年金は原則65歳から受給できます。しかし、60歳から年金を受給できるよう繰り上げたり、66歳以降に受給できるよう繰り下げたりすることも可能です。ここでは、年金の繰り下げ受給を中心に解説します。

この記事の目次

老齢年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給

老齢年金は繰り上げて受給したり、繰り下げて受給することが可能です。

まずは、老齢年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給の基本的な考え方について解説していきます。

なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、それぞれ独立して繰り下げ受給することが可能です。

老齢年金の繰り上げ受給とは

老齢年金の繰り上げ受給とは、定められた受給開始年齢よりも早く、早期に年金を受け取り始めることを指します。

日本の公的年金制度においては、基礎年金(第1号被保険者)及び厚生年金(被用者)の基本的な受給開始年齢は65歳となっています。

しかし、繰り上げ受給制度を利用することで、60歳から年金の受給を開始することが可能です。

ただし、受給開始年齢を早めると、月々に受け取ることができる年金額は減少します。

これは、年金が生涯にわたって支払われることを前提としているため、受給期間が長くなるほど月額が減少するという原理に基づいています。

繰り上げの減額率は以下の表のようになります。

昭和37年4月1日以前生まれの方(ひと月当たりの減額率0.5% )

◀左右にスクロールします▶
請求時の
年齢
0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月
60歳 30.0% 29.5% 29.0% 28.5% 28.0% 27.5% 27.0% 26.5% 26.0% 25.5% 25.0% 24.5%
61歳 24.0% 23.5% 23.0% 22.5% 22.0% 21.5% 21.0% 20.5% 20.0% 19.5% 19.0% 18.5%
62歳 18.0% 17.5% 17.0% 16.5% 16.0% 15.5% 15.0% 14.5% 14.0% 13.5% 13.0% 12.5%
63歳 12.0% 11.5% 11.0% 10.5% 10.0% 9.5% 9.0% 8.5% 8.0% 7.5% 7.0% 6.5%
64歳 6.0% 5.5% 5.0% 4.5% 4.0% 3.5% 3.0% 2.5% 2.0% 1.5% 1.0% 0.5%

(引用:年金の繰上げ受給

昭和37年4月2日以降生まれの方(ひと月当たりの減額率0.4% )

◀左右にスクロールします▶
請求時の
年齢
0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月
60歳 24.0% 23.6% 23.2% 22.8% 22.4% 22.0% 21.6% 21.2% 20.8% 20.4% 20.0% 19.6%
61歳 19.2% 18.8% 18.4% 18.0% 17.6% 17.2% 16.8% 16.4% 16.0% 15.6% 15.2% 14.8%
62歳 14.4% 14.0% 13.6% 13.2% 12.8% 12.4% 12.0% 11.6% 11.2% 10.8% 10.4% 10.0%
63歳 9.6% 9.2% 8.8% 8.4% 8.0% 7.6% 7.2% 6.8% 6.4% 6.0% 5.6% 5.2%
64歳 4.8% 4.4% 4.0% 3.6% 3.2% 2.8% 2.4% 2.0% 1.6% 1.2% 0.8% 0.4%

(引用:年金の繰上げ受給

繰り上げ受給を選択するか否かは、個々の生活設計、健康状態、財務状況などを考慮に入れた上で決定されるべき重要な選択となります。

たとえば、早期退職を予定している、健康状態が悪く働くことができないと感じている、給与以外の収入源がないなど、個々の状況次第です。

老齢年金の繰り下げ受給とは

老齢年金の繰り下げ受給とは、定められた受給開始年齢よりも遅く、年金を受け取り始めることを指します。

繰り下げ受給制度を利用することで、最長で75歳まで受給開始を遅らせることが可能です。

1952年4月2日以降に生まれ、2022年4月以降に70歳になる人々に対して、年金の受給開始時期の選択肢が変更されました。

以前は70歳までの受給開始でしたが、新たに繰り下げ受給を選択することで年金の受給開始を66歳から75歳までの間で選ぶことができるようになっています。

受給開始年齢を遅らせると、月々に受け取ることができる年金額は増加します。

繰り下げの増額率は以下の表のようになります。

繰下げ増額率早見表

◀左右にスクロールします▶
請求時の
年齢
0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月
66歳 8.4% 9.1% 9.8% 10.5% 11.2% 11.9% 12.6% 13.3% 14.0% 14.7% 15.4% 16.1%
67歳 16.8% 17.5% 18.2% 18.9% 19.6% 20.3% 21.0% 21.7% 22.4% 23.1% 23.8% 24.5%
68歳 25.2% 25.9% 26.6% 27.3% 28.0% 28.7% 29.4% 30.1% 30.8% 31.5% 32.2% 32.9%
69歳 33.6% 34.3% 35.0% 35.7% 36.4% 37.1% 37.8% 38.5% 39.2% 39.9% 40.6% 41.3%
70歳 42.0% 42.7% 43.4% 44.1% 44.8% 45.5% 46.2% 46.9% 47.6% 48.3% 49.0% 49.7%
71歳 50.4% 51.1% 51.8% 52.5% 53.2% 53.9% 54.6% 55.3% 56.0% 56.7% 57.4% 58.1%
72歳 58.8% 59.5% 60.2% 60.9% 61.6% 62.3% 63.0% 63.7% 64.4% 65.1% 65.8% 66.5%
73歳 67.2% 67.9% 68.6% 69.3% 70.0% 70.7% 71.4% 72.1% 72.8% 73.5% 74.2% 74.9%
74歳 75.6% 76.3% 77.0% 77.7% 78.4% 79.1% 79.8% 80.5% 81.2% 81.9% 82.6% 83.3%
75歳 84.0%

(引用:年金の繰下げ受給

老齢年金の繰り下げ受給を検討すべき人は、以下のような特性を持つ人々です。

まず、健康状態が良く、長生きが予想される人が挙げられます。

年金は生涯にわたって受け取ることができる収入であり、受給期間が長くなるほど総額が増えるため、長寿を見込んでいる人は繰り下げ受給を検討すべきです。

また、仕事を続ける意向がある人も繰り下げ受給を検討する対象となります。

たとえば、65歳を過ぎても働く予定がある場合、年金の受給を遅らせることで働きながらもより多くの年金を受け取ることが可能です。

さらに、他の収入源がある人も繰り下げ受給を検討してみてください。

たとえば、貯蓄や投資、不動産などの別の収入源がある場合、年金の受給を遅らせることで税金を節税することができます。

最後に、税負担を抑えたい人も繰り下げ受給を検討した方がよいでしょう。

年金受給が始まると、その収入に対して税金がかかりますが、受給開始を遅らせることで税負担を遅らせることができます。

老齢年金の繰り上げ制度と繰り下げ制度の利用状況

(引用:新法厚生年金保険(老齢厚生年金)受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況の推移

この図表をみるとわかるとおり、老齢厚生年金を受ける資格のない受給者の繰り上げ・繰り下げ受給について見ると、令和3年度末時点での繰り下げ率は1.2%であり、繰り上げ率は0.6%となっています。

このデータから、繰り上げ・繰り下げともにそれほど多くの人が利用しているわけではないことがわかります。

ほとんどの人が、本来の受給開始年齢である65歳から年金の受給を始めています。