今回の会計人ライブラリーは、企業の税務顧問から雑誌・書籍の執筆や講演まで幅広く活躍する、税理士小林俊道事務所代表・小林俊道氏の『もう迷わない!令和6年度改正対応 交際費と隣接費用の区分判断』をご紹介します。
もう迷わない! 令和6年度改正対応
交際費と隣接費用の区分判断
小林俊道(税理士小林俊道事務所代表、税理士)
(株式会社ぎょうせい・発売日:2024/8/1)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/12006
著者本人が語る本の見どころ
Q まずは『もう迷わない! 令和6年度改正対応 交際費と隣接費用の区分判断』の紹介をお願いします。
A 法人が支出する交際費は会計上は費用になりますが、法人税に係る租税特別措置法においては原則損金不算入との政策的な取扱いがなされています。
そこで、企業の交際費については自ずと法人税申告において税務調整が必要となり、そうした支出額は「(税務)交際費等」などと言われています。
この点で、たとえば福利厚生費や会議費といった単純損金になるものと、原則損金不算入とされる交際費等の支出額との区分に関しては、措置法条文や政令、税務通達を見ても一筋縄ではいかないところがあります。
そうした実務の迷いの解消の一助になればとの趣旨で、本書を執筆しました。
Q 企業経理の担当者や税理士にとって、交際費の判断はわかっていても迷うことがあるそうですね。今回このテーマで執筆されたきっかけを教えてください。
A 法人事業者にとって交際費は日々生じるものであり、それが損金不算入の対象になるかどうかの判断は、申告納税制度の下においては第一義的に納税者や税理士の側で判断をしなければいけません。
そうした日々の実務においては、後日の税務調査での否認リスクも念頭に置き、予測可能性が提供されないといけません。
税務通達や裁決事例、裁判例が判断材料になるわけですが、これらの情報を実務的な視点も加えて私なりに整理をし、交際費実務に従事する方々の役に立てればとの思いがありました。
Q 税務調査で交際費はトラブルになりがちとのことですが、実際どんなケースがあるのでしょうか?
A 交際費とされる支出で多いのは、飲食費に関するものです。
この飲食費については、単純に損金となる会議費に該当するのか、あるいは(税務)交際費等に該当するかの判断を巡って、税務調査の現場でトラブルになることが多いです。
そうしたトラブルを回避する意図で、平成18年度税制改正で社外飲食費の規定が創設され、1人あたり5千円以下(その後、令和6年度改正で同1万円以下に引き上げられています)の社外飲食費については一定の書類の保存を要件に、(税務)交際費等にあたらない、すなわち単純損金にできるとする一種の“割り切り”ともいえる制度が導入されました。
ただ書籍の中でも取り上げているのですが、こうした措置が導入されてもあらたに「社外飲食費とは?」「1人あたりの金額判定は?」と、勘違いをしたり迷ったりする場面も見られ、それらがあらたな論点を生んでいます。
Q 2014年に『ケースで理解する交際費・接待費の税務ポイント』を出版されています。この10年間でどのような変化がありましたか?
A 令和2年度に交際費等の支出額に関する措置法改正があり、資本金100億円超の巨大法人には、接待飲食費の50%の損金算入措置が適用できないとする改正がありました。
また令和6年度には、交際費等の支出とされない社外飲食費について、その金額基準が1人当たり1万円以下に引き上げられる改正があったのは前述の通りです。
さらには、新型コロナウイルスの流行によりここ数年の企業の交際費の支出行動には変化があったと思いますし、物価高により飲食費を始めとする交際費関連の支出額が増えたことも、最近の変化と言えるのではないでしょうか。
そうした変化がある中で、交際費の実務にどのような影響が生じるかについて注視が必要だと思います(たとえば書籍で取り上げた「社長の独り飲み」の論点など)。
Q 今回、会話形式で46のケースが紹介されています。ケースが具体的で、中には「得意先への開店祝いの花輪代は交際費?」「野球場のボックス席契約は交際費?」など、思わず読んでみたくなる面白いケースもありますが、これらのケースはどのようにして集めたのでしょうか?
