営業色の強い業界で、士業の担っている役割が見えづらい ── そんなイメージから、公認会計士・税理士の転職先としてメジャーではないM&A仲介業界。しかし、日本M&Aセンターのコーポレートアドバイザーは違います。専門性を武器に一気通貫でディールに携わり、中小企業経営者の人生に寄り添う、手触り感ある仕事がそこにはあります。同社のナレッジマネジメント部 部長の雙木達也税理士とコーポレートアドバイザー部の立原昌幸公認会計士に、実務やキャリアの魅力について聞きました。
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会計士や税理士が転職を考えるとき、求人募集があるにも関わらず、『M&A仲介会社』は選択肢に入りづらいというケースは少なくありません。
仲介は営業色の強い業界で、士業の担っている役割が見えづらい ── そんなイメージが先行しているのが主な原因です。
しかし、日本M&Aセンターのコーポレートアドバイザー部で会計士や税理士が担っている役割は、そのイメージとは大きく異なります。
中小企業オーナーの人生に寄り添い、ディールの入口から出口まで関わる『一気通貫』の実務。会計士・税理士だからこそ発揮できる専門性と、現場でしか得られない手触り感があります。
今回は、専門家集団のなかで活躍する雙木達也氏(税理士)・立原昌幸氏(公認会計士)に、M&A仲介の実像と専門家としてのキャリアの広がりを伺いました。
M&A仲介業務において専門家が担う役割

■M&A仲介には、会計士や税理士の方からネガティブなイメージが語られることもあります。まず、その点についてどう感じていますか?
雙木:そうなんですよね。仲介という言葉にネガティブな印象を持っている専門家の方が少なくはないと思います。FAこそ正統派で、仲介は利害調整するだけとか、そんなイメージが先行しているかもしれません。
でも、現場に入ると全然違うんですよ。仲介というのは単に間に立つだけではありません。これは単なる調整ではなく、双方が目指すものを一緒に見ながら、最終的に望ましい形に導く仕事です。
■もう少し具体的に聞かせてください。
雙木:例えばFAの場合、売り手・買い手それぞれの利益最大化を追求するのが役割ですよね。これはもちろん正しいし、欧米ではそれがスタンダードです。
ただ中小企業のM&Aでは、FA型の『利益のぶつかり合い』だと、本来のディールで大切にすべきことを置き去りにしてしまい決まらないことが生じるんです。もちろん、M&Aは成約ありきではありませんので、お互いの利害が相応にバランスしなければブレイクは当然の選択肢です。
しかしながら、経営者同士がイメージする将来的なビジョンなどが高い次元で一致し、相性がよいと思われる組み合わせのディールでも、プロセスが進む中で、相手への配慮が無いと感じさせるような条件調整のコミュニケーションが、「FAの立場から利益最大化を実現しようとするあまり」出てしまうことがあります。
当然本音のぶつかり合いは必要ですが、十分な配慮がないコミュニケーションが原因で、当事者間のお気持ちに本筋ではないひずみを生じさせてしまうことがあるのです。お互いが主張し合って、最後は「もういいよ」「やめるぞ」みたいな。
FAでクロスボーダー案件に関与した際に、弁護士が相手の要望を100%突っぱねるカウンターを返して、相手が怒って破談寸前……のようなこともよくありました。
仲介は、当事者の要望をベストなバランスでどのように最大化させるかを考える。専門家としての判断と構築が必要な仕事なんです。
■仲介は調整役というイメージが強いですが、実際にはより高度な専門性が必要ということですね。
雙木:会計・税務の知識はもちろん、法務や労務、許認可など、ディール全体を見ながら判断する必要がある。専門家がいないと成立しない場面も多いですね。
立原:仲介は『新しいキャリア』の選択肢として見てもらえるとうれしいです。会計士が監査法人後の一歩目二歩目で転職するとき、仲介は選択肢に入ってこないんですよね。FASや事業会社の経理、CFOなどが王道で、仲介はそもそも興味の対象に入っていない。
実際には、仲介の現場には専門家としての付加価値を発揮できる場面がたくさんあります。何をしているのかが見えにくいだけで、内容を知ってもらえれば、こんなに面白い仕事があるのかと感じてもらえるはずです。
■仲介における専門家の役割が知られていないのですね。
立原:一般的にFASは業務領域が明確に区切られている印象で、DDならDD、バリュエーションならバリュエーションと部門ごとの役割が比較的はっきりしていると思います。
一方で仲介は、どこからどこまで関わるのかがイメージしづらい。今回のインタビューで、専門家としての成長の幅の広さを知ってもらい、転職先の選択肢として知っていただきたいです。
雙木:仲介は専門家が活躍できる場が少ないと思われがちですが、実際は真逆です。専門家だからこそできる仕事がたくさんあるし、むしろ専門家がいないと成立しない場面も多い。そこを知ってもらえると、仲介の見え方が変わるんじゃないかなと思います。
「ありがとう」が生まれる現場 ── 中小企業オーナーに最も近い専門家としての役割

■M&A仲介の実務の中で、中小企業のオーナーと向き合う場面が多いと思いますが、どのような経験が印象に残っていますか?
