IPOでは投資家保護の観点から法務もレベルアップが求められます。普段の取引にも影響するものなど、意外とそんなところまでといった内容もあるでしょう。従業員の目線も踏まえてIPOにおける法務体制の強化方法について説明します。

目次

  1. 法務体制の強化の必要性
  2. 法務体制の強化ポイント
  3. IPOにおける法務チェックとは
  4. まとめ

1.法務体制の強化の必要性

IPOをする会社は公共性が高いポジションとなるため、高い倫理観が求められるのは当然ながら、投資家保護の観点からも、法令違反していないことが当然に求められます。そして、法令違反だけではなく、係争事件が生じていないかも上場審査で確認されます。上場審査の基準の「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」という項目の中のチェックポイントとなっています。

 

係争事件は、従業員や顧客、仕入先などから訴えられたら必ずIPOが出来ないというわけではなく、仕方ないものであるか、キチンと対応できているかがシビアに確認されます。

また、反社会的勢力への関与もないことが求められます。関与を防止するために法務を含めた社内体制を構築することが必要です。反社会的勢力排除に向けた上場制度として、上場会社は企業行動規範に、反社会的勢力による被害を防止するための社内体制の整備及び個々の企業行動への反社会的勢力の介入防止に努める旨が規定されています。そして、審査でも重要なポイントとされています。報告書の開示項目の一つである「内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況」の一環としても、反社会的勢力排除に向けた体制整備についての開示を行うものとされています。

 

法令違反をしていないかの確認に加え、仮に、巻き込まれた際に、早急に紛争解決し、上場に大きな影響を与えないことを担保できる体制を整えることが重要です。

2.法務体制の強化ポイント

事業の健全さや従業員の正当な権利が守るために、下記の5つの観点から対応します。

 

①情報管理

情報保有と情報漏えいは表裏一体であり、消失や漏洩だけでなく、個人情報の保護やプライバシー権から保有すること自体がセンシティブな情報もあります。情報セキュリティ対策を含めた法務体制が求められます。

ビジネス取引としては、不正競争防止法上の営業秘密への対応や、著作権法、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求への対応なども必要です。

 

②社内規程の法務チェック

社内規定を整備するときに内容に法的に問題がないかどうかをチェックすることが必要です。規定は企業が独自に会社の自由で定めるものですが、労働法などの法律に抵触するわけにはいかず、すべての法律に問題ないことが当然に前提となるためです。

 

③労務の基礎となる条件の法的チェック

職場環境の在り方やダイバシティの観点、多様な働き方といった論点から従業員を保護する法律は、以下のように多岐にわたります。個人だけではなく、労働組合との関係なども対応が必要です。

  • 労働基準法
  • 労働組合法
  • 労働関係調整法
  • 最低賃金法
  • 労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法
  • 労働契約法
  • 男女雇用機会均等法
  • 育児・介護休業法
  • パートタイム・有期雇用労働法
  • 労働者派遣法
  • 賃金の支払の確保等に関する法律
  • 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
  • 労働契約承継法

また、IPOで課題となりやすいことのひとつにが残業代の未払いが挙げられます。労働基準法によって、未払残業代の時効は、2020年3月31日までに発生したものについては2年、2020年4月1日以降に発生したものは3年となっています。退職従業員についても未払いがあれば残業代の精算が必要です。企業によっては従業員からの訴訟リスクともなり得るテーマであり、センシティブな対応が求められます。

 

④コンプライアンスに関する従業員教育の体制

社員のトラブルや不正を防止するため従業員へコンプライアンス教育を整備できているかも重要なポイントとなります。職階別におけるコンプライアンス対応研修や、全社員共通のコンプライアンス講義などが挙げられます。

 

⑤適切な契約体制や許認可への対応

売買契約書や業務委託契約書など契約書を取り交わしできていたとしても、そもそも契約内容が法律違反ではリスクがあります。そのため、訴訟等のトラブルに備えた法務チェックが求められます。備えについては、単にどのような条件で契約を結ぶのかだけではなく、将来のリスクを配慮しトラブルが起こった際にはどのように対処すべきか、契約内容を変更すべき状況が起きた場合にどうするかなども含まれます。

