会計・監査のプロフェッショナル集団である監査法人では、高品質な監査を提供する上で人材の採用や育成等が最重要事項の一つとなります。またダイバーシティや多様な働き方等、SDGs/ESGに対する課題認識も監査法人の人材に対する取り組みに影響を与えています。今回は、2021年10月に公表された「監査品質に関する報告書2021」(*1)をもとに、有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)における人材の考え方や施策を見ていきます。

監査品質報告書とは
各監査法人は、監査の品質に関するステークホルダーとのコミュニケーションや監査法人のガバナンス・コードへの対応等を目的として監査品質報告書を作成しており、その中で人材の位置づけや様々な取り組みが紹介されています。本稿はトーマツの「監査品質に関する報告書2021」をもとにしています。
人材に関する監査品質の指標
「監査品質に関する報告書2021」冒頭に「監査品質の指標(AQI)の概要」が記載されています。ここでは人材に関する監査品質の指標(Audit Quality Indicators 以下、AQI)について確認していきます。
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・平均研修時間 82時間
研修はタレントマネジメントの一つの柱として位置づけられており、「ベーススキル」「テクニカル・プロフェッショナルスキル」等、4種類の社内研修のほか、監査のデジタル技術やクライアントのDXへの対応などを目的とした「Tech Savvy」という育成プログラムや、外部機関による研修を実施している、としています。2021年度の平均研修時間は82時間で、これは後述する年間の平均執務時間のうち約4%に相当します。
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・監査従事者の異動状況 約280名
同じくタレントマネジメントの観点から多様な経験を積むための機会として監査法人内やグループ内外への異動を重視するとしており、2021年には約280名の監査従事者が異動を経験しています。これは構成人員7,128名のうち約4%に相当します。
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・社員の海外勤務経験者割合 38%
企業のグローバル化の進展に伴いグローバル監査の重要性が高まる中、グローバル人材の育成を重視するとしています。社員における海外勤務経験者の割合は36%となっており、これは2021年度末の社員数538名のうち、200名弱に海外経験があることになります。
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・女性比率
パートナー、マネージングディレクター 10%
シニアマネジャー、マネジャー 20%
高品質な監査&価値創出の基盤となるDiversity, Equity & Inclusion (DEI)を掲げる中、2021年度の女性比率はパートナー、マネージングディレクターでは10%、シニアマネジャー、マネジャーでは20%となっています。トーマツにおける女性比率は政府が目指している30%程度(*2)という数値を下回っていますが、今後、女性比率を高めていく目標を掲げています。
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・監査従事者の年間平均執務時間
社員 2,196時間
職員 1,921時間
働きやすい職場環境の指標として業務時間が挙げられており、2021年度は社員が2,196時間、職員が1,921時間となっています。社員の方が職員よりも275時間(14%)長く働いていることになります。