貿易業を営む会社に対する税務調査では、輸出売上の計上基準が問題となることがあります。一般的には船積日が売上計上日として合理的とされています。
近年では、国税当局は海外取引を行う法人に対する税務調査を強化しています。
今回は、税務調査での重要項目の一つである「輸出売上の計上時期」について考えてみたいと思います。
輸出売上の計上基準
棚卸資産の販売による収益の額については、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入することとされています。
輸出取引の場合には、通常、船積みした日が引渡しの日として合理的であるとされており、具体的には、船会社が発行する船荷証券(Bill of Landing)に記載された船積日に売上計上することが一般的のようです。
法人税基本通達2-1-2(棚卸資産の引渡しの日の判定)の中でも、以下の通り貿易取引の引渡し日の例として、船積日が挙げられています。
『棚卸資産の販売に係る収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。・・・』
税務調査では、船積書類、インボイス、パッキングリスト(包装明細書)などの書類をもとに、売上が適正に計上されているか確認されます。
輸出売上の計上時期が争点となった事例
以下で紹介する事例は、輸出売上の計上時期が争点となった裁決事例です(昭和61年12月8日裁決)。
1 事案の事実関係
貿易業を営むⅩ社は、輸出取引について、商品を船積みした上、船荷証券の発行を受けて為替手形を振り出し、これに船荷証券を添付して荷為替手形とし、これを銀行に引き渡した日を商品の引渡し日とする基準(以下「船荷証券引渡基準」)で、輸出売上を計上していた。
これに対し、国税当局は、船荷証券引渡基準は妥当なものといえず、船積みの日を商品の引渡し日とする基準(以下「船積基準」)で売上げを計上すべきであるとして、更正処分を行った事案である。
2 審判所の判断
審判所は、商品等の販売に関しての収益の認識基準は、原則として引渡しを基準とするのが相当であるが、引渡しの概念自体が必ずしも明瞭でなく、また、X社のような貿易業者の輸出取引は、取引内容が複雑かつ多様性に富んでいるので、引渡しの時期の判定に際しては、取引形態、引渡手続及び契約条件などの輸出取引の実態により判断すべきであるとした上で、以下の通り、「船積基準」は収益の計上基準として合理的であるが、「船荷証券引渡基準」については妥当な基準とはいえないと判断しました。
ⅰ. 「船積基準」についての判断
X社は、輸出取引に係る貿易条件をいわゆるFOB(本船渡)、CIF(運賃保険料込)及びC&F(運賃込)条件として契約を締結し、輸出取引を行っている。
FOB条件の場合は、貿易慣習として商品等を本船に船積みした時点をもって、その所有権及び危険負担がすべて売主から買主へ移転するとされるものであるから、商品の引渡しについての基準を船積基準とすることについては特に問題点は認められない。
CIF条件及びC&F条件については、危険負担は本船に商品等を船積みした時点で売主から買主へ移転するとされ、また、商品等の所有権は、船荷証券を含む船積書類が買主に提供されたときに船積み時にさかのぼって移転するとの考え方が買手側における取引慣行とされている。
売主側については、売主は商品を本船に積み込んだ後には商品の現実的な管理支配ができない状態に至る一方、信用状と保険制度の発達、普及により、実際上商品代金回収の際の貸倒れの危険性から解放されることから、売主側では、商品の本船積込みの時でもって引渡しが完了し、収益が確定するものといえる。
以上から、商品の本船積込み時に引渡しがあったとみる船積基準は、商品の占有移転の時期及び収益実現の時期に関する損益計算原則の権利実現の観点からみても妥当な基準といえる。
ⅱ. 「船荷証券引渡基準」についての判断
船荷証券は、それ自体が有価証券として流通するものであることからすると、もはやそれは商品ではあり得ず、(―中略―)売主は荷為替手形を銀行に売り渡すことにより、はじめて輸出商品に対する所持、支配を失うものでないことは明らかである。
売主の船荷証券を銀行に引き渡す行為は、売買契約における実際の商品の引渡しとは異なって、売主が引渡しの時期を比較的自由に決定できるものであるから、売主はこれを利用した期間損益の調整が可能であり、恣意的操作の入り込む余地のあることは否定できないところであり、船荷証券引渡基準は、この点においても公正妥当な会計処理の基準として相当とはいえない。