インド法人に対してコンサルティング等の対価を支払う場合には源泉徴収漏れに要注意です。
今回紹介する事案は、医薬品製造販売業を営む日本法人が、インド法人に対して医薬化学物質の研究やコンサルティング業務を委託し、業務委託料を支払ったところ、国税当局から当該業務委託料は国内源泉所得に当たると指摘され、源泉所得税の課税処分を受けたものです(平成30年2月15日裁決)。

1 事案の概要

医薬品製造販売業を営む日本法人A社は、インドに所在する外国法人に以下の業務を委託した。

イ 医薬化学物質に関する合成及び実験並びに化合物の分析等

ロ 化学化合物のカスタム合成等

ハ インドにおける薬事法規制等に関するコンサルティング

A社はインド法人に対して、インド国内において提供を受けた上記各業務の対価として業務委託料を支払った。

なお、インド法人は、日本国内に支店などの恒久的施設を有していなかった。

国税当局は、インド法人に支払った当該業務委託料については、所得税法161条第2項に規定する「人的役務の提供に係る対価」に対応することから、日印租税条約に規定する国内源泉所得に当たるとして源泉所得税の課税処分を行った。

A社は当該処分を不服として審査請求した事案である。

2 審判所の判断

国内源泉所得に該当するかどうかについては、二国間租税条約において、所得税法の規定と異なる規定がある場合には、二国間租税条約に定めるところによる。

日印租税条約第12条第2項では、「技術上の役務に対する料金」については、それが生じた国においても、その国の法令に従って租税を課すことができる旨規定されている。

また、第6項では、「技術上の役務に対する料金」は、その支払者が一方の締結国(このケースでは日本)の居住者である場合には、当該一方の締結国(日本)において生じたものとされる旨規定されている。

すなわち、日本法人が、インド法人に対して「技術上の役務に対する料金」を支払う場合には、日本国内で役務提供が行われていない場合であっても、当該料金は日本国内において生じたものとされ、国内源泉所得となり、源泉徴収の対象となる。

なお、「技術上の役務に対する料金」とは、技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としての全ての支払金をいうとされている(日印租税条約第12条第4項)。

以上を前提に、審判所では、A社が支払った業務委託料が源泉徴収の対象となるか検討し、以下の通り、源泉徴収義務を負うと判断した。

  1. インド法人が行った上記イ及びロの各業務はいずれも、受託者であるインド法人が医薬化学物質や化学化合物の合成、実験及び分析等を行うというものであるから、これらの業務は、科学技術分野に関する専門的知識や特別の技能を有するインド法人の知識又は技能を活用して行う役務の提供であったといえる。
  2. 上記ハのコンサルティング業務については、その受託者であるインド法人がインドにおける薬事法規制等に関するコンサルティングを行うものであったといえるから、この業務は、インド薬事法規制分野に関する専門的知識を有するインド法人の知識又は技能を活用して行う役務の提供であったといえる。
  3. 以上からインド法人に支払った業務委託料は「技術上の役務に対する料金」に当たり、A社は、業務委託料の支払の際、源泉徴収義務を負うと認められる。