今回の会計人ライブラリーは、元国際税務専門官である門野久雄税理士が解説する実務参考書『非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A』。元税務署職員として、現在は税理士事務所代表としての知見が詰まっている一冊です。

書籍『非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A』非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A
門野久雄(門野久雄税理士事務所代表、税理士)
(清文社・発売日:2024/07/19)

https://store.skattsei.co.jp/book/products/view/2281

 

著者本人が語る本の見どころ

Q まずは『非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A』の紹介をお願いします。
A 経済取引におけるグローバル化が当たり前のようになっている一方で、人口減少が坂道を下がるがごとく止む気配のない日本においては、物的・知的・技術的・人的な国際交流、つまり経済的な交流に結びついた国際交流が日常的に行われています。

それが日本経済を支え、発展させる上で欠かせないテーマになっているといっても過言ではありませんが、その結果、常についてくるのが税務の問題です。

その問題の一分野に過ぎませんが、本書は非居住者及び外国法人に対する対価の支払に課される源泉所得税関係の分野に焦点を当てています。実際にその事務にたずさわる方々が適切に対応できるためのサポートツールとして利用していただくように刊行した、参考書です。

この分野は通常の源泉徴収制度と異なり、国内法の規定よりも、所得当事者の居住地国と締結・発効した租税条約の規定内容が優先して適用されます。それぞれが異なり、一律の条文内容となっていない個別条約をひも解いて解釈し、適用する必要があるのです。

また租税条約に規定する免税・税率軽減などの特例を適用するために、届出書の提出などが適用要件とされていて、提出期限や様式なども定められています。

本書はQ&A形式で書いた解説書ですが、各問ごとに基本的な税務の取扱い内容を、国内法・租税条約を問わず記述してあります。そこから課税の原則論を学んでいただくとともに、応用・活用いただくこともできます。さらに、租税条約に規定する特例の適用を受けるための手続きが円滑にできるよう、必要な書類の様式例も数多く記載してあります。

Q このテーマで執筆をされたきっかけや理由はありますか?
A このテーマの書籍を企画していた清文社の編集者からアプローチを受け、執筆を依頼されたことがきっかけです。理由としては、天から私に降ってきたこのチャンスを何とかして活かさねばとの思いが心の中に湧いてきたからです。

税理士として開業する前に従事していた国税の職場では、私は国際税務専門官として国際税務に係る源泉所得税分野の税務調査を担当していました。そこで得た税務上の知見を今回盛り込み、解説することができるのではという、自分自身に対するある種の期待があったからかもしれません。

そしてなによりオファーを受けた時期は、開業して1~2年くらいで、まだ関与先が少ない名ばかりの税理士事務所でした。この分野について一から勉強して執筆にチャレンジする時間がまだあると判断し、オファーを受けることにしました。

Q グローバル化が著しいですが、海外の個人や法人との取引・報酬支払いなどは広がっているのでしょうか?
A 海外との取引に関するデータを承知していませんので、数字的な傾向はお示しできません。これは私の肌感覚に過ぎませんが、事務所の所在地(千葉県習志野市)近在では、数年前から外国出身の方と日常的によくお会いします。

私どもの事務所に関していえば、新規顧客となっていただく法人経営者は外国出身の方が多く、実際にこの1年間でお付き合いを始めた方も、中国、アゼルバイジャン、トルコ、ペルー、イランと出身は多彩です。

また人手不足を補うため、非居住者に該当する外国人を雇用し、手取支給額を決めて給与支給をしている実例もあります。その場合は源泉所得税が雇用主負担となり、税率が20.42%となることから、雇用主の負担が大きいという現実もあります。

Q 2012年に初版を発行されてから、今回は第3版となります。その10年間で見ると、どのような変化があったのでしょうか?
A 私の身の回りでいうと、街中で外国語で話している人とすれ違うことが多くなりました。同じように飲食店やコンビニなどに外国の方がいることが珍しくなく、当たり前の風景となっていますよね。