A 税理士事務所を開業して20年になります。その間に、お力添えできる機会をいただいた関与先で実際に生じた事例が主です。
「花輪代」や「ボックスシート」は今もお付き合いがある事業者さんの話で、社長さんや経理担当者さんのお顔が思い浮かびます(笑)。
その他、裁判例や裁決事例から私が想像を駆り立てて事例を作ったりもしています。
Q 小林先生ご自身についても聞かせてください。
A もともと父親がこの業界の先輩でもあり、その背中を見て育ったのは大きかったと思います。
ただすぐにこの業界に入るのも抵抗があったので、一度は勤め人の生活も経験しています。乗り物が好きだったので、自動車メーカーに勤務をしていました。
そこでも会計監査や国税局調査などに立ち会い、会計や税務が広く社会に関係を及ぼしていること、その裾野の広さを経験しました。
今では、税務の代理人という職業人を目指したのは自然の流れと自分自身納得をしています。
Q 税務や会計の本でなくてもよいので、小林先生が大事にされている本と、その理由を教えてください。
A 20代の頃に資格試験の勉強を通じて、当時の試験委員だった中央大学の永井一之先生の『会社法』(有斐閣)をよく読みました。
税務の道に進んだ今は手に取ることは少なくなりましたが、私にとっての思い出の一冊です。
その後に修士課程で先生の研究室に入らせてもらい、またこうして自分自身が著述活動を請け負わせていただくようになり、「基本書」と言われる書籍を執筆するのは想像を絶することだと実感しています。おそらく自分には至難の業ですね。
また税法分野では、三木義一先生の『よくわかる税法入門』(有斐閣)を時折読んでいます。
休日の昼下がりに読めるような明るいタッチで、なおかつ日々の締め切り業務に追われている中で、ともすれば見失いがちな税法解釈と実務との接点を探るヒントを提供してくれるような存在です。
Q これまで、交際費や役員給与課税について、あるいは株式会社の作り方の本、美容室の会計と税務の本なども執筆されています。身近なテーマを取り上げていらっしゃいますが、テーマ選びのポイントはありますか?
A いずれも編集者さんから打診をいただいた内容に沿って執筆をしていますので、自分からテーマを出したというものではありません(笑)。
ただそうして執筆依頼をいただけるのは、期待をしてくださっている証だと思うので、自分ができることをきちんと努めようという気持ちでいつも臨んでいます。
改めてそうして振り返ってみると、執筆はテーマの選定も含めて編集者さんとの二人三脚で進めていくものであり、そのご縁にあらためて感謝しています。
Q 執筆へのモチベーション、思いもあればぜひ教えてください。
A 上述した通り、ご依頼をいただいた編集者さん、出版社さんの期待に応えたいのに加え、書籍を手にしてくださる読者のみなさんのお役に立てればとの気持ちもあります。今回の執筆事例にもなっている、これまでの関与先への感謝もあります。それが全てです。
また、書籍になったときの家族への報告もいつも楽しみにしています。
Q 次の出版予定、もしくは今後書きたいテーマがあれば教えてください。
A 大相続時代といわれる時代が来て、私のような税理士も相続税申告に関与する機会がだいぶ増えました。
私は懇意の弁護士先生や司法書士先生と協働して相続の現場に従事することが多く、そうした士業同士の意見交換で学んだことや、税の知識によってみなさんのお役に立てたことなどを、(資産税の専門とはとても言えたものではありませんが)今後何らかの形でお伝えできればいいなと思っています。
著者紹介
氏名 | 小林俊道 |
プロフィール | 税理士(東京税理士会)。 1970年長野県生まれ。千葉県育ち。 1993年3月明治大学経営学部卒業後、大手自動車メーカーに勤務。退職後、1999年税理士試験科目合格。2000年3月中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了(民事法専攻・商法)。 小林国利公認会計士事務所勤務の傍ら、2002年税理士登録(東京税理士会)。 2004年より税理士小林俊道事務所を開設。 法人、個人の税務顧問はもとより、雑誌等への執筆、講演活動、会社の健全な運営の法律的指導に尽力している。 著書は『税理士のための ケーススタディ役員給与課税の心得帳』(ぎょうせい)、『新会社法でつくる株式会社』、『いちばん簡単!有限会社を株式会社に変える本』、『減価償却のしくみと実務』(あさ出版)、『美容室の会計と税務』(女性モード社)。 |
事務所・法人のご紹介 | 税理士小林俊道事務所
東京都千代田区神田須田町1-22-11エムワイビル3F |