公認会計士がなぜ生命保険のライフプランナーに?

■別の業界へのチャレンジという話では、菊池先生のプルデンシャルへの転職がまさにそうですよね。いつ、どのようなきっかけで転職をしたのですか?
菊池:2014年の3月に、プルデンシャルに入社をしました。今年で入社11年目です。
僕は2010年の会計士試験で合格をしたのですが、当時はいわゆる超就職氷河期時代で、監査法人も採用をかなり絞り込んでいました。そもそも僕が会計士を目指したのは、自由な働き方への憧れが強かったからなのですが、それでも最初は何となく監査法人に就職するのかなと思ってはいました。でも、ふたを開けてみたらそんな状況で(笑)。そうした時代背景もあり、税務申告や中小企業向けのコンサルティングといった経験を積んで、早く独り立ちしたいと考え、会計事務所への就職を選びました。
監査法人での上場企業の監査は会計基準が中心です。一方で会計事務所では、中小企業のクライアントに対して税務や会社法の知識を求められる局面も多く、会計士試験の勉強が幅広く活きました。J1の頃から中小企業の経営者の方たちともお話しする機会にも恵まれ、非常に充実した時間を過ごせました。
そこで3年くらい働いて、会計事務所での経験がある程度一巡してひと通りの業務を把握できたので、次の道へと考えました。自分の裁量や自分の名前で仕事をしたいという気持ちが強くなっていたタイミングでした。
■独立ではなく転職だったのですね。
菊池:漠然と独立への憧れはあったものの、当時25歳の自分には独立後の明確な事業計画も、自信を持てる専門分野も正直ありませんでした。ただ熱意だけはあったので、どうやって自分の付加価値を出せばいいかを考えたのですが、それに関しても答えが出なくて。当時いろいろな人にキャリア相談をしたり、人を紹介していただいたりしたのですが、その中でたまたまプルデンシャル生命の営業所長とご縁があり、ライフプランナーという仕事を知りました。
「CIP(Career Information Program )」という仕事についてのセッションを受けることになったのですが、正直最初は、自分が保険営業職に就くことになるとは全く思っていませんでした。でも話を聞いていくうちに、この仕事は自分が求めていた理想のスタイルにすごく合うのではと思ったんですね。
■どのような点でそう思ったのでしょうか?
菊池:プルデンシャルのライフプランナーという職種は、個人の裁量が非常に大きいのが特徴です。大事な考え方やスキルについては会社がしっかり研修をしてくれますが、顧客開拓は全てライフプランナー自身の裁量に委ねられています。また日々のスケジュールも自分で組み立てていくのでかなり自由度の高い働き方だと思います。
またさまざなな方とお話しした中で会計士業界は、どちらかというとコミュニケーションや営業力などのソフトスキルより、専門知識を重視する印象があります。そうした業界の特色も踏まえて、自分は専門知識はもちろんのこと、ソフトスキルもしっかり磨くことで差別化ができるのではと考えました。それを学べる環境がプルデンシャルであり、生命保険業界だと思ったんですよね。
保険業界は、逆にソフトスキルが重視される業界だと思います。素晴らしい営業力や人間力をお持ちの方はたくさんいらっしゃいますが、会計業界と比べると、まだまだ知識専門職が働く業界という認知はされていないと思います。なのでソフトスキルに加えて、会計士というバックグラウンドを持ってプロフェッショナルとして金融サービスが提供できれば、差別化にもなるし、何より関わってくれる方々に大きな貢献ができるのではと考えました。
生命保険の細かい内容はお客様も忘れてしまいがちですし、保険に加入していても担当者のサポートがなければいざというときに途方に暮れてしまう方は多いのではないでしょうか。ご縁のあった方々に、プロとしてしっかりと経済的保障と心の平穏が提供できたらと思い、転職を決意したのが当時の経緯です。
■10年間で、その差別化は成功できましたか?
菊池:ある程度できていると感じられることも、まだまだだと感じてしまうこともありますが、時系列で辿ると特に最初の2、3年はかなり大変でした。社会に出てからという意味では、間違いなく一番辛かった時期だといえます。当時は会計業界の常識から、お客様に正しい知識を伝えれば承諾して保険に加入してもらえるという感覚でいました。でも、生命保険に関しては全くそんなことありませんでした。
まずは今までつながりのあった友人や知人に、「プルデンシャル生命に転職したから、保険の話を聞いてほしい」といきなり電話をするところから始まるわけです。もちろん応援してくれる人もいてくれましたが、けっこうな割合でアポイントをいただく前に拒絶されました。自分としては、1カ月間しっかり研修を受けて、先輩にもさまざまなレクチャーをいただいた上で、身につけた知識でその人のニーズに合う保険を提供することで役に立ちたいという思いで電話をかけるのですが、相手からしたらやっぱり売りつけられるみたいな感覚が強いですよね。残念ながら僕の未熟さゆえに、このタイミングで関係が途切れてしまった人もいます。
そこで、正しいことを「伝える」ことと、それが相手に「伝わる」ことは全く別物なのだと身をもって実感しました。正しいものを提供するのは当然ですが、それがどうやったら目の前の方に伝わるのかということについて、試行錯誤を繰り返しました。今も試行錯誤はしていますが、特に最初の壁はそこにありました。
自分はそれなりに友人が多い方だと思っていたのですが、それでもライフプランナーとして仕事を始めて半年くらいすると、もう連絡ができるところが無くなります。このままでは立ち行かなくなると思い、すでに保険をお預かりしている方や応援してくれる方に紹介をお願いしたり、さまざななビジネス交流会や飲み会に足を運び、保険の話を聞いてくれる方を必死に探しました。最初の1、2年はとにかく必死で、怒涛の日々でしたが、3年ぐらい経つと少しずつ軌道に乗ってきます。何の実績もない営業マンだった僕が、やっと手応えを掴んでいきます。
公認会計士のキャリア相談が転機に
■どのような手応えをつかんだのですか?
