2022年版4大監査法人の決算分析シリーズ。第2回は業務収入で有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)に次ぐ2位の有限責任あずさ監査法人(以下あずさ)について、2022年度を中心に直近5期の決算を分析していきます。

1.業務収入

まずは業務収入の推移から見ていきます。

(1)業務収入推移

* 「業務及び財産状況説明書」(*1)をもとに作成

 

2022年6月期(以下、2022年度)の売上は1,111億円となり、前期比58億円増加(+5.5%)となっています。

この1,111億円という数値は2020年度の1,060億円を超え、過去最高です。

直近5期の推移を見てみると、2019年度以降は継続して1千億を超えています。

2018年度からの年平均成長率(以下、CAGR)は+3.4%となっており、前期こそ減収決算だったものの、業績拡大のトレンドにあります。

監査業務と非監査業務に分けて売上推移を見てみます。

(2) 監査業務

監査業務の売上推移です。

ⅰ 業務収入推移

2022年度の監査売上は854億円となり、前期比21億円増加(+2.6%)で、監査業務としても過去最高となっています。

全体の売上同様に右肩上がりとなっており、監査業務に関しては増収決算が続いています。

2018年度からのCAGRは+2.8%となり、全体の伸び(+3.4%)は下回っているものの成熟した監査マーケットにおいては成長を続けていると言えます。

監査業務について、クライアント数と1社あたり売上に分けて見てみます。

ⅱ クライアント数推移

2022年度の監査クライアント数は3,482社となり、前期比156社減少(△4.3%)となっています。

クライアント数はここしばらく緩やかに増加していましたが、2022年度は減少に転じ、一気に156社も減っています。

ⅲ 1社あたり業務収入推移

* 1社あたり監査業務収入=監査業務収入÷(期首期末の平均監査クライアント数)

 

2022年度の1社あたり売上は2,400万円となり、前期比109万円上昇(+4.8%)となっています。

2022年度はクライアント数が大きく減少する一方で売上単価は上昇しており、4期前の2018年度(2,175万円)と比べると+10.3%の上昇、またCAGRは+2.5%となっています。

監査業務に関してはクライアント数の減少を単価アップでカバーし、増収となったと言えます。

監査では大手から準大手等へのクライアント流出が進む中(*2)、あずさはクライアント数を増加させてきました。

ところが2022年度は一転して減少となっており、今後のトレンドが気になるところです。

(3) 非監査業務

続いて非監査業務の収入推移です。

ⅰ 業務収入推移

2022年度の非監査売上は257億円となり、前期比37億円増加(+16.7%)となっています。

2021年度は減収となっていましたが2022年度は2桁を超える増収となり、ここ5期で見ると概ね右肩上がりの傾向となっています。

4期前の2018年度(206億円)と比べると51億円増加(+24.8%)、CAGRは+5.7%となっています。

トーマツほどではないにせよ、非監査業務の伸びが全体の増収を支えている様子がうかがえます。

非監査業務についてもクライアント数と1社あたりの売上に分けて見てみます。

ⅱ クライアント数推移

2022年度の非監査クライアント数は1,999社となり、前期比38社減少(△1.9%)となっています。

ここ5期で見ると2022年度は最も少なく、ピークの2019年度2,143社と比べると144社減少(△6.7%)です。

非監査ではクライアント数減少の傾向がより鮮明であり、2022年度は僅かながら2,000社を下回っています。

ⅲ 1社あたり業務収入推移

* 1社あたり非監査業務収入=非監査業務収入÷(期首期末の平均非監査クライアント数)

 

2022年度の1社あたり非監査売上は12億7千2百万円となり、前期比217万円上昇(+20.6%)となっています。

2021年度は単価が下落していたものの、2022年度は大幅に上昇しており、単価の上昇が非監査業務の増収につながっています。

非監査業務についても、クライアント数を絞り込みつつ売上単価を高めることで増収を確保するというトレンドが継続しているようです。

以上、売上についてまとめると、監査、非監査ともにクライアントを厳選することで数をコントロールしつつ、単価アップにより増収及び過去最高売上を達成しています。

特に非監査では2割を超える単価の上昇により2桁の増収となっており、前期の減収から一転、増収を支える要因となっています。

なお非監査業務が全体の売上に占める割合を見てみると、2022年度は23.1%(前期比+2.2%)となっています。

2018年度との比較では+1.9%に留まっており、非監査割合にそれほど大きな変動は見られません。

2.業務費用

次に費用に目を向けてみます。

(1)業務費用推移

2022年度の業務費用は1,097億円となり、前期比73億円増加(+7.1%)でこちらも過去最高を記録しています。

売上の増加と足並みを揃えて費用も増加しており、2018年度からのCAGRは+3.2%と、売上のCAGR+3.4%と同程度となっています。

* 業務費用比率=業務費用÷業務収入

 

売上に占める業務費用の割合(業務費用比率)では、2022年度は98.8%となり、前期比1.5%上昇していることから、コスト増が増収を上回っています。

ここ5期では97.3~99.5%となっており、2022年度は平均的な比率となっているようです。

あずさは、業務費用を「人件費」「施設関連費用」「研修関連費用」「情報システム関連及び通信費」「その他業務費用」の5つに分類しています。

そのうち「人件費」は業務費用の7割を占める最大のコストとなっています。

次に「人件費」の推移を見てみます。

(2) 人件費推移

2022年度の人件費は754億円となり、前期比16億円増加(+2.2%)となっています。

業務収入(+5.5%)や業務費用全体(+7.1%)と比べると人件費の増加は抑制されているようです。

内訳を見てみます。

(単位:百万円)

