「IPO」という単語は、独り歩きしていることが多いです。IPOを目指している会社の従業員でIPOについて説明できる人が何人いるでしょうか。本記事では、従業員の目線を加えてIPOの概要についてご説明します。

目次

  1. IPOとは
  2. 市場とは
  3. IPOのメリット・デメリット
  4. IPOの成功要件
  5. まとめ

1.IPOとは

①株式会社とは

IPOが何かを知るためには、まず株式会社についてちゃんと理解しておく必要があります。知っているようで知らない株式会社の特徴。意外とちゃんと習うタイミングってないですよね。株式会社とは、株式を発行してお金を集め、その資本を用いて経営を行っていく会社をいいます。ここまではご存知かと思います。

 

ここで、投資と株価の関係を理解することが大切です。会社としてはお金を集めているわけですが、株主からすると投資をしているわけです。投資をするということは、儲からないと困ります。投資した金額よりも価値が高くなることを望みます。この高くなるかどうかが株価です。だから市場で株が売買される際に株価が高くなったかどうかが大切なわけです。

そして、株価は大きく分けて2つの要素で決まります。それは本質的な株式の価値と市場の原理です。

本質的な価値とは、会社のあるべき値段です。例えば建物で90億円持っている、そして利益が5年は安定して2億円ずつ合計10億円は手堅い。考える要素がこれだけなら企業価値は100億円なわけです。これが本質的な価値です。

もう一つは、市場の原理です。市場の原理とは人気なものは高くないと手に入らず、人気がないと安く手に入るということです。先程の100億円の企業価値の会社で、株式数は1億だとします。すると株価は100億円÷1億=100円となります。本来は100円の株価ですが、ここに市場の人気度が影響してくるのです。例えば、今は100円ですが、とある株主は「利益が毎年2億円と言われているけど、この企業はもっと成長しそうだ。多くの人がこの株を欲しがるから株価はもっと上がるはず」と思って株を買うと株価は100円よりも高い金額となるわけです。こういった本質的な価値の予測やそれに伴う売買の人気度による株価の上げ下げがある。これが市場の原理による影響です。

 

②IPOとは

IPOとは、Initial Public Offeringの略語で、「新規株式公開」を意味します。株式公開とは市場で誰でも株を買ったり売ったりすることが出来るようになることを意味します。

本来、株式会社の株式は誰でも株を買ったり売ったりすることが出来るわけではないのです。これは2つの側面があります。

 

まず1つ目は、会社側からすると株主が変わると会社の重要事項を決定できる株主総会の顔ぶれが変わるわけですから経営が安定しないので制限をかけたいわけです。経営は競争にさらさており繊細なジャッジの連続です。安定していない状況では舵取りを誤って失敗したり、ライバルに負けたりして損をして企業価値を下げてしまう可能性を高めてしまうのです。こういった理由から、経営の安定が図れる株主の安定を図った上で株主の入れ変えが起き得る状況が必要なのです。

2つ目は、株を売買するにあたって株主を保護する要素です。株価を理解して株主は株を買うわけですが、理解するための情報の信頼性が無いと損をしてしまいますね。そこで広く一般の人が買えるような状況は、信頼が担保される規制がなされているのです。

IPOとは、会社側としても株式を売りたい、株主保護の観点からも十分に判断するに足る適時開示がなされている、こういった状況を揃え、株式が売買されてよい状況を担保した上で、市場で誰でも株を買ったり売ったりすることが出来るようにしていることなのです。

 

③なぜIPOするのか

会社の経営的な観点でのIPOする理由は、資金調達です。IPOをすると、市場で誰でも株を買ったり売ったりすることが出来るようになるわけですが、これは言い換えれば会社からすると誰からでも資金調達出来るようになるということです。さらに、IPO出来ている状況は、会社の価値を正しく伝えられているということ。適切な資金調達を幅広く出来るということです。

資金調達が適切に出来ていると元手が十分にあるわけですから、「ビジネスでしたい勝負が出来るようになる」ということです。もっと言えば、大きな勝負も出来るようになるのです。テレビCMで大規模なPR戦略が出来なかった会社が出来るようになったり、最初は研究開発や営業基盤づくりでコストが大きくかかるが後で儲かりそうなビジネスにチャレンジできるようになったり、たくさんの人を雇い入れて一気に仕掛けたりといったことが出来るようになります。会社の規模という制限を受けづらくなるわけです。

経営効率においても、資本による資金調達は重要です。借り入れだと利息がかかります。利息は利益率を減らす資本とも言えるわけです。100億円借り入れて10億円利益を稼げても利息で2%の2億円かかったら残る利益は8億円になります。資本による資金調達は利益効率が良いわけです。

なぜIPOをするのかを考えるとき、よく勘違いされることがあります。経営のためではなく、上場前からの株主(すなわち、オーナー社長)のためじゃないのかということです。たしかに、上場前からの株主にも副次的にメリットが出ますが、本質的には私は異なると思っています。

それは、IPOを目指すということはオーナー社長が大きなリスクを抱えるということだからです。IPOを目指すためには多額のコストがかかります。IPOしなくてもやっていけるのに、わざわざ適時開示が適切に行える信用を作るためのコストをかけるわけです。オーナー社長にとって会社のお金は実態として自分のお金に近いものがあります。回収したければ配当すればいいわけですから。IPOは配当などで回収せずに、会社の成長のためにコストをかけようという前向きな活動なのです。しかもIPOのチャレンジは簡単に成功が出来ないし、多額のコストがかかるため簡単には辞められません。モチベーションや信用の観点からも同様です。企業の内外にIPOを目指している企業として、鼓舞していたり、勢いを評価されていたりしたことが、IPOを辞めるとなるとガッカリされてしまうのです。従業員の大量退職や取引先の減少は免れづらい状況となるでしょう。IPOは一度目指したらなんとか成功させないと大きな損失を発生させてしまうのです。

IPOを目指すということは、安定して稼いでいけるオーナー社長が、会社の将来のために、わざわざ背水の陣を選択しているということです。

 

そう言われると従業員からすると、そんなにリスクを背負わなくても稼げている会社で、わざわざIPOというしんどいことをしなくてもいいじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、市場で資金調達が出来るということはそれだけのビジネスの強みとなるわけです。資金調達だけでなく、上場できているという信頼も大きな武器です。ビジネスは常に競争にさらされているので安定的に事業を継続していくためには、IPOは価値のある経営戦略と言えるのです。実際に私がIPOを目指している会社の社長に目指している理由をお伺いしますと、元手や信用について、中小企業では持ち得ない経営資源を手に入れて、大企業に引けを感じないオモシロイ経営の勝負を従業員にさせてあげたいといった熱い思いを語られる方ばかりです。