個人経営である医師や歯科医師の場合、概算経費という計算方法が合法的に認められている(租税特別措置法26条による所得計算。以下「租特」)。経費を計算するうえで、節税になるなど有利になる場合もあるので、概算経費が認められている条件とその例、概算経費として計算するのが有利な場合と不利な場合をチェックしておこう。

■概算経費とは?

概算経費とは、その名の通り、実際にどれだけの経費がかかったかを細かく計算することなく、おおよその金額で経費を算出する方法だ。

この概算経費での計算が認められているのは、租特26条に基づき、「社会保険診療収入が5千万円以下の医業又は以下医業を営む個人」となっている。(※社会保険診療収入が5千万円以下でも、自由診療も含めた収入が7千万円以上ある場合は、概算経費での計算は認められない)

 

この条件下であれば、社会保険診療報酬による事業所得の金額を、「概算経費率」を適用して計算し、その計算で出た金額を、実額計算したものに代えて、必要経費に算入することができる。

■概算経費を利用した節税

社会保険診療報酬の所得計算に応じて、概算経費の計算も変わってくる。

・保険診療収入に対する所得金額の計算

2500万円以下      … 診療報酬収入×72%(所得率28%)

2500万円超~3000万円 … 診療報酬収入×70%(所得率30%) +控除額50万円

3000万円超~4000万円 … 診療報酬収入×62%(所得率38%) +控除額290万円

4000万円超~5000万円 … 診療報酬収入×57%(所得率43%) +控除額490万円

 

たとえば、社会保険診療報酬が3千万円で、社会保険診療報酬にかかる実額経費が1500万円である場合、

 

社会保険診療報酬に必要な実額経費 … 1500万円

社会保険診療報酬に必要な概算経費 … 2150万円(3000万×70%+50万)

 

と計算することができ、650万円分の経費を余分に勘定することができる。

 

■概算経費を使用しないほうがいい場合

社会保険診療収入に対応する概算経費は、一定率に基づいて計算されるため、実額経費が概算経費として計算するよりも多い場合は、実額経費として計上したほうが有利だ。特に医療法人などは、役員報酬なども考慮に入れると、概算経費が実額経費を上回ることはほとんどあり得ない。他にも賃貸料が高額な都心部などに診療所を持っている方や、従業員を多く雇っている方なども、実額経費が多くかかっていることを念頭に入れて置いてほしい。

 

くわえて、クリニックなどの自由診療がメーンの場合も注意が必要だ。概算経費はあくまでも、社会保険診療に対応している医療経費が対象となるため、それ以外の経費は、概算経費として計算することはできない。社会保険診療と自由診療の経費の区分は明確にしておきたい。

 

このように、一概に概算経費を選択すれば必ずしも有利になるわけではないので、日ごろから概算経費の計算だけでなく、実額経費のチェックも行い、どちらが有利であるかを判断しておくことが必要だ。

●まとめ

概算経費を利用できる制度は、医業や歯科医業に限った特例であること、更には概算経費と実額経費の差額があきらかに大きい場合があるなど、特例の有効性を疑問視する声も多くみられ、今後見直しが行われる可能性もある。

条件の変更などの情報は常に確認しておく必要がある。どのような条件で有利になるのか不利になるのかをしっかりと見極めて、概算経費を活用するかしないか判断していこう。

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