使用料に対する源泉徴収漏れは税務調査でよく指摘されます。今回取り上げるのは、海外に駐在員事務所を設置し、現地での事務機器のレンタル料を支払う場合の源泉徴収の問題です。海外で使用する資産の使用料については源泉徴収の必要はないと思っている方も多いようですが、源泉徴収が必要となる場合があります。

【ケース】

日本法人であるX社は韓国に進出するに当たり、駐在員事務所を設置し市場調査等を行う予定です。現地での業務に必要な事務機器については、現地の法人から賃借しレンタル料を支払うことを考えています。X社が韓国法人にレンタル料を支払うに当たり、源泉徴収は必要となるのでしょうか。

検討の手順

外国法人に支払う使用料が、国内源泉所得に該当する場合は、支払の際に源泉徴収しなければなりません。

国内源泉所得に該当するかどうかは、国内法の規定と租税条約の規定を検討しなければなりません。もし、国内法の規定と租税条約の規定が異なる場合には、租税条約が優先します。

実務上は、まず国内法を検討し、次に租税条約を検討するという流れになります。

国内法の取り扱い

所得税法では、国内において業務を行う者から受ける以下の使用料で当該業務に係るものは、国内源泉所得となるとされています。

①工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価

②著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価

③機械、装置、車両運搬具、工具器具備品の使用料

今回のケースの事務機器のレンタル料は上記の③に該当することから所得税法の使用料に該当することが分かります。

次の、この使用料が国内源泉所得となるかについてですが、国内法では「使用地主義」という考え方が採用されており、資産が国内で使用されていれば国内源泉所得となりますが、資産が国外で使用されている場合には国内源泉所得とはなりません。

このケースでは、資産は韓国で使用されているため、国内法では国内源泉所得とはならず、源泉徴収の対象にはならないということになります。

租税条約の取り扱い

では、日韓租税条約では当該レンタル料はどのように取り扱われるでしょうか。

まず、事務機器のレンタル料が、日韓租税条約においても使用料に該当するかを確認します。日韓租税条約第12条第3項によると「産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用の対価」が使用料に該当すると規定していることから、事務機器のレンタル料は日韓租税条約においても使用料に含まれることとなります。

次に、国内源泉所得に該当するか否かですが、多くの租税条約では「債務者主義」という考え方が採用されています。「債務者主義」とは、支払者が所在する国に所得源泉があるとする考え方です。例えば、日本法人が事務機器のレンタル料を支払うのであれば、その事務機器がどこで使われようと、日本の国内源泉所得となります。

日韓租税条約でも債務者主義が採用されています(日韓租税条約第12条4項)。

したがって、本ケースでは、租税条約の債務者主義により国内源泉所得となり、X社はレンタル料を支払う際に源泉徴収が必要となります。

※租税条約の条文は最後に記載しています。

韓国に支店等の恒久的施設がある場合

仮に韓国にあるのが駐在員事務所でなく支店等のような恒久的施設の場合には課税関係は異なります。

日韓租税条約では、レンタル料の支払者が韓国に恒久的施設を有する場合において、レンタル料が当該恒久的施設について生じ、かつ、その恒久的施設によって負担されるときは、当該レンタル料は恒久的施設の存在する韓国において生じたものとされます。つまり、この場合には、レンタル料は国内源泉所得とはならず、日本での課税の対象となりません(日韓租税条約第12条4項ただし書き)。

源泉徴収の税率と納期限

国内法では源泉徴収税率は20.42%となっています。一方、韓国との租税条約では、使用料の支払いを受ける日の前日までに源泉徴収義務者を経由して、「租税条約に関する届出書」を所轄税務署長に提出することにより10%に軽減されます。

なお、レンタル料の支払いが日本本社からの送金ではなく、韓国の駐在員事務所が支払う場合は、納付期限は支払日の属する月の翌月10日ではなく翌月末日となります。

税務調査で源泉徴収漏れを指摘された場合

税務調査で源泉徴収もれを指摘された場合、どのような対応になるのでしょうか。

この場合、「租税条約に関する届出書」は提出されていないため、いったん国内法に定める20.42%で源泉徴収しなければなりません。

そして、後日「租税条約に関する届出書」とともに「租税条約に関する源泉徴収額の還付請求書」という請求書を提出することにより、国内法による源泉徴収税額と租税条約を適用した場合の源泉徴収税額との差額の還付を受けることができます。

【参考】日韓租税条約第12条

1(省略)

2(省略)

3 この条において、「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(ソフトウェア、映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放 送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、 模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金及び船舶又は航空機の裸用船 契約に基づいて受領する料金をいう。

4 使用料は、その支払者が一方の締約国又は一方の締約国の地方公共団体若しくは居住者である場合には、当該一方の締約国内において生じたものとされる。ただし、使用料の支払者(締約国の居住者であるかないかを問わない。)が一方の締約国内に恒久的施設又は固定的施設を有する場合において、当該使用料を支払う債務が当該恒久的施設又は固定的施設 について生じ、かつ、当該使用料が当該恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものであるときは、当該使用料は、当該恒久的施設又は固定 的施設の存在する当該一方の締約国内において生じたものとされる。

5(省略)

6(省略)

7(省略)


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