私の事務所に関してさらにいうと、関与先の外国人経営の法人数は、10年前は全体の20%くらいでしたが、最近は40%近くを占めています。

Q この本では214というさまざまなQ&Aを掲載していますが、気をつけたい事例・珍しい事例・新しい事例などを紹介していただけますか?
A
・気をつけたい事例
(問15)「事務所併用住宅を購入した場合の譲渡対価の判定」
源泉徴収不要とされる譲渡対価1億円以下の判定は、居住用部分と居住用以外の部分(事務所部分)の合計額(=土地等の全体金額)で判定することとされています(ただし、住宅床面積の1/2以上を居住用とすれば、全体が居住用となり源泉徴収不要となります)。

・珍しい事例
(問16)「事務所併用住宅を購入した場合の譲渡対価の判定」
通常、源泉徴収義務を負わないサラリーマンでも、譲渡者の譲渡対価が1億円超の場合は源泉徴収が必要となります。

・新しい事例
(問109)「国内業務をテレワークにより行う海外勤務者に支払う給与」
コロナ禍以降に普及したテレワークを海外で行う場合は、国内勤務に基づかない勤務に当たるので、我が国で課税されず、源泉徴収は不要となります。

Q 門野先生ご自身についても聞かせてください。
A 税理士になったきっかけは、国税の職場にいましたので、現役時代から退職後は税理士開業しようと考えていました。退職後は人生100年時代が実現しつつあるとも感じていて、自分もまだ気力・体力・知力が続くと思い、開業しました。

現在の仕事は、千葉県内を中心に、東京都内所在法人を含めて税務申告、税務相談などに従事しているほか、個人事業者の税務申告業務も行っています。したがって毎年1~3月は、年末調整事後事務や個人申告事務で忙殺されています。その後は、法人の決算期ごとの関与先件数に応じて忙閑の月が巡ってきます。

仕事におけるポリシーは、何事にも「真摯に取り組む」です(=真面目がとりえの税理士です)。

Q 門野先生が大事にされている本と、その理由を教えてください。
A 業務多忙につき、なかなか本を読む時間を作れないのが正直なところですが、業務上よく参考にするのは、『プロフェショナル 消費税の実務』(金井恵美子;著/清文社)、『 法人税申告の実務全書』(多田雄司 他;著/日本実業出版社)、『改正税法のすべて』(阿部敦壽 他;著/大蔵財務協会)です。

Q 1967年に税務職員となられてから税に関わっていますが、税に関わる仕事の魅力や大変さなどを教えてください。
A 魅力は、税務を通じて関与先の実情をよく知ることができること、課題となっていることを一緒に考えて解決策を得ることにあると思います。
大変さは、申告期限などの締切りに間に合わせるようにきちんと進行管理を行い、何があっても期限に間に合わせなければならないことです。

Q 最後に先生からのメッセージをお願いします。
A いうまでもありませんが、源泉徴収事務は対価の支払者に所得税の徴収義務が課されており、その支払時に適切に源泉徴収を行う必要があり、事前の準備がどうしても必要となります。

  1. 対価の支払者が非居住者等に該当するかどうか、事前の確認が必要です
  2. 支払う対価が、国内源泉所得に該当するかどうか、事前の確認が必要です
  3. 届出書の提出など一定の手続きを行えば、免税とされたり、税額が軽減されるケースがある

ほかにも、居住地国との租税条約の規定によっては異なる税率で軽減されることがあるので、事前の確認と準備が必要だということを、最後にお伝えさせてください。

著者紹介

門野先生

氏名 門野久雄
プロフィール 税理士。

1967年熊本国税局に採用され、税務職員となる。
2009年に門野久雄税理士事務所(千葉県税理士会千葉西支部所属)を開設し、現在に至る。
主な著書に『厳選事例を要点解説 消費税〇×△課否判定』(清文社)がある。

事務所・法人のご紹介 門野久雄税理士事務所

千葉県習志野市大久保1-21-14 ヴィラリッチ503

KaikeiZineは会計プロフェッショナルの活躍を応援するキャリアマガジンです。インタビューや取材を通じての情報発信をご希望の方はお問合せください。
取材・掲載は無料です。
お問合せはこちら