海外から弁護士や大学教授などの専門家を招聘し、日本で講演などを依頼するケースがあります。その場合、講演料等の報酬を支払う際に源泉徴収が必要となる可能性があります。国内法と租税条約について解説しながら2つの例と共に見ていきましょう。
<ケース1>
日本法人X社では、2週間の予定で来日した韓国の弁護士A氏に講演を依頼し、講演料をA氏に支払うこととしました。
講演料の支払いの際に源泉徴収をする必要はあるでしょうか。
なお、A氏は韓国の居住者で日本国内に事務所等の恒久的施設は有していません。
このケースでは、日本の国内法と租税条約の規定を検討する必要があります。
もし、国内法の規定と租税条約の規定の内容が異なる場合には、租税条約の規定が優先されます。
国内法の取り扱い
非居住者が国内で人的役務の提供を行った場合には、所得税法161条1項12号イ(給与その他の人的役務の提供に対する報酬)に規定される国内源泉所得となります。
所得税法161条1項12号イでは、『俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの』を国内源泉所得として規定しています。
よって、非居住者である弁護士が日本国内で行った役務提供に対する報酬は国内源泉所得に該当し、20.42%の税率で源泉徴収しなければなりません。
租税条約での取り扱い
日本と韓国の間では日韓租税条約が締結されていることから、租税条約の内容を確認する必要があります。
もし、租税条約に国内法と異なる規定があれば租税条約の規定に従うこととなります。
日韓租税条約第14条(自由職業所得)には、以下の通り「自由職業者」についての規定が置かれています。
『一方の締約国(韓国)の居住者が自由職業その他の独立の性格を有する活動について取得する所得に対しては、次の(a)又は(b)に該当する場合を除くほか、当該一方の締約国(韓国)においてのみ租税を課することができる。
(a) その者が自己の活動を行うため通常その用に供している固定的施設を他方の締約国内(日本)に有する場合
(b) その者が当該暦年を通じて合計183日以上の期間当該他方の締約国内(日本)に滞在する場合』 (下線は筆者が追加)
したがって、この規定によれば、自由職業を有する韓国の居住者が、日本で活動をして得た所得については、日本国内に恒久的施設を有しておらず、かつ日本での滞在日数が183日以内であれば日本では課税されないこととなります。
また、同条約では、「自由職業」について、『特に、学術上、文学上、芸術上及び教育上の独立の活動並びに医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動を含む』としています。
したがって、結論として、韓国の弁護士に支払う報酬については、源泉徴収は不要となります。
なお、日本が締結した租税条約の中には、自由職業者の免税の要件として、「滞在日数が183日以内」という要件を設けていないものもあることから、要件の確認には注意が必要です。
租税条約の免税の適用を受けるための手続き
租税条約の免税の適用を受けるためには、A氏は、「租税条約に関する届出書」の様式7(自由職業者・芸能人・運動家・短期滞在者の報酬・給与に対する所得税及び復興特別所得税の免除)をX社を通じて所轄税務署長に提出しなければなりません。
租税条約に「自由職業所得」の条項がない場合
ここでは、租税条約に「自由職業所得」の条項がないケースを考えてみます。
<ケース2>
日本法人Y社では、2週間の予定で来日した米国の大学教授B氏に講演を依頼し、講演料をB氏に支払うこととしました。
講演料の支払いの際に源泉徴収をする必要はあるでしょうか。
なお、B氏は米国の居住者で日本国内に事務所等の恒久的施設は有していません。
国内法の下では、<ケース1>と同様に国内源泉所得に該当し、20.42%の税率で源泉徴収しなければなりません。
次に、日米租税条約を検討することになりますが、日米租税条約では、芸能人又は運動家以外の自由職業者について直接規定しているものはありません。
このように、自由職業所得についての条項が設けられていない場合には「事業所得条項」が適用されることになります。
日米租税条約の事業所得条項(第7条)では、米国の企業は日本にある恒久的施設を通じて日本国内で事業を行わない限り、米国においてのみ課税することとしています。これは、「恒久的施設なければ事業所得課税なし」という原則です。
したがって、このケースではB氏は日本国内に恒久的施設を有していないので、日本では免税となり、源泉徴収は不要となります。
OECDモデル租税条約では「自由職業所得」についての規定は削除
OECDモデル租税条約では、第14条に自由職業所得についての規定が設けられていました。
しかし、2000年のOECDモデル租税条約の改正で、第14条は削除されました。
この第14条の削除に伴い、それ以降に改正又は締結された租税条約では「事業」の定義に「自由職業その他の独立の性格を有する活動を含む。」と規定し、自由職業所得も事業所得の対象に含めるというのがトレンドとなっているようです。
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