インボイス制度が始まれば、少なからず個人事業主やフリーランスの方は影響を受けることになります。この記事では、個人事業主やフリーランスの方がインボイス制度に対してどのような対応を行うべきかについて解説していきます。
※なお本記事は2023年1月1日の情報に基づいている点に留意ください
この記事の目次
- 2023年からはじまるインボイス制度について解説!
- インボイス制度が個人事業主に与える影響の概要
- インボイス制度は個人事業主の廃業につながることも
- インボイス制度に対して個人事業主が取るべき対策
- インボイス制度に対して個人事業主が注意すべきこと
- 個人事業主がインボイス制度導入までに準備すべきことは?
- 免税事業者は何を準備する?
- 課税事業者(適格請求書発行事業者)は何を準備する?
- 個人事業主やフリーランスへの影響をパターン別で解説
- 自身が課税事業者で取引先も課税事業者のパターン
- 自身が課税事業者&取引先が免税事業者のパターン
- 現在免税事業者(売上1,000万円以下など)だが課税事業者になる選択をするパターン
- 現在免税事業者で今後も免税事業者を継続するパターン
- まとめ
2023年からはじまるインボイス制度について解説!
2023年10月からインボイス制度が始まります。
インボイス制度は、消費税・納付に関する新しい制度で、個人事業主やフリーランスとして活動する方に対して大きな影響があることが予想されています。
ここでは、個人事業主がインボイス制度が開始されることでどんな影響を被るかについて詳しく解説していきます。
インボイス制度が個人事業主に与える影響の概要
インボイス制度が個人事業主に与える影響として最も重大なものは、「消費税の仕入税額控除」です。
これをきちんと理解するためには、消費税の負担と納税の流れを理解する必要があります。
(引用元:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/aramashi/pdf/003.pdf)
ここでは、個人事業主の方の多くが属しているであろう小売業者を例にとりながら、仕入れ控除について説明していきます。
小売業者の方は、商品を販売するために商品の仕入れを行います。
今回の例にのっとれば、商品を70,000円分仕入れていますが、このとき同時に7,000円の消費税を支払わなければならないので、商品の仕入れには77,000円の費用がかかります。
この仕入れた商品を100,000円で販売する場合、当然、消費者の方から消費税を受け取ることになります。
この消費税額が、10,000円になります。
ここで今、小売業者である個人事業主の方は、7,000円分の消費税を支払っており、一方で、10,000円分の消費税を預かっています。
預かっている消費税は税務署に納めなければなりませんが、この場合、いくらの消費税を納税すればよいでしょうか。
そこで出てくるのが「消費税の仕入税額控除」です。
上記の例において、小売業者である個人事業主の方は10,000円分の消費税を支払わなければなりませんが、すでに7,000円分の消費税を支払っているので(これを消費税の仕入税額控除と言います)、最終的には、3,000円分の消費税を申告・納付すれば良いということになります。
しかし、インボイス制度が始まると、この消費税の仕入税額控除を行えない事業者が出てきます。
消費税の仕入税額控除を行えないとすると、先の例では、7,000円分の仕入税額控除を行うことができませんから、10,000円分の消費税を納めなければならなくなります。
このように、消費税の仕入税額控除を行えれば3,000円の納税で済むにも関わらず、消費税の仕入税額控除を行えないならば、10,000円分の消費税を納付しなければなりませんから、7,000円分もの損失が出ることになってしまうのです。
インボイス制度は個人事業主の廃業につながることも
インボイス制度が始まると、個人事業主の廃業につながる可能性もあるので、注意が必要です。
消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます。
そして、個人事業主の多くが、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者に該当します。
つまり、個人事業主の多くは消費税の免税事業者というわけです。
しかし、インボイス制度が導入されると、免税事業者である個人事業主は、適格請求書(インボイス)を発行することができません。
免税事業者である個人事業主の取引先は、適格請求書がないと消費税の仕入税額控除を行うことができなくなります。
消費税の仕入税額控除ができない場合、先ほど解説したように、消費税の納税額が増えてしまいます。
結果として、免税事業者である個人事業主との取引を敬遠するようになり、取引先の切り替えが進んでしまって、免税事業者である個人事業主が廃業してしまう可能性があるのです。
