先日3日、日本経済新聞が「仮想通貨(暗号資産)の投資家に大規模な税務調査が入り、数十人が合計約14億円の申告もれを指摘されたと」報じました。対象はエイダコインの投資家とのこと。「グレーな節税策に惑わされた」「課税を認識していなかった」人もいたかもしれません。

■「仮想通貨の税金は難しい」3つの理由

様々な投資対象の中で、とりわけ「税金が難しい」と感じるのが仮想通貨です。背景には、次の3つの理由があります。

  • ●理由1:「利益を得た」という実感がわかない

仮想通貨以外の投資だと、利益は投資家の口座で認識できます。株式ならば配当金や譲渡益、不動産なら賃貸料収入や売却益、FXなら為替差益などです。日本円で利益を実感できます。

一方、仮想通貨だと「利益の認識は日本円」とは限りません。日本円による売却以外でも利益は発生します。次のタイミングです。

  1. 手持ちの仮想通貨で他の仮想通貨を買ったとき
  2. 仮想通貨でモノやサービスを買ったとき
  3. マイニングやステーキングで新たな仮想通貨を入手したとき
  4. レンディングで仮想通貨の利息収入を得たとき

この他、今ブームのNFT(非代替性トークン)の売却益も課税の対象です。2以外の収入は日本円ではなく、仮想通貨となります。現金ではなくモノ(資産)で入って来るので、「もうかった感」が薄いのかもしれません。

とりわけ利益を認識しにくいのが1と2です。投資家目線からすると、1は「仮想通貨同士の交換」、2は「消費行動」にあたります。

「いったん売却して日本円を得て、その日本円で新たな仮想通貨やモノ・サービスを買った。この売却時に利益が生じる」

と考えるわけですが、この流れを知らないと課税リスクに気づけません。

【参考】仮想通貨(暗号資産)の税金はいつかかる?個人・法人の課税のタイミングを解説

  • ●理由2:節税策がほとんどない

仮想通貨の利益は原則、「雑所得」として扱われます。雑所得にはほとんど節税の余地がありません。事業所得や不動産所得、譲渡所得に見られる次の制度がないからです。

  • ・他の所得との損益通算(譲渡所得は特殊)
  • ・青色申告特別控除(事業所得・不動産所得)
  • ・損失の繰越控除・繰戻還付

要件を満たすなら、事業所得での申告もできるでしょう。しかし、現実には、投資を本業にして生計を立てられる人はかなり限られます。

また、雑所得は株式投資やFXと違い、他の所得と合算した上で累進課税が適用されます。所得税・住民税と併せ、15~55%で税額を計算するわけです。数千万円単位の利益なら最高税率55%が適用されます。投資家にとっては脅威の納税額です。

それでも、仮想通貨の売却ならまだマシです。仮想通貨の交換や使用で生じた利益なら泣くに泣けません。手元の現金はほとんどないのに、多額の納税をしなくてはならないのです。

  • ●理由3:意外な課税が生じることも

「消費税がかかることもある」と聞いたら「えっ、何それ!」と感じることでしょう。実は所得税・住民税以外の課税が生じることがあります。

仮想通貨レンディングの利息収入は消費税の対象です。課税要件があるので全員が対象というわけではありませんが、個人事業主などで消費税を納めている方は注意した方がいいでしょう。

【参考】暗号資産(仮想通貨)のレンディング利息は消費税がかかる?しくみと対策を解説

■「巷でオススメの節税策」は使えそうで使えない

仮想通貨の課税の現状を踏まえ、巷では、節税のノウハウを伝授しているセミナーがあると聞きます。次のような内容が紹介されるようですが、「使える」とは限りません。

  • ●仮想通貨を別の仮想通貨にすればかからない

これはウソです。お伝えした通り、仮想通貨同士の交換は課税されます。手持ちの仮想通貨の交換時の時価と購入時の時価の差額に、所得税・住民税がかかるのです。

  • ●法人化で節税

個人の所得税は所得額に応じて5~45%の税率が適用されます。一方、会社の法人税はほぼ一律の税率です。東京23区内に拠点のある法人なら、国税・地方税あわせた実効税率は35%未満です。課税所得額が1千万円前後なら法人化した方が節税できます。

ただし「税率だけを見たら」の話です。法人化をするだけの価値のある投資は「頻繁に売買をし、安定して多額の利益が出る」に限られます。いったん法人化したら、黒字・赤字に関係なく毎年7万円の法人住民税は払わなくてはなりません。

さらに、法人保有の仮想通貨は、個人にはない課税がされます。「含み益に対する課税」です。個人が保有する仮想通貨は利益を確定しない限り、課税されません。一方、法人の保有する仮想通貨は、期末評価額が購入時よりも高くなると、差益部分に課税されるのです。

この他、法人が事業を行い、かつレンディングも行っているのなら消費税の納税額が増える可能性もあります。

  • ●海外ETFで節税

海外で「仮想通貨ETF(上場投資信託)」が登場するようになりました。「仮想通貨ETFに投資すれば20%前後の税率で済む」というわけです。

ただし、購入するなら日本ではなく海外の証券会社に口座を開設しなくてはなりません。そして、海外口座で購入した金融商品は「譲渡損失を配当所得と相殺」「譲渡損失の繰越控除」ができません。これらの節税策は、日本の証券会社で購入した場合に限られます。

  • ●海外の仮想通貨取引所で売買すればバレない

ここまで来るともはや節税ではなく脱税です。信じたい気持ちは分かりますが、仮想通貨が知られるようになって数年が経過しています。国税当局も相応のノウハウを蓄積しているであろうことを考えると、神話になりつつあると見てよさそうです。

実際、税務調査の対象となったエイダコインは、日本だとビットポイントという取引所でしか扱っていません。この事実から、海外の取引所での動きも押さえている可能性は高そうです。

■税金がイヤなら海外に移住するしかない

それでも「仮想通貨に投資し続けたい、そして納税は避けたい」というのなら、海外に移住するしかないでしょう。低税率国に移住すれば税金の心配はなくなります。

ただ、海外で生きるなら、課税以外も要検討です。日本と同じ公的サービスがあるとは限りません。物価も違います。言葉の壁や文化の壁もあります。日本を嫌って出ていく人がいる一方、「住みやすい」といって日本に移住する人がいるのも事実です。

「変えられることは変えましょう、変えられないことは受け入れましょう」という言葉がありますが、税金も同じです。単に忌避するのではなく「何が変えられて何が変えられないのか」をまず区別した方がよいのかもしれません。


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