特定口座制度の創設により誰でも気軽に株の投資ができるようになりました。しかしその一方、自由度が広がった分、申告の仕組みが複雑化しています。今回は株の投資の確定申告で悩みやすいものの一つ、「配当所得」を解説します。(2021年4月7日加筆)
■特定口座制度で配当金課税は簡単に、選びやすく
約18年前から金融税制が次々と変わり、今や誰でも気軽に投資ができるようになりました。特に影響が大きいのは「特定口座制度」です。この他、課税方法を選べるようになりました。
●「特定口座」で確定申告がラクに
平成15年1日1日から始まった特定口座制度で上場株式等の譲渡益や配当益の確定申告が次のようにシンプルになりました。
- ・「特定口座年間取引報告書」を元に運用益の確定申告を簡単に行える
- ・源泉徴収ありの特定口座で運用すれば確定申告そのものが不要(確定申告をしてもOK)
- ・源泉徴収ありの特定口座に配当等を受け入れると年内に生じた譲渡損失と配当益が自動的に通算される
●配当金課税には3つの選択肢がある
平成29年4月1日以降に分配される配当金等については、所得税と住民税とで次の3つから別々の申告方式を選べるようになりました。
- ・申告不要、源泉分離課税(所得税20.315%、住民税5%)で完結
- ・分離課税(所得税20.315%、住民税5%)で確定申告
- ・総合課税(所得税5~45%+復興特別所得税、住民税10%)で確定申告
「所得税は分離課税で確定申告、住民税は総合課税で申告」ということもできるし、「所得税は申告不要、住民税は分離課税で申告」ということもできるわけです。かつて配当金は所得税・住民税ともに総合課税で申告するのみでした。しかし今、自由に選択できます。
なお、上場株式等の譲渡益も申告するか否かを選べます。
■課税所得900万円以下は「所得税:総合課税で申告、住民税:申告不要」がオトクな理由
配当所得に関しては現在、次のようにすると節税効果がもっとも高いとされています。
- ・課税所得900万円以下…「所得税は総合課税で確定申告」「住民税は申告不要(源泉徴収ありの特定口座で源泉徴収して終わりにする)」
- ・課税所得900万円超…所得税も住民税も申告不要にする(源泉徴収ありの特定口座で源泉徴収をして終わりにする、確定申告はしない)
なぜこれがベストなのでしょうか。それは税率の差にあります。
- ●配当控除を含めた税率の差で節税
上場株式等の配当所得は総合課税で申告すると配当控除が受けられます。配当控除も含めた上場株式等の配当所得の税率を比較すると次のようになります。
税率を比較してみましょう。所得税で見ると、課税所得金額900万円以下は総合課税の方が、900万円超は分離課税の方が、低い税率になります。一方、住民税は一律分離課税の方が低い税率です。
- ●なぜ「住民税は申告不要」なのか
「同じ税率なら住民税は申告不要でも分離課税で申告でもどちらでもいいのでは?」と感じるかもしれません。しかし申告不要にしたほうがいいのです。申告してしまうと、受けられるはずの所得控除が受けられなくなります。
以前、総所得金額等と合計所得金額の違いをお伝えしました。この2つは配偶者控除などの所得控除や贈与税の非課税制度の適用の可否判定で使います。
【参考】総所得金額等と合計所得金額…どう違う?確定申告で使う場面も解説
この考え方は住民税での所得控除も同じです。申告した配当所得はこの総所得金額等や合計所得金額に含めます。また、住民税ではこの2つの基準を所得控除の可否判定で用いるだけではありません。国民健康保険税の計算や非課税の判定でも使います。しかし、申告不要とすれば、総所得金額等や合計所得金額に含まれません。
分離課税で配当所得を申告すると自治体の公的サービスに影響しますが、申告不要とすれば影響を避けられるのです。
■注意点
「所得税は総合課税で申告、住民税は申告不要」の配当所得は、次の点に注意しましょう。
- ●「申告不要」は市区町村で手続きが必要
「住民税は申告不要」とするなら、確定申告期限までに市区町村で申告不要の手続きが必要です。税務署での申告を済ませてホッとしていると、住民税も総合課税の対象となってしまいます。
申告不要の手続きには、次の3点が必要です。
- ・市区町村及び都道府県民税の申告書(上場株式等の所得に関する住民税申告不要等申出書)
- ・所得税の確定申告書の写し
- ・特定口座年間取引報告書の写し
ただし、自治体によっては上記3点と違うところがあります。事前に電話などで確認した方がいいでしょう。
ちなみに令和3年度の税制改正で、令和4年1月1日以降に提出する確定申告書は所得税だけで済むこととなりました。しかし今回の確定申告は、市区町村の窓口に足を運ばなくてはなりません。
- ●日本株・日本株ETF以外の上場株式等の配当所得は別
「課税所得金額900万円以下は『所得税は総合課税で確定申告、住民税は申告不要』がベスト」と言えるのは日本株・日本株ETFで運用しているケースだけです。なぜなら所得税の配当控除が10%になるのは「日本国内に本店のある法人からの配当」が対象だからです。
他の上場株式等だと、配当控除率が下がります。「所得税は総合課税で確定申告、住民税は申告不要」で節税になるのは課税所得額330万円以下です。
この他、総合課税で申告するにしても「納税者自身やその配偶者、親族の所得額が高くなり、配偶者控除や扶養控除を受けられない」といった事態が生じたりします。目先の節税にとらわれず、いろいろな状況を考慮してから判断しましょう。
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