気がついたら4社起業していて、いまは4社目にいます
その4社目が、株式会社インベーダーズです。
途中、DAO(分散型自律組織)のロビーイング団体を立ち上げ、合同会社型DAOの立法にも関わりました。会計士がやる仕事だと思われないかもしれませんが、新しい組織形態を法律に載せるには、結局「誰が数字に責任を持つのか」を設計しなければならない。それは会計士の仕事です。
会計士のキャリアは一直線ではなくていい、というのが私の実感です。監査という「他人の事業を内側から見る」訓練を受けているぶん、業種を横断しやすい。この移動しやすさは、いまの時代にはかなり強い資産だと思います。
ついに、エンジニアになりました
現在は株式会社インベーダーズでAIエージェントを作っていて、私自身もコードを書きます。ローカルLLM(端末の中だけで動く生成AI)を使って、バックオフィス業務の自動化を組んでいます。
会計士がプログラミングを覚えるべきだ、と言いたいのではありません。私が言いたいのは、手を動かす対象が「表計算」から「仕組み」に変わっただけだということです。監査調書を組むのも、自動化の仕組みを組むのも、頭の使い方はほとんど同じでした。手続を分解し、証跡を残し、他人が検証できる形にする。会計士は、実はこれの専門家です。
判断させないAIを作りました
その延長で、監査人向けのAIツールができました。いまは一部の会計士に使ってもらっています。
設計するときに置いた原則は、時代劇に出てくる書記役のふるまいと同じです。主君の隣に控えて文書を書きますが、自分では絶対に判断しません。書くのは主君の意思であって、自分の意見ではない。
これがそのまま設計思想になりました。監査においてAIが判断してしまえば、それは公認会計士法に反します。だから作業は全部やらせる。しかし結論と署名は人間が書く。出力される結論欄には「これは自動下書きであり、会計士が確認のうえ確定する」という但し書きが必ず付くようにしました。技術的にはもっと書かせることもできますが、書かせないのは性能の限界ではなく、設計判断です。
作業は任せるが、判断は渡さない
もうひとつの制約が、データを端末の外に出さないことです。処理はすべて端末の中で完結し、外部へは何も送りません。「うちのAIも大丈夫です」と言われることがありますが、その多くは、AIがPCを飛び出してたまたま帰ってきているだけです。どこかへ行っていた可能性は、ゼロではなかった。監査データでその賭けをするわけにはいきません。
実際に使ってみた結果として、全科目で6〜8時間かかっていた調書作成が、30分〜1時間で終わるようになりました。ただしこの数字は、開発者本人が自分の実務で測定した第1号のPoCであって、第三者による導入事例ではありません。そこは正直に書いておきます。
それで、1年目の君へ
最初の話に戻ります。
「この仕事って、あと何年あるんですかね?」と聞かれたとき、私はもう「大丈夫だよ」とは言いません。嘘になるからです。1年目が担っていた作業の多くは、実際になくなります。私がなくしている側です。
そのうえで言えることが、3つあります。
ひとつ。なくなるのは作業であって、監査ではありません。監査が社会に提供している価値は、財務諸表を正しくすることそのものではなく、誤っていたときに責任を負う相手を特定できる状態にすることです。名前を出して引き受ける人がいるから、投資家はその数字を使える。ここは自動化できません。
ふたつ。作業が減るぶん、判断に触れるまでの時間は短くなります。5〜6年かけて監査を一巡していたのは、その間に膨大な作業があったからです。作業が消えれば、若手が判断の場に立つまでの距離は縮まる。これは若手にとって不利な変化ではありません。実は、困るのは上の世代のほうです。
みっつ。いま飛び出すコストは、過去のどの時期より下がっています。私が独立したときは、会計事務所を作るのに人を雇う前提がありました。いまは、その多くをAIで埋められます。私が4社目をやれているのは、才能ではなく、単に時代のおかげです。「一度どこかを経由してから」という助言の重みは、確実に軽くなっています。
だから私は、飛び出す人を止めません。飛び出さなくてもいい。ただ、飛び出せないと思い込んでいるなら、それはもう事実ではありません。




