売上100億円を超え、優成監査法人との合併後も業績を拡大し続けている太陽有限責任監査法人(以下、太陽)について、直近の決算書(*1)および監査品質に関する報告書(*2)をもとに分析していきます。
1.業務収入
(1)売上
まずは業務収入、いわゆる売上の推移を見ていきます。
* 「業務及び財産の状況に関する説明書類」 (*1) より集計
2021年6月期(以下、2021年度)の売上は130億1千万円となり、2020年度の121億7千8百万円に対して8億3千1百万円(+6.8%)の増収となっています。
優成監査法人と合併した2019年度は110億4千3百万円であり(*2)、これで2期連続の増収を達成し、また3期連続で100億円を超える売上を記録しています。
2019年度を基準とした2年間の年平均成長率(以下CAGR)は8.5%となり、合併後も順調に成長しています。
続いて監査業務と非監査業務に分けて売上推移を見ていきます。
(2)監査業務収入
2021年度の売上は123億7千7百万円となり、2020年度の114億8百万円に対して+9億6千9百万円(+8.5%)の増収となっています。
なお2019年度は101億9千7百万円であり(*2)、CAGRは+10.2%と2桁の伸びを記録しています。
監査業務の前期比増減率とCAGR、いずれも収入全体の伸びを超えており、監査業務が太陽の成長をけん引します。
監査業務について、クライアント数と1社あたりの売上に分けてみていきます。
(3)監査クライアント数
2021年度の監査クライアント数は1019社であり、2020年度952社に対して+67社(+7.0%)となったことで1000社の大台を突破しています。
上場しているクライアントに限定すると、2020年度の235社に対し、2021年度は264社であり、前期比+29社(+12.3%)と、こちらも大きく増加しています(*2)。
増加要因については、監査人の変更による純増が+19社と過半を占めており、新規クライアントの獲得がクライアントの増加につながっています。
令和4年版モニタリングレポート(*3)では、引き続き、大手監査法人から準大手監査法人等に監査クライアントが流出している様子が記載されていますが、太陽は有力な受け皿となっていることが数字からも確認できます。
* 「監査品質向上のための取組み2021 監査品質に関する報告書」(*2)より
(4)1社あたり監査業務収入
* 1社あたり監査業務収入=監査業務収入÷期末の監査クライアント数
2021年度の1社あたり売上は1214万円となり、2020年度の1198万円に対して+16万円(+1.4%)とわずかながらアップしています。
ただし売上の伸び(+8.5%)に比べると報酬単価の変動は小さく、収入にはさほど影響していません。
以上、監査業務の売上については上場企業を中心としたクライアント数の増加により増収決算となっています。
昨今、大手監査法人では監査クライアントを絞り込みつつ、報酬単価を上昇させる傾向にありますが、太陽の場合、単価は横ばいながらもクライアント数を増やすことで業績を拡大させており、大手との方針の違いが表れています。
(5)非監査業務
2021年度の売上は6億3千3百万円となり、2020年度の7億7千万円に対して△1億3千8百万円(△17.9%)の減収となっています。
また2019年度は8億4千5百万円であり、合併以降、2期連続の減収と、監査売上とは逆の傾向となっています。
ただし太陽の収入に占める非監査業務の割合は5%程度にとどまることから決算に与える影響はそれほど大きくなく、全体としては増収決算が続いています。
次に費用に目を向けてみます。
2.業務費用
(1)業務費用推移
2021年度の業務費用は116億1千4百万円となり、2020年度112億2千8百万円に対して+3億8千6百万円(+3.4%)と増加しています。
太陽は、業務費用を「人件費」「賃借関連費用」「教育及び研修費用」「IT及び通信費」「その他業務費用」の5つに分類しており、そのうち「人件費」は業務費用の7~8割を占める最大のコストとなっています。次に「人件費」の推移を見てみます。
(2)人件費推移
2021年度の人件費は92億8千9百万円となり、前期比で+8億1千1百万円(+9.6%)増加しています。
では、人員数と1人当たりの人件費に分けてみていきます。
(3)人員数推移
* 「その他」は事務職員及び契約職員、「SV」はスーパーバイザー、「SS」はシニアスタッフ、「S」はスタッフ、「SM」はシニアマネージャー、「M」はマネージャー
* 「監査品質向上のための取組み2021 監査品質に関する報告書」(*2)より
2021年度の人員数は1090人となり、前期比+54人(+5.2%)となっています。
内訳を見ると、スーパーバイザー、シニアスタッフおよびスタッフが49名(+8.7%)、社員が5名(+6.0%)増加しています。
