AIやクラウド会計による会計業界の変革は、脅威ではなくチャンスです。暗号資産・NFT・DeFi ── AIが学習すべき「過去」がまだ十分にないこの領域だからこそ、税務・会計の専門知識で最適解を導く「知的付加価値」が求められています。LOOK UP ACCOUNTING代表の米満建太郎公認会計士・税理士が、暗号資産・Web3領域で得た知見から、会計事務所の「専門特化」の可能性についてお伝えします。
この記事の目次

米満建太郎(LOOK UP ACCOUNTING)
公認会計士・税理士。東京大学 教養学部 国際関係論分科卒業後、KPMGにて監査業務に従事。続くUZABASEではニューヨークにて海外PMI業務を経験。その後リクルートに入社し、各種ディールのリスク評価、海外子会社管理を通じて経営支援・ガバナンス強化に従事。
現在は、株式会社LOOK UPの代表取締役。下北沢を拠点に、暗号資産決済対応カフェ「LOOK UP COFFEE」を含む4事業(会計事務所・コワーキングスペース・カフェ・マルチスタジオ)を運営。監査・M&A・ガバナンスの経験を生かし、Web3とリアルビジネスの橋渡しに取り組んでいます。
※この連載は、「すべてのスモールビジネスを支える統合型経営プラットフォーム」を掲げるfreeeの協力でお送りしています
従来の税務知識だけでは対応できない時代の到来
会計・税務業界はいま、大きな転換点を迎えています。
クラウド会計ソフトが普及し、AIが仕訳を自動で提案する時代。
従来型の「記帳代行」や「申告書作成」といった定型業務は、今後数年でその大部分が自動化されると予測する声も少なくありません。
私はこの変化を、脅威ではなくチャンスだと捉えています。
定型業務から解放されることで、より高度な判断や新しいビジネスモデルへの対応に時間を割けるようになる。
問題は、その準備ができているかどうかです。
AIが苦手とする領域は明確です。
前例のない事象への対応、そして未知のビジネスモデルへの税務アドバイス。
暗号資産、NFT、DeFi、DAO ── これらの新しいテクノロジーが次々と登場するなか、既存の税法や会計基準では対応しきれないケースが急増しています。
「過去のデータを学習するAI」では、参照すべき「過去」がまだ十分に蓄積されていないこの領域での判断は極めて困難です。
テクノロジーを理解し、新しいビジネスの本質を把握し、税務・会計の専門知識を駆使して最適解を導き出す。
そうした「知的付加価値」こそが、これからの時代に求められる専門家の姿です。
私は、その答えとして「暗号資産・Web3領域」への専門性強化を選択しています。
なぜいま暗号資産・Web3領域なのか?
急成長する市場と、追いつかない専門家
暗号資産市場は拡大を続けており、国内の年間取引規模も活況を呈しています。
個人投資家の確定申告対象者数も年々増加し、仮想通貨関連の税務相談はここ数年で過去最高水準に達しているといわれています。
しかし、この急成長する市場に対して、専門的なサービスを提供できる税理士は圧倒的に不足しています。
全国の税理士約8万人のなかで、暗号資産税務に本格的に対応できる専門家は、極めて少数にとどまるといわれています。
この需給ギャップは、市場が成長するほど広がる一方です。
多くの投資家が正しい税務知識を持たないまま申告に臨み、結果として誤申告や追徴課税のリスクにさらされています。
これは投資家自身の資産を守れるかどうかの重要問題であると同時に、健全な市場発展を阻害する社会的課題でもあります。
法整備の進展と市場の成熟
2025年は、暗号資産に関する税務環境が大きく動く年と位置づけられています。
与党・政府内では、暗号資産の利益を対象にした20%の申告分離課税への移行に向けた調整が進み、税制改正に向けた議論が本格化しています(本稿執筆時点では、あくまで政府・与党内での検討・調整段階であり、実際の制度化には今後の税制改正大綱や法案審議の行方を見守る必要があります)。
また、金融庁は暗号資産交換業者に対する内部統制・情報開示の強化方針を公表し、国税庁もFAQや通達の改訂を通じて、実務運用の標準化を進めています。
さらに、OECDの暗号資産報告枠組み(CARF)に向けた国際的な法整備も進展中です。
これらの動きは、暗号資産市場が「グレーゾーン」から「制度化された市場」へと移行しつつあることを示しています。
日本国内では、JPYCをはじめとする日本円建てステーブルコインの発行や社会実装に向けた取り組みが本格化しています。
改正資金決済法に基づき、銀行や資金移動業者が発行する電子決済手段型ステーブルコインは、(法律上は暗号資産とは別に「電子決済手段」として位置づけられますが)ブロックチェーンや暗号資産エコシステムと日本円決済の橋渡し役となり、企業のデジタル決済や国際送金など、ビジネス利用の可能性を大きく広げつつあります。
専門家が不足しているいまだからこそ
私がこの領域に本格的に取り組み始めたのは、目の前のクライアントが困っていたからです。
DeFi、NFT、ブロックチェーンゲーム、海外取引所をまたぐ複雑な取引 ── 相談先がなく途方に暮れている方が、想像以上に多くいらっしゃいました。
一件一件の実務対応を積み重ねるなかで、この領域の知見が蓄積されてきました。
その経験を、より多くの方に届けたい。そう考えて、note、YouTube、Xを通じた情報発信にも力を入れています。
2025年7月からは、月2〜3本のペースで実務に即した税務解説を配信。
専門家向けセミナーや、下北沢の地域コミュニティと連携したイベントも計画しています。