雙木:たくさんありますが、私が仲介の仕事を始めてすぐに「こういう現場なんだ」と衝撃を受けた経験を。
入社してまだ10日くらいの頃、担当者から電話で「いまやっているディールで、譲渡企業の経理処理に問題がありそう
現場ではDDが進んでいて、株価に影響しそうな論点が出ていました。帳簿を見て、何が問題でどう対応できるかを整理して、譲渡企業オーナーと譲受企業担当者・DD担当の
■入社10日で、いきなり現場に入ったんですね。
雙木:そうなんです。しかもその案件、最終的にすごく良い形でまとまったんですよ。成約式のあと、売り手のオーナーの事務所に一緒に戻ったのですが、開口一番、深々と頭を下げて「本当に今回はありがとうございました」と言っていただいて。その瞬間、胸にグッと来ましたね。
■どのようなお話しがありましたか?
雙木:オーナーは、旦那様が急に亡くなられて、経営のことが何もわからないまま会社を引き継いだ方でした。
「銀行に相談したら借入を全部返せと言われるんじゃないか」
「会計事務所に相談したら手を引かれるんじゃないか」
いくつもの不安を従業員にも誰にも言えず、毎日緊張しながら過ごしていたと。
M&Aで引き継いでくれる相手が見つかって、全部が安心に変わった。「こんなに気持ちが楽になるとは思わなかった」と言ってくださって。ただただ感謝の言葉をもらったあの瞬間に、M&A仲介の価値を強烈に感じました。
■専門家としての知識だけでなく、人生に寄り添う仕事なのですね。
雙木:中小企業のオーナーは海千山千の方が多いんですよ。地域で頼られる存在で、カリスマ性も技術もあり、とても魅力的です。そういった方々と向き合って、最後に「ありがとう」と言っていただける。これは前職のBIG4に所属していた時代にはなかったことでした。
■立原さんはいかがですか?
立原:私はM&A仲介の魅力は『距離の近さ』だと思っています。監査法人では、相手は上場企業の役員や経理部長など、財務に精通した方々が中心です。中小企業のオーナーの場合、財務の話が得意ではない方も多い。専門家として丁寧に説明し、理解してもらいます。必要であれば何度でも。そして一緒に進めていく。一連のプロセスに手触り感があるんです。
■『手触り感』という言葉がとてもしっくりきます。
立原:例えばオーナーが「この会社をどうしたらいいかわからない」と本音を話してくれる瞬間があります。どうするのが良いかを考え、一緒に未来を描いていく。これは仲介ならではの距離感です。
雙木:専門家としての知識を使いながら、経営者の人生に寄り添う。両方ができるのが仲介における専門家業務の面白さなんですよね。
受託前からクロージングまで ── 専門家が全工程に関与する『一気通貫』の仲介実務
■M&A仲介の業務では『一気通貫』という言葉がよく登場します。FASの求人票でも『一気通貫で携われる』と記載されることが多いです。日本M&Aセンターの業務での『一気通貫』とは何が違うのでしょうか?
雙木:仲介の場合、まず受託前の段階から入ります。オーナーが「会社をどうしたらいいかわからない」と相談してくるところから始まります。これはもう、M&Aというより人生相談に近い。
そこから、M&Aがオーナーのソリューションとして最も適切と
■受託前から関わるというのは意外ですね。
雙木:はい。仲介は、ディールが始まる前から関与することも多数あります。オーナーの悩みや背景を深く理解した上で進めることができます。
例えば、後継者不在で悩んでいるオーナーの「息子は帰ってこないし、社長の右腕に借入を背負わせるのも違う。どうしたらいいんだろう」という相談から話が始まる。この段階から専門家として寄り添うのが、仲介の一気通貫なんです。
■立原さんは、会計士としてこの『一気通貫』をどう感じていますか?
立原:仲介の一気通貫は、会計士にとって非常に大きな成長機会だと思っています。仲介は、受託前の相談からクロージングまですべてに関わる。横の広さを身につけられるんです。
■横の広さ、というのは具体的にどういうことでしょうか?
立原:会計・税務だけではなく、法務、労務、許認可など、M&Aに必要な論点を横断的に扱うということです。中小企業のディールは、法律だけでは判断できない論点も多いので、専門家としての総合力が問われます。
例えば、
「この許認可はスキームにどう影響するか」
「この労務リスクは買い手にどう説明するべきか」
「この税務論点は契約書にどう落とし込むべきか」
といった判断が必要になります。
こうした全体を見ながら判断する力は、仲介の現場でしか身につかないものだと思います。
■会計士としての専門性が、より立体的に使われるイメージですね。
立原:まさにそうです。監査法人では、専門性は『縦に深く』使われます。仲介では、専門性を『横に広く』使うイメージです。
どちらが良い悪いではなく、仲介は別の成長軸を持っていると考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
雙木:仲介の面白さは、専門家がディール全体に伴走する感覚があることです。プレDDで見つけた論点をどう整理するかでスキームが変わることもあるし、スキームが変われば買い手の意思決定も変わる。買い手の意思決定が変われば契約書の内容も変わる。つまり、専門家の判断がディール全体に影響します。
■専門家としての責任は大きいですね。
雙木:責任は大きいですが、その分やりがいも大きいです。そして最後にオーナーから「ありがとう」と言っていただける。『全体を見ながら伴走する感覚』と『手触り感』の両方があるのが、仲介の一気通貫です。



