がたくさん入るようになりはじめた時代でして、単純に給料が高いところがいいと思って、外資系証券会社に入りました。金融商品の開発を担当していて、長時間労働でしたが面白い仕事でした。

実は退職した時は会計の知識がほぼゼロ。必死に勉強して、翌年の11月に公認会計士試験に合格しました。

勉強期間が1年3カ月と伺いました。かなりのスピードですが、勉強方法で工夫されていたことはありますか。

伊藤:とにかく最短で合格することだけを考えて集中していました。当時は7科目の合計得点で合否が決まったので、得意なものを極めるよりも全部合格水準に乗せるくらいでいいと割り切ったのも良かったのだと思います。ネットで合格した方の勉強法も探して参考にしたこともあります。

予備校に通っていましたが、他から取り寄せた教材で勉強したり、一部の科目では、評判の良い先生がいるからと別の予備校の授業を受講したり。もしその当時が学生だったら、こういうやり方は躊躇してしまったかもしれません。お金で買えるもの・解決方法はお金で買おうと思っていましたね。

ただ、どのくらい長期戦になるか分かりません。勉強期間中は京都の実家に帰るなど、抑えられる出費は抑えました。実はこの頃には結婚していて、小さい子どもが3人いたので、許してくれた家族には感謝ですね。

お子さんもいらっしゃる中、外資系証券会社から未経験の会計業界に挑戦するのは勇気が必要だったと思います。なぜそう考えられたのですか。

伊藤:外資系証券会社から会計業界に転身した理由は、大きく二つあります。一つは税理士という仕事への興味です。富裕層のお客様を担当していると、運用で資産額を増やすことよりも減らすことを少なくできないかという悩みをもたれていることが多いという印象を受けました。お客様からも「これって税金的に有利なの?」という話が出ることも多く、調べるうちに興味が湧いてきて、仕事としても面白そうだなと感じたのが理由です。

もう一つは、お客様を助けて、同じ方向を向いて仕事がしたかったからです。金融にいると、お客様の損が金融機関にとっての得になることもある。中には自分たちの儲けを第一に考えてしまう者もいます。しかし私は、そういった取引を不健全に感じたのです。

学生から社会人になる際には、お金がたくさんもらえると思って仕事を選びました。ところがいざ働いてみると、自分が人生で大事にしたいことはお金儲けではないと気づきました。人に感謝される仕事をして、それにやりがいを感じてみたかったんですね。

自分の価値観がはっきりしたとき、会計業界に転職しようと決意しました。家族もいたので、税理士にもなれる一番早い道のりとして公認会計士を目指しました。

PwC税理士法人での気づきと独立への決意

試験に合格後、PwC税理士法人に就職されました。選ばれた理由をお聞かせください。

伊藤:証券会社時代の同僚が先に入社していたので、その繋がりもあって選びました。公認会計士になるには監査の経験が必要ですが、PwC税理士法人(以下、PwC)は監査をしないので、あらた監査法人(中央青山監査法人)に出向していた期間もあります。これで登録の要件を満たして、3次試験に合格しました。

PwC時代、印象に残った仕事はありましたか。

伊藤:いろいろ印象に残る仕事はありますが、移転価格業務に関われたことは大きいですね。移転価格の部署と金融部などその他の部署では、考え方が大きく異なります。金融部などでは条文解釈の重要性が高い。取引実態を条文に照らしてどう解釈するのかを「条文に入るか入らないか」といった判断基準で、時には明確に判断できます。裁判になって揉めるようなことはあっても、ベースにある考え方はとてもクリア。

一方、移転価格のグループでは経済学的・合理的金額を追求し、”より納得いく説明をできた者が勝ち”という印象があります。経済的に正しいかどうかと、課税実務と整合的になっているかどうかはまた別問題。だからそれぞれの観点でズレを生じることもあり、それを両面から見ることができたのが面白かったです。

また、PwC勤務時代に英語ができることで他者と差別化が図れると実感しました。PwCではお客様が外国人のこともあるし、日本人のお客様でも契約書は英語、というケースが多い。ところが一般に税理士さんは英語が得意ではない方が多い。独立後も英語対応を理由として他から紹介をいただくことも多いです。今後もまだ英語案件は増えていくと思いますし、現状でも引く手数多です。だから若い人には、会計税務の知識だけでなく、英語の勉強もおすすめしたいですね。

