インボイス制度が導入されると、簡易課税制度を利用している事業者はどのような影響を受けるのでしょうか?この記事では、インボイス制度と簡易課税制の関係をわかりやすく解説していきます。
※なお本記事は2023年1月1日の情報に基づいている点に留意ください
この記事の目次
インボイス制度が簡易課税事業者に与える影響
2023年10月1日にインボイス制度が開始となると、簡易課税制度を利用している簡易課税事業者にはどのような影響があるでしょうか。
これを理解するために、ここでは、まずインボイス制度の概要について説明し、その後、簡易課税制度について解説していきます。
結論から言えば、簡易課税制度を利用している簡易課税事業者は、納めるべき消費税額をみなし計算によって算出するため、取引の事実を記録し、あとで説明する区分経理に対応した帳簿及び事実を証する請求書の保管も必要ないため、インボイス制度が導入されても大きな影響はないと考えられます。
そもそもインボイス制度とは 〜インボイスは「課税事業者であることの証明」〜
インボイス制度とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるために一定の要件を備えた請求書の発行を求める制度です。
自身の発行する請求書について、従来の区分記載請求書に記載が求められる事項に加えて、登録番号、適用税率、消費税額等の記載が必要となります。
2023年1月1日現在、日本の消費税等の税率は標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率があるため、事業者の方は、消費税等の申告等を行うために、取引等を税率の異なるごとに区分して記帳するなどの経理処理が必要です(これを区分経理と言います)。
この場合、取引の事実を記録し、区分経理に対応した帳簿及び事実を証する区分記載請求書等の両方の保存が必要となります。
インボイスを発行できるのは登録した課税事業者だけ
先に説明したインボイス(適格請求書)を交付できるのは、登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。
インボイス制度が開始される令和5年10月1日から登録を受けようとする事業者(適格請求書発行事業者となろうとする事業者)は、原則として、令和5年3月31日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出しなければなりません。
適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうかは事業者次第です。
適格請求書発行事業者の登録を受けた場合には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となったとしても、登録の効力が失われない限り、消費税の申告が必要となります。
2023年1月1日時点において、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合、免税事業者として消費税を納める必要はありませんが、適格請求書発行事業者となった場合には、課税売上高が1,000万円以下となった場合でも、消費税の申告が必要です。
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、売上高を使って消費税の納付税額を計算する制度のことを言います。
簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から導入された措置です。
納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することで、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度を基準期間として、課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上に係る消費税額に事業区分に応じて定められた「みなし仕入率」を乗じて計算した金額を仕入れに係る消費税額として、売上に関する消費税額から控除できます。
簡易課税制度を適用する場合の「事業区分」と「みなし仕入率」は、次のとおり定められています。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業 (小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) |
80% |
第3種事業 (農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) |
70% |
第4種事業 (第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業。具体的には飲食店業など) |
60% |
第5種事業 (運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) |
50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
(参照元:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm)
一般課税と簡易課税制度の計算の違い
(引用元:https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/303.pdf)
一般に、事業を行う事業者は、課税期間における課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除した金額を納付しますが、簡易課税制度を適用する事業者とその他の事業者(一般課税事業者)とでは、仕入控除税額の計算方法が異なります。
上の図のように、一般課税制度のもとでは、課税売上(売上高×適用税率)から課税仕入(仕入高×適用税率)を差し引いて、納付税額を計算します。
このため、一般課税制度のもとでは、課税売上に関する消費税額から課税仕入れ等に関する消費税額を控除して、納付する消費税額を算出します。
一般課税制度の場合、課税売上高も、課税仕入高も、納品書や請求書など取引が行われたことの証拠となる証憑(しょうひょう)を積み上げて計算しなければなりません。
つまり、納品書や請求書のような証憑の保管が欠かせません。
その結果、証憑の保管にかなりの手間をかけなければならないことがわかります。
一方、同じく上の図のように、簡易課税制度のもとでは、課税売上(売上高×適用税率)から課税仕入(売上高×適用税率×みなし仕入率)を差し引いて、納付税額を計算します。
このため、簡易課税制度のもとでは、課税売上に関する消費税額に、事業に応じた一定のみなし仕入率を掛けた金額を課税仕入れ等に関する消費税額とみなして、納付する消費税額を計算します。
特に簡易課税制度のもとでは、課税仕入は売上高×適用税率×みなし仕入率によって計算されるので、必ずしも請求書のような証憑を保管する必要がなくなります。
証憑がなくとも、課税仕入をみなしで計算することができるからです。
簡易課税制度の適用を受けるためには
簡易課税制度の適用を受けるためには、個人の場合には前々年、法人の場合には前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ、「簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している必要があります。
新規開業等した事業者については、開業等した課税期間の末日までに届出書の提出を行なうことで、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが可能です。
なお、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間に「適格請求書発行事業者」の登録を行い、登録を受けた日から課税事業者となった場合、その課税期間から「簡易課税制度」の適用を受ける旨を記載した、「消費税簡易課税制度選択届出書」をその課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することも可能です。
簡易課税制度の適用を受けるにあたっての注意点
簡易課税制度を選択した事業者は、2年間以上継続した後でなければ、選択をやめることはできません。
また、簡易課税制度を適用するために消費税簡易課税制度選択届出書を提出している場合でも、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えるような場合、その課税期間については簡易課税制度は適用できないので注意してください。