また2019年度と比べるとそれぞれ120名(+24.4%)、9名(+11.3%)の増加となっており、クライアント数の増加に対応して、スーパーバイザー、シニアスタッフおよびスタッフを中心に監査業務に従事する人員を大きく増やしていることが分かります。
(4)1人当たり報酬給与・賞与推移
* 1人当たり報酬給与・賞与=(報酬給与+賞与)÷(契約職員を除く期首期末の平均人員数)
2021年度の1人当たり報酬給与・賞与は882万5千円となり、前期比△1万7千円(△0.2%)で微減となっていますが、ほぼ前期並みといえます。
これは、監査クライアント数の増加に伴い業務量は増加しているものの、比較的単価の低いスーパーバイザー、シニアスタッフおよびスタッフの採用を進めていることで、契約職員を除く全構成員に占める当該職層の割合が1.2%増加(2020年度末66.5%→2021年度末67.7%)していることから、1人当たり報酬給与・賞与は大きく変動していないものと推察されます。
以上より、人件費増加の主要因は業務拡大に伴うスーパーバイザー、シニアスタッフおよびスタッフを中心とした人員数の増加にあることが分かります。
(5)その他業務費用
項目別の業務費用を見てみます。
人件費を除くすべての項目で減少しており、特にその他業務費用、賃借関連費用は2桁の減少となっています。
賃借関連費用では賃借料が△8千3百万円、IT及び通信費ではIT関連費が△3千4百万円、その他業務費用では旅費交通費が△1億3千7百万円、出張旅費が△7千8百万円、保険料が△6千3百万円、それぞれ減少しています。
2021年度は1年間を通じてコロナウイルス感染症拡大の影響があり、旅費交通費、出張旅費をはじめ、各種の費用に影響していると考えられます。
なお、太陽の附属明細書にはGTJ負担金が開示されており、2020年度、2021年度ともに2億6千4百万円が計上されています。
人件費を除く業務費用の合計は25億円程度であることから、決して少なくない金額を提携先の国際会計事務所であるグラントソントンに支払っていることが分かります。
以上、業務費用についてまとめると、旅費交通費や出張旅費、賃借料等の減少等があったものの、業績拡大に伴う人員数の増加による人件費の増加を受けて合計で+3億8千6百万円(+3.4%)となっています。
ただし業務費用は増加しているとはいえ、業務収入の増加率+6.8%を下回っており、収入に占める費用の割合(業務費用比率)は92.2%から89.3%へと低下しています。
* 業務費用比率=業務費用÷業務収入
続いて利益について見ていきます。
3.利益
2021年度の営業利益は13億円9千6百万円で、2020年度の9億5千万円に対して+4億4千6百万円(+47.0%)、営業利益率は10.7%で2020年度7.8%に対して+2.9%となっています。
売上が8億3千2百万円(+6.8%)増加したのに対して、業務費用は3億8千6百万円(+3.4%)の伸びにとどまったことで、2021年度は大幅な増益決算となっています。
なお2020年度、2021年度ともに営業外損益、特別損益項目に大きな項目はなく、当期純利益も2020年度7億1千万円に対して2021年度が10億1千1百万円と3億1百万円(+42.4%)の増益となっています。
4.その他-配当金
最後に配当金について確認しておきます。
* 社員1人当たり配当金は支払配当金÷前期末社員数にて算出
監査法人の場合、出資者=経営者=社員であり、配当は社員報酬と同じような位置づけになります。
2020年度、2021年度と2期連続で社員に配当金を支払っており、2020年度は総額で1億5千5百万円、社員1人当たり194万円でしたが、2021年度は総額で1億6千2百万円、社員1人当たり193万円となっています。
支払総額は735万円増加していますが、1人当たりではほぼ前期並みとなっています。
まとめ
2021年度の決算書をもとに、太陽有限責任監査法人の決算を分析しました。
上場企業を中心としたクライアント増加に伴う監査業務の増収が太陽の成長をけん引しており、また費用もうまくコントロールされていることでしっかりと利益も確保しています。
2022年度以降も引き続き大手監査法人に代わる有力な選択肢として業績を拡大させていくと想定され、今後の決算が期待されます。
【出典・引用】
*2 監査品質向上のための取組み2021 監査品質に関する報告書
*3 令和4年版モニタリングレポート、公認会計士・監査審査会
個別転職相談(無料)のご予約はこちらから
最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。
◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします
【メルマガを購読する】