監査法人を辞め、夫婦で約2年間世界を旅した石塚皓氏。今回は、仕事を辞めて旅に出ることのメリットとデメリットについて伺いました。

「仕事辞めるなんて思い切ったね」「自分も旅をしたいけど、将来のことを考えるとなかなか踏み切れない」。旅をする前、そして帰ってきてから、多くの知人・友人からこういった言葉をかけられました。将来については自分たちにも不安な部分はありましたが、それでも夫婦二人とも有資格者ということもあり、「まぁなんとかなるだろう」とタカをくくっていました。

いずれにせよ、長期の旅にはこれまでのキャリアなど、失うものがあることは否定できません。ですがいろいろな国や文化を見たからこそ得られるメリットもあると感じます。

そこで今回は、仕事を辞めて旅に出ることのメリットとデメリットについて実体験を基に考えてみます。

【旅のメリット1 交友関係が広がる】

キューバのハバナにて。

監査法人勤務の会計士だと、クライアントの経理部門や内部統制部門など、比較的堅い職に就いている人と接することが多く、いわゆる「ちゃんとした」人々と人間関係を構築していくケースが多いのではないでしょうか。

一方、旅先で出会う人々の経歴は実にさまざま。元サラリーマンのほか、美容師、看護師、パン屋、水商売、ツアーコンダクター、ショップ店員、料理人、SE……。職歴もバリエーションに富んでいますが、そもそも一風変わった人が多い印象。ビザが切れて不法滞在になってしまい、数年に一度の永住権付与を待っている人。旅をしているうちに気付いたら7年以上経ってしまった夫婦。彼らの話は新鮮で面白く、「そんな生き方があるんだ?」と驚かされることもたくさん(変わりすぎていてシンドイ方もいましたが…)。普通に仕事を続けていたらまず出会う機会がない人と知り合えることは大きなメリットだと思います。

もちろん日本人だけではなく外国人の友達をつくることも簡単。この場合は語学の勉強にもなり、一石二鳥と言えます。

【旅のメリット2 タフになる】

モザンビークではこの状態で5時間以上耐え抜きました。

予想外のことが起こるのが旅の常。電車やバスが数時間遅れる、本物の警察官にカツアゲされる…日本では想像もできないトラブルが巻き起こります。その場では戸惑ったり腹が立ったりしますが、徐々にトラブルにも慣れ、臨機応変に対応できるタフさが身に付いてきます(慣れすぎるのも困りますが)。

また一部地域を除き、海外ではぼったくりがザラのため、まずは相手を疑ってみるところから入る癖がついてしまいます。監査を独占業務とする会計士にとっては悪くない点かもしれません。

【旅のメリット3 新しい仕事につながる】

旅をする中で、これまでのキャリアと全く異なる仕事に出会えるかもしれません。僕の場合は「文章を書くことが楽しい」という発見があり、それまでは思ってもみなかったことが、結果として仕事につながっていく場合もあります。

また気に入った場所が見つかり、そこで仕事を始める日本人もいるよう。世界各地にある日本人宿で働いている人も見かけました。世界各国に提携先のファームがあるような監査法人に勤めている会計士なら、好きな国で職を探すのもありかもしれません。

【旅のメリット4 視点が変わる】

危険な国とのイメージがあるイランの人たちは、実はとってもフレンドリー。

世界各地を周っていると、日本では「当然」のことが全く通用しないことが多々あります。例えばヒマラヤトレッキング中に立ち寄った山小屋で「フレッシュなチキンが食べられるよ!」と言われ喜んでいると、小屋の主人が鶏の首を折るところから始まる、なんてこともありました。

すると、いつしか「海外ではこれが普通」「国際的にはこういうトレンド」といった言葉と実際の自分の経験の間に違いを覚えるようになりました。おそらく以前とは違った〝モノサシ″で、いろいろな角度から物事を見るようになったのでしょう。帰国後、今までなら「信頼してもまあ大丈夫だろう」と捉えていた物事も、一度立ち止まって慎重に考えるようになったと思います。