PwC税理士法人には6年間勤務し2011年4月末で退社、翌5月に独立されています。入社当初から独立は視野に入れられていましたか。

伊藤:入社当初から独立しようと考えてはいませんでした。入社当初はパートナーに憧れもありましたが、当時のPwCのパートナーがとても優秀な方で、私よりは年上でしたがみなさん比較的若かった。

私は32歳で公認会計士に合格して入社しているので、年齢的にパートナーを目指すと遅咲きになってしまうことは避けられません。

それと、自分個人としての意見を出しにくく、比較的保守的なポジションしか取れなくなってしまう、というのも独立を決意したきっかけの一つです。大きな組織ですし、PwCファーム全体を考慮した立場からはファームを守っていくという意識が当然必要ですから、リスクを取ることは忌避されがちです。

しかし、お客様からアンケートなどのフィードバックがあった際、やはり「保守的な意見しか言わない」と書かれてしまった。この時は歯がゆかったです。

もちろんリスクを取って裁判で負けて何百億円払えとなったら困ります。

慎重にはなるべきなのですが、リスクを避け過ぎて、時として税務署より厳しいことを言いかねない状況にもなっていたようにも感じました。

そのうちに、自分のスタンスとズレていると思うことが増えてしまった。もっとお客様の立場に立った仕事をしたい、自分の個人事務所ならある程度は自分の意見を出せるだろうと、独立を決意しました。

これからの税理士に求められることとは

独立後は国際税務に特化されています。PwCで国際税務業務に携わったご経験がきっかけですか。

伊藤:はい。PwCで国際税務関連の仕事をしているときに、他の税理士さんたちは国際関係の案件をあまりやりたがらないらしいと薄々気づいていました。

だから「国際税務ができる」というのぼりを立てると、他の先生が対応できない案件が回ってくるのではないかと考えました。BIG4には国際税務が得意な公認会計士・税理士がたくさんいます。ただ相手にするのは主に大企業。中小企業を相手とした国際税務ができる税理士なら需要があると見込んで独立しました。独立後は国際税務でお困りの中小企業のお客様にも恵まれましたが、それ以上に多いのは海外資産で運用するぐらいの個人富裕層のお客様です。

海外投資なさる個人富裕層の方々も国際税務に関して相談相手がいらっしゃらず、当社を見つけていただいてお声がけいただいている状況です。

大手にお願いするとなると料金も高くなってしまいますし、相談しにくいのかもしれません。

確実なニーズをキャッチされていたんですね。今後の展望について、お聞かせください。

伊藤:正しく税金を計算し、合理的な範囲で節税を提案する。これが一般的な税理士の仕事の方向性のように思います。

しかし、当社のお客様と話していると、少し変な話なのですが、これからは富裕層の方にはお金の使い方の提案が求められているのではないかと感じています。預金通帳を拝見すると物凄い金額がある。しかし、それをどう使ったらいいのか分からないという方は案外多いです。

数百億の資産があってもすべてを子どもに遺したいと思っていない方もおられます。その場合、税理士に求められているのは申告書作成や単に相続税を減らすことだけではない。

お客様にとって何が一番良いかを考え、本質的なアドバイスができるようにならないとお客様のニーズに対応できません。

これからは日本の会計・ビジネスの教育にも携わりたいと思っています。ボランティアとして小中学生に会計について教えたり、高校生向けの教材も作ったりするなど、日本公認会計士協会の会計教育活動のお手伝いもしたりしています。

今、クラウド会計などテクノロジーはより進化していますし、会計業界に求められている役割もすでに変わってきているでしょう。

現在のお客様を大切にすることはもちろん、未来の担う子どもたちに向けても、会計人がサポートできる仕組みを整えていきたいと考えています。

 

【編集後記】

難しいイメージがあった国際税務。取材時に単語の意味などを説明していただき、とても勉強になりました。伊藤先生のお子様のお話等、プライベートの話でも盛り上がりとても楽しいインタビューの場となりました。伊藤先生、ありがとうございました!

伊藤国際会計税務事務所

●設立

2011年5月

●所在地

東京都港区芝浦3-4-2-2101

●理念

国際税務案件を通じて少しでもお客様の幸福度向上に貢献できればと思っています。

●会社HP

https://itointl.com

 


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