 

また、例えば、自社が倒産することを想定しなくても、債権回収として得意先が倒産した場合やしそうな場合についても対応方法などを想定しておくことが必要なことからも、様々な法律を配慮した契約条文が求められます。下記の法律はどの業種でも対応が必要なことが多い法律です。

  • 民法
  • 著作権法
  • 特定商取引法
  • 倒産法(破産法,民事再生法,会社更生法)
  • 景品表示法
  • 不正競争防止法
  • 下請法

また、法務対応は、法律そのものだけではなく、「憲法」は当然ながら、行政機関によって制定される「命令」、内閣がつくる「政令」、各省がつくる「省令」への対応も必要です。上場会社は高い倫理観が求められるため、単に明文化されたルールだけでなく、不文律への配慮も重要となります。

上記に以外にも、業界特有の規制についても対応が必要です。飲食店であれば飲食店の営業許可や食品衛生法、食品リサイクル法、風営法及び関連する法律などです。

 

自社のビジネスに対する法規制を把握する方法としては、上場している同業他社の有価証券報告書の「対処すべき課題」,「事業等のリスク」の項目を参考にしたり、業界団体への加入等による関連法律や法改正のキャッチアップ体制づくり、監督官庁のHP等での情報収集、グレーゾーン解消制度・法令適用事前確認手続など国の制度を利用したりするなど、弁護士に頼らないでも対応できることが多々あります。弁護士に丸投げせずに自社としても理解することも大切です。

とくに上場を目指すベンチャーなどで、新規性の高いビジネスの場合は既存の法規制では対応しきれないものや、グレーな場合もあるでしょう。上場審査の過程において合理的に事業の健全性を説明することが求められるので、所轄官庁や弁護士による適法性の意見を得ることが必要となることもあります。ビジネスモデルを整理して、法的リスクを具体的な法律の条文などに対応して洗い出すことが必要となります。難易度が高いことも多いのでそういった際には弁護士を頼ることが上策でしょう。

 

⑥株主総会、取締役会、監査役会の準備や運営

株主総会は会社法で定められた決議事項について採決して報告する必要がありますが、招集や決議の方法に瑕疵があるなど適法に運営ができなければ、決議が取り消される可能性があります。

 

⑤反社会的勢力への関与防止の対応

研修など教育体制の整備や、反社会的勢力の排除条項を各種の契約条項への折込、行動規範や開示への対応方針を明確にすることが必要となります。また、反社会的勢力の対応部署を設置して反社会的勢力のチェックや情報の管理、不当要求があった場合の対応を体制から構築することも必要です。

3.IPOにおける法務チェックとは

IPOにおける法務チェックには、まず初めに予備調査の段階での弁護士による対応があります。この段階では精査とまではいかないことが大半です。ビジネスモデルにおける大きな課題やグレーゾーンとなっている課題の洗い出し、未払い残業などの労務関連の法務リスク確認、訴訟や訴訟リスク、すべての契約内容のレビューなどを行い上場にむけての法務ハードルを確認します。

IPOチャレンジをすすめるに当たって、法務対応のレベルを向上させ、上場審査にむけて段々と制度の高い対応を行っていきます。

4.まとめ

中小企業では具体的な法律の問題が顕在化しないと対応がなされづらい法務領域。上場企業は投資家保護の観点や公共性の観点から事業の健全性や従業員の権利の担保のためなどに、問題がないかどうかだけではなく、問題が起きづらい、起きても対応がスムーズに行えてリスク対処を適切になされることが求められます。リスク対処を適切に行うために、業務の進行において、法務として確認するステップが求められるため、日常の取引で法務リスクを検討できる情報は現場から提供しないといけません。そういう意味で従業員全体もコンプライアンスを含めた法務への意識を成長させる必要があるでしょう。

 

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