財務省と金融庁が、「ビットコイン」などの仮想通貨を購入する際にかかる消費税を、2017年をメドになくす方向で検討している。与党税制調査会の議論を経て2017年度税制改正大綱に盛り込む予定だ。改正されると、仮想通貨は「モノ」「サービス」でなく、「支払い手段」と明確に位置づけられ、普及に弾みがつく可能性がある。

仮想通貨は、インターネット上に存在する、いわゆる次世代の“おカネ”とでもいうもの。最も普及しているのがビットコインで、同様の仮想通貨はなんと世界に600種類以上存在する。「仮想」といわれる通貨だから、貨幣や紙幣のように「形」があるわけでない。だから分かりにくいのだが、現金同様にモノやサービスの取引を行う“通貨”としての価値を有する、いわゆる“おカネ”だ。だから、専門の取引所があり、円、ドル、ユーロなどの現金で購入できる。利用者は「ウォレット」といわれるネット上に電子財布を設け、ここに仮想通貨をためておき、パソコンやスマートフォンを通じて、ユーザー同士が自由に通貨の受け渡しを行う。インターネットバンキングを使っている人ならイメージしやすいと思うが、同じような決済方法となる。特徴は、手数料が極めて安く、売り手買い手双方ともに、個人情報やカード番号など、外部に漏れたら問題になるような情報入力の必要がない点だ。そのためeコマースの決済手段として地位を固めつつある。
決済手段より投機を目的に売買する人も
一方で仮想通貨は、取引所で取引される金融商品と似ているので、外国為替市場と同様に、円やドルと交換すると変動リスクが伴う。変動幅は、一般的に外国為替より大きく、1日に2割も上下することもある。例えば、ビットコインの場合、2016年8月上旬は1ビットコイン=5万4千円程度だったが、同年10月中旬になると相場は、同6万6千円台まで上昇した。つまり、2カ月で2割以上変動しているのだ。投機性の高さから、決済手段ではなく投機目的に売買する人も少なくない。
この仮装通貨の取引だが、日本においては現在、消費税法上は「モノ」や「サービス」と同列に扱われ、購入の際に消費税がかかる。つまり、利用者は手数料と消費税を支払っているのだ。ところが、仮装通貨が普及している主要7カ国(G7)では、日本以外は仮想通貨に消費税を課していない。そのため、日本も早急に足並みをそろえる必要があったわけだ。その前段として、2016年5月に改正資金決済法が成立(施行は17年予定)。これまで法的な規定がなかった仮想通貨が、プリペイドカードなどと同じ「支払い手段」と定義された。そして、仮想通貨と現金を交換する業者は登録制とし、金融庁が監督官庁となり業務改善命令や停止命令を出せるようにした。取引所は、監査法人による監査を義務付け、口座開設時の利用者本人の確認を徹底させるなど、監視強化に動いている。
そして、第二段として、金融庁は2017年度税制改正で仮装通貨の購入時に消費税がかからない、国際標準の取り扱いを要望したわけだ。財務省もプリペイドカードなどの支払い手段には購入時に消費税が発生しないことから、仮想通貨も非課税とする方針を固めているとされている。
仮想通貨は、この数年で普及し、ビットコインの場合、国内で買い物や飲食の支払いに利用できる店舗は2016年9月時点で約2500店にのぼる。このまま利用できる店やサービスが増えれば、消費税の非課税化を機に、文字通り「通貨」として利用に弾みが付くと予想される。
国内メガバンクも独自の仮想通貨研究開始
仮想通貨市場の法整備が調ってくる中、大手金融機関も仮想通過には目を向けている。三菱東京UFJ銀行では、独自の「MUFGコイン」の実用化に向けて、研究・開発を重ねているという。一部マスコミ報道によれば、大手銀行による仮想通貨の発行が実現すれば、世界で初めてになるとのこと。三菱東京UFJ銀行の「MUFGコイン」のイメージは、利用者が三菱東京UFJ銀行の口座にある預金を、「1コイン=1円」でコインに交換してスマホのアプリに取り込んで使う。利用者同士ならばインターネットを通じて送金可能で、コインを取り込んだスマホをかざすなどすれば、コインのやり取りができるとのこと。利用手数料も、現行の送金・振込手数料に比べ、大幅に安くできる可能性があるとしている。
ビットコインをはじめとした仮想通貨の利用者はすでに、世界に約1300万人を超えたといわれる。日本国内でも国税の電子帳簿保存などの利用が進めば、仮想通貨とセットでおカネの流れを国税当局もキャッチアップすることが容易になる。国税OB税理士は、「税務調査で最も困難なのが現金取引。帳簿等に取引内容が残っていない現金の流れをつかむのは難しい。現金を使わず、取引履歴の残る電子決済になれば税務調査がやりやすくなる」と指摘する。
電子決済になれば、税務調査という側面からすると、課税当局にとしては非常にありがたい話なのだ。利便性が良くなる分、国税当局も業務の効率化が図れ、税務調査の精度が上がっていくかもしれない。