2021年6月期 2022年6月期 増減額 増減率
報酬給与 43,452 43,301 △151 △0.3%
賞与 17,768 18,657 +889 +5.0%
賞与引当金繰入額 1,806 2,123 +317 +17.6%
退職給付費用 2,879 3,468 +589 +20.5%
法定福利費 7,699 7,919 +220 +2.9%
福利厚生費 529 712 +183 +34.6%
出向者負担金受入額 △2,309 △2,463 △154
その他人件費 1,960 1,693 △267 △13.6%
人件費 計 73,786 75,414 +1,628 +2.2%

2022年度は報酬給与が1億5千1百万円減少する一方、賞与・賞与引当金繰入額がそれぞれ8億8千9百万円、3億1千7百万円増加しています。

報酬給与減、賞与関連費用増というトレンドは2期連続となっています。

その他、退職給付費用(6億円増加、+20.5%)、法定福利費(2億円増加、+2.9%)などが増加しており、人件費合計の増加につながっています。

続いて人員数と1人当たりの人件費に分けて見てみます。

(3) 人員数推移

2022年度の人員数は6,317人となり、前期比144人増加(+2.3%)となっています。

4期前の2018年度と比べると135人増加(+2.2%)となり、大きな変動はなく微増となっています。

人員の内訳を見ていきます。

(人員数内訳)

2018年
6月末
2019年
6月末
2020年
6月末
2021年
6月末
2022年
6月末

公認会計士 569 564 558 559 557
特定社員 34 34 34 36 37


公認会計士 2,649 2,652 2,588 2,524 2,403
公認会計士試験合格者等 1,220 1,190 1,238 1,266 1,331
監査補助職員 986 1,029 1,086 1,039 1,259
その他の
事務職員
724 749 764 749 730
合計 6,182 6,218 6,268 6,173 6,317

社員については前期比で大きな変動はありませんが、2018年度との比較では公認会計士が12人減少(△2.1%)とやや減少傾向にあります。

社員を除く構成員を見てみると、前期比では公認会計士が121人減少(△4.8%)する一方、公認会計士試験合格者等が65人増加(+5.1%)、監査補助職員が220人増(+21.2%)となっています。

2018年度との比較では公認会計士が246人減少(△9.3%)となったのに対して試験合格者が111人増加(+9.1%)、監査補助職員が273人増加(+27.7%)となっています。

(4) 1人当たり報酬給与・賞与推移

* 1人当たり報酬給与・賞与=(報酬給与+賞与+賞与引当金繰入)÷(期首期末の平均人員数)

 

2022年度の1人当たり報酬給与・賞与は1,026万円となり、前期比13万円増加(+1.3%)と僅かにアップしています。

ここ5期は9百万円~1千万円程度で推移しており、2022年度もその範囲に収まっています。

1人当たりの金額を報酬給与と賞与(賞与及び賞与引当金繰入額)に分解してみます。

* 1人当たり報酬給与=報酬給与÷(期首期末の平均人員数)

* 1人当たり賞与=(賞与+賞与引当金繰入額)÷(期首期末の平均人員数)

 

1人当たり報酬給与が低下傾向にあるのに対して1人当たり賞与は上昇傾向にあり、賞与を含む給与体系に変化があったのかもしれません。

(5) その他

項目別の業務費用推移を見てみます。

(単位:百万円)

2018年
6月期
2019年
6月期
2020年
6月期
2021年
6月期
2022年
6月期
人件費 66,859 67,710 72,462 73,786 75,414
施設関連費用 6,072 6,237 6,633 6,547 6,223
研修関連費用 1,200 1,239 1,126 690 740
情報システム関連及び通信費 3,415 3,990 4,214 4,303 5,861
その他の業務費用 19,094 19,533 19,177 17,157 21,505
合計 96,641 98,711 103,613 102,485 109,746

人件費を除くとその他の業務費用が前期比43億円増加(+25.3%)、情報システム関連及び通信費が16億円増加(+36.2%)となっています。

その他の業務費用では業務委託費が31億円増加(+44.2%)、また情報システム関連及び通信費では情報システム関連費用が19億円増加(+58.9%)と、それぞれ大きく伸びています。

(6) グローバル加盟料

あずさはメンバーシップ契約を締結しているKPMG International Limitedに対する費用負担と考えられるグローバル加盟料をその他業務費用に計上しており、その推移を見てみます。

グローバル加盟料は業績の拡大と並行して増加傾向にあり、2022年度は39億円と、前期比3億円増加(+9.5%)となっています。

当該費用は業務費用の3.6%を占め、また営業利益14億円を超える金額となっており、あずさの利益に大きな影響を与えています。

以上より業務費用をまとめると、その他の業務費用が前期比43億円増加(うち業務委託費31億円増加、グローバル加盟料3億円増加)、人件費が16億円増加(うち賞与9億円増加、賞与引当金繰入額3億円増加、退職給付引当金繰入額6億円増加)、情報システム関連及び通信費が16億円増加(うち情報システム関連費用19億円増加)したことにより、全体で73億円増加(+7.1%)となっています。

また業務費用の増加が増収幅(+5.5%)を上回ったことで業務費用比率は上昇、営業利益率は悪化となり、営業減益決算となっています(「4.利益 (1) 営業利益、営業利益率推移」参照)。