2023年4月に民事再生法の適用を申請したユニゾホールディングスについて、2019年3月期から2022年9月期までの有価証券報告書の注記、監査報告書を分析します。
この記事の目次
2.連結財務諸表注記
次に連結財務諸表の注記を見ていきます。
(1)会計方針に関する事項-貸倒引当金の計上基準
会計方針に関する事項において貸倒引当金の計上基準が記載されています。
貸倒引当金の推移は以下となっています。
2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 | 2022年9月 | |
流動 | △1 | △0 | △1 | △1 | △1 |
固定 | △0 | △0 | △0 | △0 | △0 |
合計 | △1 | △0 | △1 | △1 | △1 |
連結貸借対照表の推移から推測すると、2021年度に発生した親会社チトセア投資に対する貸付金(2021年度末:2,060億円、2022年度末:2,051億円)に対しては、個別に貸倒引当金は設定していなかったようです。
当該貸付については、当初よりマスメディアにおいてチトセア投資の返済能力に関する疑問が呈されており、また2022年度には回収予定が10年超後となる長期への振替も行われています。
通常、短期として貸付を行っていた債権について回収期限を延長する場合は回収可能性が論点となりますが、会社は回収可能性に問題なしと判断して引当金を計上せず、監査人もそれに同意していたことになります。
(2) 連結貸借対照表関係-資産の保有目的の変更
2020年度において資産の保有目的の変更を行い、有形固定資産および無形固定資産から販売用不動産へと1,437億円振り替えていることが記載されています。
保有目的の変更に際して、監査・保証実務委員会報告第 69 号「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」は、取締役会等により承認された具体的な事業計画と保有目的変更の経済的合理性検討を求めており、特に経済合理性の面では営業損益の改善を目的としていないかといった点で検討されたものと考えられます。
(3) 配当に関する事項
2019年度は25億円、2020年度は15億円でしたが、上場廃止となった2021年度は3度の臨時株主総会決議により合計532億円もの金額を配当として支払っています。
2022年度及び2022年9月期はいずれも11億円となっています。
推移を見ると2021年度がいかに特殊だったかが分かります。
* 非支配株主への配当金の支払額3百万円を含む
** 2022年9月期は中間決算
2021年度は親会社チトセア投資に対して貸付金のほか、配当の形でもキャッシュが流れており、総額3,000億円程度にのぼります。(うち、約500億円は2021年度に回収)
(4) 金融商品の時価等に関する事項
金融商品の時価等に関する事項では金銭債権債務を含む金融商品の時価等が記載されています。
2022年度の有価証券報告書を見てみます。
2022年度の資産を見るとチトセア投資に対する貸付金が記載されていますが、連結貸借対照表計上額と時価の金額は2,051億円で同額、つまり差異は生じていません。
金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項によると貸付金はレベル2(観察可能な時価の算定に係るインプットのうち、レベル1のインプット以外の時価の算定に係るインプットを用いて算定した時価)に区分され、具体的な時価の算定方法として国債利回り等にリスク区分ごとの信用スプレッドを加味した割引率をもとにした割引現在価値法を採用していることが記載されています。
2022年度の注記では金銭債権及び満期のある有価証券の連結決算日後の償還予定額が開示され、チトセア投資に対する長期貸付金2,051億円全額の償還予定が10年超とされています。
回収期間10年超を予定するレベル2の貸付金に対して、割引現在価値法による時価評価が行われ、その結果として時価=帳簿価額となったようですが、用いられたリスク区分や割引率等、具体的な時価評価の算出過程が気になるところです。
一方、負債側の社債を見ると連結貸借対照表計上額と時価の差額が年々拡大しており、ユニゾの信用リスクが増大している様子がうかがえます。
2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 | |
連結貸借対照表計上額 | 1,040 | 1,040 | 990 | 790 |
時価 | 1,038 | 1,028 | 394 | 309 |
差額 | △2 | △12 | △596 | △481 |
金融商品の時価等に関する事項では社債等の返済予定も記載されています。
2023年度361億円、2024年度に386億円…と多額の返済が予定されています。
営業キャッシュフローは10億円程度にとどまり返済予定額には到底届かず、売却可能な資産も大きく減少するなど、2022年3月時点で資金繰りは非常に厳しくなっていたことが推察されます。
(5) 関連当事者情報
関連当事者との取引では2021年度以降、チトセア投資との取引が開示されています。
2022年度の該当箇所を見てみます。
2021年度に2,572億円を貸し付け、うち512億円は同じ期に返済を受けており、また2022年度には9億円が返済されているものの、2022年3月末時点では2,051億円が残高として計上されています。
貸付の利率は市場金利を勘案して決定していると記載されていますが、貸付金の残高と受取利息からは0.4%程度と推測されます。
また担保は未設定となっています。
(6) 重要な後発事象
2022年度において連結子会社のユニゾ不動産及びユニゾホテルにて資金調達のために固定資産を売却することが重要な後発事象として開示されています。
売却金額等は明記されていませんが、譲渡益の合計は104億円にのぼり、2022年9月の半期報告書におけるキャッシュフロー計算書では有形固定資産の売却による収入として263億円が計上されています。
2022年4月の取締役会決議分は以下となっています。
(7) 継続企業の前提
2020年度~2022年度まで、継続企業の前提に関する注記は記載されていませんが、2022年9月期の半期報告書では継続企業の前提に関する事項が記載されています。
当該注記では現金及び預金184億円に対して有利子負債2,344億円と高水準なことに加えて、中間時点で経常損失6億円となったことが記載されています(連結ベース)。
(連結)
(単体)
なお継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせる事象または状況については、同半期報告書の第2【事業の状況】1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、2【事業等のリスク】、さらには中間監査報告書においても言及されています。