なお、消費税の仕入税額控除ができないことが、なぜ免税事業者である個人事業主にとって重要なのかは、のちほど具体的に説明します。
インボイス制度に対して個人事業主が取るべき対策
インボイス制度に対して、個人事業主が取るべき対策としては、取引先が消費税の仕入税額控除ができるよう、適格請求書(インボイス)を発行できるようにする必要があります。
つまり、免税事業者ではなく、税務署に登録をして、適格請求書発行事業者となる必要があります。
ただし、適格請求書発行事業者となると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても、登録の効力が失われない限り、消費税の申告が必要となる点に注意してください。
また、取引の相手側(課税事業者に限ります)から求められた場合、適格請求書を必ず交付しなければなりません。
なお、2023年1月1日現在、経過措置として、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、登録を受けた日から課税事業者となることが可能となっています。
インボイス制度に対して個人事業主が注意すべきこと
もちろん、適格請求書発行事業者として登録を受けるかどうかは事業者の任意です。
適格請求書発行事業者の登録を受けない場合、適格請求書の交付はできませんが、取引の相手方が、免税事業者であったり、簡易課税制度を選択している場合には、適格請求書を必要としていないケースもあるので、今すぐに登録しなければならないというものではありません。
しかも、取引の相手方は、経過措置によって、一定の期間については仕入税額の一部控除が可能となるような措置がとられているため、焦って登録する必要もありません。
個人事業主の方は、慎重に検討したうえで、適格請求書発行事業者になるかどうかを考える時間はあります。
個人事業主がインボイス制度導入までに準備すべきことは?
日本・東京商工会議所が2022年9月8日に公表した『「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果』によると、売上高1,000万円以下の事業者は、インボイス制度導入への準備状況について、「特に何もしていない」と回答しており、その割合は6割を占めています。
個人事業主=売上高1,000万円以下の免税事業者であることを考えると、ほとんどの免税事業者がまだインボイス制度に対する準備をしていないことがわかります。
そこでここでは、個人事業主が準備すべきことを説明していきます。
免税事業者は何を準備する?
繰り返しになりますが、現在、免税事業者である個人事業主は、インボイス制度に則り、「適格請求書発行事業者」として登録するかどうかを検討する必要があります。
適格請求書発行事業者ではない免税事業者(非適格請求書発行事業者)は、インボイス(適格請求書)を交付することができません。
そのため、適格ではないインボイスを受け取る取引先は、仕入税額控除を受けることができなくなります。
仕入税額控除を受けられないということは、単純に取引先で消費税の納税額が増えることを意味します。
したがって、取引先としては、納税額が増えてしまうので、適格請求書を発行できない事業者と取引を行わないという行動に出る可能性があるのです。
この意味で、現在、免税事業者として活動している個人事業主は、取引を継続してもらえるように、適格請求書発行事業者となるか、簡易課税制度の適用を受ける事業者となるか、免税事業者のまま活動を続けるかについて検討し、選択する必要があります。
課税事業者(適格請求書発行事業者)は何を準備する?
自身が課税事業者(適格請求書発行事業者)である場合、適格請求書が発行できるように準備をする必要があります。
適格請求書には、次の事項が記載されていることが必要です。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
具体的な記載例としては次のようになります。
(引用元:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf)
適格請求書の交付に加えて、適格請求書発行事業者は、交付した適格請求書の写しを保存する義務があります。
したがって、適格請求書の写しを保存できるよう準備しなければなりません。
交付した適格請求書の写しについては、交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存しなければなりません。
なお、「交付した適格請求書の写し」とは、交付した書類そのものを複写したものに限らず、その適格請求書の記載事項が確認できる程度の記載がされているものもこれに含まれますので、たとえば、適格簡易請求書に係るレジのジャーナル、複数の適格請求書の記載事項に係る一覧表や明細表などの保存があれば問題ありません。