菊池:元々の友人知人もやはり会計業界の方が多かったため、紹介依頼をすると事務所や予備校の同期や後輩の方をご紹介いただくことが多く、必然的に会計士はじめ会計業界のお客様が増えていきました。
そうして実際にご紹介いただいた会計士にお会いし、「なぜ会おうと思ってくれたのですか?」と訊ねると、けっこうな頻度で「業界の外に出た会計士の話を聞いてみたかった」という答えが返ってきました。そもそもよっぽどの親友でもないと、お酒が入っていない状態で1対1でみっちりその人の人生についてお話を聞かせていただく機会って、そう多くはないですよね。ライフプランナーにとって、生命保険の設計に直結するような家族構成、経済状況だけを事務的に情報収集するのではなく、その人の価値観や考え方も含めて深くヒアリングをすることは大切です。そんな観点でお話をすると、多かれ少なかれ「今後のキャリアをどうすべきか」という話題になります。前述の通りで、会計士のキャリアの選択肢は非常に幅広く、そこが魅力でもあるのですが広すぎるゆえの悩みを抱えている人は10年前も今も多いと感じます。なので生命保険の話にはそれほど興味がなくとも、その人のキャリアの悩み対して何かしら有益な情報やつながりを提供できれば、菊池という人間に付加価値や信頼を感じてもらえるのでは、友人を紹介してみようとも思ってくれるのではと考えました。そうして、3年目くらいから会計士業界の役に立つ活動を積極的に取り組みました。
■具体的にどんなことをやったのですか?
菊池:公認会計士協会の活動、中でも青年部という若手組織の活動には積極的に関与し、委員を5年ほど務めさせていただきました。現在も続く組織内会計士協議委員会の委員の活動や、各種イベントの登壇の機会もいただきました。以前KaikeiZineさんでコラムを書かせていただいたのも、プルデンシャルに入社して3年目くらいだったと思います。
自分から動いて発信をすることで、少しでも会計士業界をポジティブにできたらと思ってやってきましたし、これからもそうしていきたいと思っています。そうすると、同じように会計士業界を盛り上げたいと思っている方々とのご縁も自然と広がっていきました。
■業界全体を考えることにつながったという意味でも、プルデンシャルへの転職は良い転機となったのですね。
菊池:そうですね。プルデンシャルのライフプランナーという仕事は、どれだけ優秀な人でもうまくいく保証はどこにもありません。業績連動の報酬体系のため、結果が出なければ収入に直結する。なぜそんな環境に踏み出すことができたのかを今振り返ると、会計士という資格がある種のセーフティネットとして機能していたのは少なからずあったと思います。ただし、プルデンシャルでうまくいかなかったから会計士業界に戻るというのは、めちゃくちゃ格好悪いとも思っていたので、絶対にそうならないようにがんばってきました。自分の信念に基づいて一般的ではない選択をする場合、選んだ道を正解にしてやるんだという気概は絶対に必要だと思います。
○○業界×公認会計士の可能性
■ちなみに、入社当時プルデンシャルの社内に会計士はどのくらいいたのですか?
菊池:後から数人いらっしゃるということを聞きましたが、当時の自分は認識していなかったくらいでした。今も10人もいないのではという感覚です。
■ブルーオーシャンということになるのですかね?
菊池:会計士資格を持つライフプランナーとして活動をしていると、今も驚かれることは多いです。ちなみにプルデンシャルの同じ支社には1名税理士資格を持つ先輩ライフプランナーもいて、活躍をされています。
生命保険業界で会計士資格は役に立つのか?と聞かれることも多いのですが、会計士資格を持つ人が全然関係ない業界に行った場合、資格や経験が活きないケースってほぼないと思っています。資本主義社会でビジネスをしている以上、絶対数字が関わってくるじゃないですか。掛け合わせる分野は会計業界から遠ければ遠いほど、意外性も相まって効果的なケースすらあると思います。僕は生命保険×会計士ですが、例えば仮想通貨×会計士とかIT×会計士とか、どんな業界でも数字に強いことを活かしながらビジネスができる人は、希少じゃないですかね。会計士は試験科目も幅広いので、さまざまな可能性がある資格だと思います。
■10年間で会計士以外のお客様も増えましたか?
