徒弟制度から体系的な教育へ

事業の拡充に向けて、「2. スタッフの育成」も重要なテーマでした。

これまでの会計業界における教育は、徒弟制度のような形が大半でした。
この形態は緊密に指導できるメリットがある反面、指導する人によって知識の幅に差が出る、指導内容にばらつきが生じるといったデメリットもあります。
また、組織の規模が大きくなってくると人的リソースも足りなくなります。

そのため当法人では、体系的な教育への移行を図りました。
大きなポイントは、新人スタッフの研修期間を設けたことです。
はじめにすべての工程の実務を経験してもらうことで、全体の流れを把握し、それぞれの工程で必要とされる実践的なスキルを習得できるようにしました。
上司が教育の中心的な役割を担いながら、複数のスタッフから指導を受けることで、一貫性を保ちながら幅広いスキルを学べるのが特長です。
さらにもう1人、新人スタッフと同性の先輩をメンターとしてつけて、仕事や働く環境などについて気兼ねなく相談できるようにしました。
このような制度は金融機関をはじめ多くの企業で採用されていて、効果が認められています。
当法人は本格的にこの取り組みをはじめてからまだ日が浅いので、効果検証をするにはもう少し時間が必要ですが、いまのところはうまく機能していると感じています。

 

もちろん、新人だけでなく中堅スタッフの教育も重視しています。
先ほどクライアント別のカルテを作成しているのを紹介しましたが、作成には、会計やビジネスの知識を持ったスタッフがきめ細やかなヒアリングを行う必要があります。
現在この業務は、私ともう1人のコアメンバーがすべて担当しているのですが、近い将来2人では追いつかなくなるので、任せられるスタッフの育成にもいまから注力しています。

積極的に新卒採用を行い、新しい力を育てる

「3. 人財の確保」については多くの企業が力を入れていて、苦心されていると思います。
当法人もすべてのスタッフを“人材”ではなく“人財”と捉え、さらなる成長に向けて積極的に採用を行っています。

「デジタル化を推進して効率化を図っているなら、スタッフを増やす必要はないのでは?」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私自身も最初はそう思っていました。しかし、実際は真逆でした。
理由は、「1. 業務(サービス)の質の確保」で述べた話にも通じますが、業務の質を維持するためには、人の力が重要だからです。
クライアントの事業や経営状況に応じたサポートを行い、信頼を得るためには、やはり“人”が必要なのです。
最近、アメリカの大手企業がリモートワークから出社に回帰しているのも、人の力が見直されていることがひとつの要因だといえるでしょう。

 

また、当法人のいまの規模や業務内容なら即戦力となるキャリア採用をメインに行うのが一般的ですが、私たちは新卒採用に重点を置いています。
それは、若い人はこれまでの業界の常識に縛られず、新しい技術や働き方をスムーズに吸収できるからです。
小さい頃からITが身近だった世代は、私たちに比べてデジタルに対するリテラシーが高く、飲み込みも早い。
こうした能力は、会計事務所においてももはや欠かせない要素です。
ただし新卒採用の場合、育成の投資期間が長くなるため、資金繰りをしっかり考える必要があります。
当法人の場合、ありがたいことに順調に売上が上がっていたので、思い切ってアクションを起こせました。

少しでも多くの若い人に会計関連の仕事に就いてもらい、業界全体を活性化させたいという想いもあります。
その一環として、最近ふたつの取り組みを開始しました。
ひとつはインターンシップの実施、もうひとつは京都先端科学大学(KUAS)との提携です。

インターンシップは、最初はまったくうまくいきませんでした。
短い期間で会計業務の魅力を伝えられなかったのが大きな原因です。
考えてみると、デスクに座ってモニタと睨めっこしている姿を見ても、気分が上がらないのは当然ですよね(笑)。
新しいデジタル技術を活用しながらクライアントの事業を支え、成長に貢献するというやりがいを、学生に伝えるのは本当に難しい。
そこで大学やさまざまな企業のかたがたと検討を重ねて、クラウド会計ソフト関連の企業にご協力をいただいてインターンシップ向けの研修を実施したところ、とても好評でした。
中には会計ソフトの会社に就職する学生もいると思いますが、かまいません。
私としては、会計業界に興味を持ってくれる若い人が増えることに意味があるのですから。
その延長で当法人に就職してもらえると、なおうれしいですね。

KUASはカリキュラムが充実し、優秀な人財も輩出しており、多くの企業が注目しています。
残念なことに、いまは経営経済学部でも会計業界を志望する学生は少ないのが実情です。
少しでも関心をもってもらえるようにセミナーを開くなど、こちらからアウトプットする活動にも力を入れていきたいと考えています。

まとめ

駆け足ながら、当法人が抱えていた課題と解決に向けた取り組みを紹介しました。
もちろん、どの会計事務所にも当てはまる正解ではありませんが、なにかしらの参考になれば幸いです。
最終回となる次回は、会計業界の将来を見据えた、当法人が思い描く展望をご紹介したいと思います。

 

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