freeeの認定アドバイザーでもある福岡のENJOINT税理士法人代表・智原翔悟氏の連載、「会計事務所のDXロードマップ」をスタートします。中小企業のDX支援に必要な事務所自身のDXを軸に、全4回にわたってお届けします。

この記事の目次

エンジョイント智原先生

智原翔悟(ENJOINT税理士法人代表、税理士)
2017年4月開業、2019年に法人化によりENJOINT税理士法人を設立(https://enjoint.tax/)。クラウド会計の活用やITツール導入によるバックオフィス構築による月次決算早期化を得意とする。
また、オウンドメディア『Hello,cloud!』を伊藤会計事務所(福岡市)と共同運営し、会計事務所向けにITシステム活用のノウハウや自社開発ツールをセミナー・SNSを通じて公開している。freeeの認定アドバイザーでもあり、freeeファン会計人のコミュニティである「freee”マジカチ”meetup!」では福岡エリアのリーダーも務め、日々freeeに関する情報発信も行っている。

※智原氏も認定アドバイザーを務めるfreee認定アドバイザー制度とは?
「会計事務所とfreeeがパートナーシップを形成し、個人事業主・中小企業の方々のスモールビジネスを共に成功に導くパートナープログラム」 https://adv.freee.co.jp/advisor

労働人口が減少し、私たち会計事務所のクライアントである中小企業は年々採用が難しくなり、生産性の向上が求められています。近年、DXという言葉が認知され、DX支援を行う企業も増えてきましたが、中小企業のパートナーである会計事務所こそ適任だと考えています。

しかし、自社ができていないことをクライアントに提案することはできません。freee会計を中心とした経理DXを得意とするENJOINT税理士法人では、自社はもちろん、クライアントに対しても支援を行っています。この記事では、会計事務所自身がDXを実現するための方法をご紹介します。

デジタル化とDXの違い

まず、デジタル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の違いを理解することが重要です。以下の図をご覧ください。

DX化

この図はDXまでのプロセスをステップごとに示しています。

デジタイゼーション(Digitization)

デジタイゼーションとは、業務単体をデジタル化することを指します。具体的には、電話やFAXでのやり取りをチャットに切り替えることや、クラウドストレージを導入し、ペーパーレス化することなどが該当します。

これはDXの第一歩であり、業務プロセスのデジタル化を進めるための基盤となります。

デジタライゼーション(Digitalization)

次に、デジタライゼーションです。これはデジタル技術を活用して既存の業務プロセスを改善・効率化することを意味します。例えば、顧客管理や業務管理をクラウドシステムへ置き換えてワークフローを見直すことで、業務効率を上げたり工数分析を行ったりする うこともできます。
また、クラウド会計ソフトの導入により、会計データの入力や仕訳作業を自動化することで、業務のスピードと正確性を向上させることも可能です。

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)

最終段階となるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。これは単なる業務プロセスの改善にとどまらず、ビジネスモデル自体を変革することを目指します。
会計事務所の場合、オンライン完結型の顧問契約や会計のリアルタイム化を行うこと、その先にある財務支援などの付加価値サービスを提供することなどが挙げられます。このように新しい価値の創出がここでのゴールとなります。

会計事務所がDXを実現するための具体的なステップ

1. 業務の棚卸

まず、業務プロセスの現状を把握し、改善策を検討します。

この時に重要なのは、現状のプロセスをそのままデジタルに置き換えるのではなく、業務に隠れている3M(ムリ・ムダ・ムラ)を洗い出し、取り除く方法を考えることです。実はシステム導入せずとも、この棚卸しの時点で大きな改善ができるということはよくあります。

2. ツール選定

続いてツールの選定ですが、自社の業務に完全にマッチするシステムというのはめったにありません。そこで、業務自体をシステムに合わせて再設計するという視点も必要です。

多くのツールにはトライアル期間がありますので、まずは数人でテスト運用をするのもいいでしょう。
またもしツール選定後に自社には合わなかったとなっても、契約期間が残っているから、かけたコストがもったいないからと言って使い続けることは避けましょう。投下したコストはサクッと忘れて、次のツール選びをすることをおすすめします。

3. 社内教育と意識改革

中には、今までのやり方を変えることに反対する社員もいるでしょう。しかし、やると決めた以上覚悟を決めて進めてください。デジタル化の意義やメリットを共有し、この会社をどうしていきたいのかを説明して、意識改革を進めます。具体的には、定期的な研修や情報共有の場を設けることが有効です。

4. 小規模なプロジェクトから始める

いきなり大規模なプロジェクトを実施するのではなく、小規模なプロジェクトから始めて徐々にスケールアップしていくことも重要です。

例えば、一部の業務プロセスのデジタル化から始め、その効果を確認しながら次のステップへ進むと良いでしょう。小さな成功体験を積み重ねることで、社員のモチベーションも向上します。

5. 継続的な改善

DXは一度で完了するものではなく、継続的な改善が求められます。定期的に成果を評価し、必要に応じてプロセスやシステムを見直していくことが重要です。

また、新しい技術やツールの導入にも積極的に取り組み、常に最新の状態を保つよう努めます。フィードバックループ(フィードバックで得られた結果や情報を利用し、その後に調整・改善プロセスを繰り返して最適化していくこと)を確立し、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことが成功の鍵となります。

 

以上のステップを踏むことで、会計事務所は効果的にDXに近づくことができるでしょう。

DXはデジタル化と改善の積み重ねの先にある結果です。実現には時間と努力が必要ですが、その先には大きな成果が待っています。

繰り返しになりますが、中小企業のDX支援には会計事務所こそが適任です。DX支援を強みに変えて、ぜひ一緒に業界を盛り上げて、クライアントにより良い提案ができたらと思います。

今後の連載では、具体的なツールの選定や導入事例をご紹介していきます。また最終回では、会計事務所の成長にブランディングやIT人材の採用・育成がなぜ必要なのかをお伝えします。

 

【あわせて読みたい】

ENJOINT流・会計事務所のDXロードマップ│第2回:具体的なツールの選定と導入事例

ENJOINT流・会計事務所のDXロードマップ│第3回:freeeを中心としたバックオフィス運用

ENJOINT流・会計事務所のDXロードマップ│最終回:ツール導入後の社内定着とIT人材の育成

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