菊池:経営者の方などが増えてきています。最初の3年から4年ぐらいまでは個人のお客様がほとんどでしたが、それ以降はだんだんと経営者のお客様が増えていきました。
経営者のお客様の場合、決算書を拝見して、この会社にどういう保険が必要かといったコンサルティングをさせていただくことが多いので、財務や税制のスキルが求められます。さらに相続や事業承継などが絡んでくると、より深い専門知識が求められます。営業パーソンとしてのあり方を大切にしながら、専門職として役立てるフィールドをこれからもっと広げていきたいと考えています。
■法人はどうやって開拓をしていったのですか?
菊池:ご相談に至るまでの経緯はさまざまです。会食や交流会での出会いや知人からのご紹介、また会計事務所から顧問先をご紹介いただくことも多いです。「餅は餅屋」で、保険の見直しの必要が出たタイミングでは、もちろん財務改善を目的として顧問先をご紹介いただき、僕の方で生命保険を通じて問題解決を図る、そうした協業の形が増えていきました。ありがたいことに新人の頃に個人保険で担当した会計士のお客様が会計事務所を開き、ご紹介いただけるようになったケースもあります。
■恩返しをしたくなりますね。
菊池:その意味では、「中小企業と会計事務所の財務リテラシーの向上に貢献する」ことも、僕がライフプランナーという仕事を通じて実現したいことの一つです。目先の損得ではなく、財務面からしっかり強くしていくために経営者のお客様に関わりたいと思っています。決算書をしっかり見て、資金繰りの改善などのアドバイスをして、その上で保険や銀行借り入れを最適化していく。そうした関わり方を、会計事務所とタッグを組んで推進していきたいです。
■コンサルティングの仕事をいかに増やしていくかは、多くの会計事務所の課題でもありますよね。
菊池:そうですね。やはり税務顧問、税務の申告業務だけだと、会社規模や業態である程度フィーの上限は決まってしまいます。でも資金繰りや利益構造、財務体質の改善などを通じて会社を強く、大きくするコンサルティングが提供できれば、自ずと会計事務所のフィーももっと増えるはずです。そうして会計事務所や業界が健全に利益を伸ばすことができれば、優秀な人材が集まりやすくなるという相乗効果も見込めます。そうすればさらに中小企業の経営を取り巻く環境も良くなると思いますし。
言うまでもなく日本の企業の9割以上は中小企業で、かつ後継者問題という喫緊の課題もあります。僕ひとりでは微力ですが、各々の得意分野や専門分野を活かしながら、志を同じくする会計事務所業界の皆さんと連携して、こうした課題に取り組んでいきたいと考えています。
■経営者のニーズも多様化していると思いますが、やはりそれに対して自分が何をできるかを見極めるところから始めるのが重要ですね。
菊池:その通りだと思います。例えば、年収、家族構成、資産状況や決算書情報をインプットすれば、AIが生命保険の最適なプランを提案してくれる時代が遠からず来るかもしれません。でも、その人が家族や会社にどんな想いを持っているのかまで、AIで測定することは難しいでしょう。価値観や考え方は人それぞれで、ご本人とご家族の考え方も違うかもしれない。そんな中で、何が本当に最適なのかをアドバイスし、お客様に長く伴走できる人が保険業界では生き残っていくのだと思います。
■では最後に、転職を考えている会計士の方にひとこといただけますしょうか。
菊池:会計士という仕事の魅力の一つは、組織に依存しなくとも自分のキャリアを切り開いていけるという点だと思っています。会計士はおそらく何歳になっても転職先はあり、独立も十分可能です。特に転職や独立をリスクだと捉える若い方に伝えたいのが、人間的に真っ当な会計士の方で、全然仕事がなくて貧困にあえいでいるという方を僕は一人も知りません。資格を取った後にどういった道を選ぶにせよ、どんな業界でも活躍できる可能性のある資格だと思います。
また会計業界という大きなコミュニティに属することができるというメリットも大きいとも思います。積極的に探せば、会計士の交流会、会計士協会の研修といった同業者が集まる機会はいくらでもあり、ネットワークを広げられます。そうやって多くの優秀な人達と関わりながら、自分の本当にやりたいことを誠実に愚直にやっていけば、必ずうまくいくはずです。旧来の会計士や税理士の仕事のモデルが通用しなくなることはあるかもしれませんが、会計士や税理士そのものが世の中から必要とされなくなることはないでしょう。
また、会計士試験や税理士試験を勉強中の人に伝えたいのは、「1年でも早く受かってください」ですね。ネガティブな情報に惑わされることなく、辛くても資格の価値を信じてがんばってほしいです。僕もそうでしたが、とにかく早く会計士になって実務経験を積み、多くの方と関わることで、ご自身のキャリアが開けてくると思います。
(次回以降は菊池氏による執筆記事を掲載予定です。ご自身の経験からくる会計業界に役立つ情報を執筆いただきますので、お楽しみに!)
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プルデンシャル生命保険株式会社
●設立
1987年
●所在地
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-13-10 プルデンシャルタワー(本社)
●会社HP
https://www.prudential.co.jp/
菊池諒介
プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)7年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。
※MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。




