寄稿:船越 良太/株式会社デイトラ
※タイトルの10分はAI処理・修正対応の時間です。人による初回確認約20分を含めた合計は約30分です。
月次の記帳を進めようとしたら、まずはメールやフォルダから証憑を探すところから。資料がそろっても、「これはどの物件の家賃だったか」「先月はどう処理したか」と過去の仕訳を開く。そんな場面に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
一つひとつは小さな確認でも、顧客が増えれば積み重なります。記帳の負担は入力だけでなく、資料を探し、顧客ごとの処理方法を確かめる時間にもあります。
AIによって、その負担はどこまで減らせるのでしょうか。ストラーダ税理士法人からは、従来は外注で約4時間かかっていた作業を、AIで約10分、人による初回確認を含めても約30分で終えたという報告が寄せられました。対象は証憑約49枚、仕訳約79件。担当者自身のPCで処理した実績です。
別の顧客でも、請求書・銀行取引約75件の処理が、レビュー・登録・試算表確認まで含めて205分から25分に短縮されました。本稿では、この2つの事例から、任せた作業、かかった時間、確認・修正の実際を紹介します。数値はいずれも担当者報告に基づく概数です。 今回使用したツールは、デイトラの「仕訳るくん」です。
事例1:確認・登録まで含め、月約75件の処理を約88%短縮
対象は、マネーフォワードを使用する1法人の2026年7月分。請求書約25件と銀行取引約50件です。
実施した作業
- 証憑の整理・読み取り
- 過去仕訳を参照した仕訳作成
- 仕訳内容のレビュー・必要な修正
- ソフトへの登録・登録後の試算表確認
かかった時間
- 請求書約25件:導入前 約70分 → 導入後 約10分
- 銀行取引約50件:導入前 約135分 → 導入後 約15分
合計は約205分から約25分へ。確認・登録まで含む対象作業で、月約3時間、約88%の削減となりました。同程度の時間削減は、その後も継続しているとの報告を受けています。

約10件の社宅契約。「どの物件の支払いか」を調べる負担が軽減
この法人では、約10件の社宅契約がありました。従来は支払先と金額を手掛かりに、どの物件の支払いなのかを都度確認。Excelに情報をまとめていましたが、照合に手間がかかっていました。
過去の処理を参照して仕訳候補を作ることで、この確認負担が軽減されました。必要な補助科目もAIが提案し、人が確認して作成する運用です。文字を入力する時間に加え、「この顧客ではどう処理していたか」を調べる時間が減った点が、この事例の特徴です。
約75件のうち74件は修正なしで承認でき、修正が必要だったのは1件でした。修正不要率は約98.7%です。全75件のうち5件は顧客への確認を要しており、確認を経て仕訳を確定する運用です。
事例2:外注で約4時間の作業が、AI処理約10分に
従来の外注 約4時間 → AI処理 約10分
人による初回確認:約20分 / 確認込みの合計:約30分
弥生を使用する1法人の6月分について、担当者が自身のPCでAI仕訳を実行しました。対象は証憑約49枚、仕訳約79件。毎月の取引量と内容が安定しており、従来と同じ範囲の作業を比較しやすい顧客での実績です。
実施した作業
- 証憑の読み取り
- 過去仕訳を参考にした仕訳候補の作成
- 弥生への取り込み用ファイルの作成・出力形式の調整
- 人による仕訳内容の確認・必要な修正
かかった時間
- 従来:外注で約4時間/担当者自身の手作業で約1~2時間
- 導入後:AI処理・修正対応 約10分 + 人による初回確認 約20分
証憑の読み取りから仕訳候補・取り込み用ファイルの作成まで、修正対応を含むAI処理は約10分でした。人による初回確認約20分を加えても、合計約30分で完了しています。
※今回は取り込み用ファイルの作成・確認までが対象です。ソフトへの登録後の確認、既存仕訳との照合、二重計上チェックは含みません。
79件中76件は修正なしで承認できました。残る3件では、売上・仕入などの取引区分や、未払金を経由する処理の修正・仕訳追加が必要でした。こうした確認・修正を含めても、合計約30分で完了しています。
2回目は、確認・修正の工程が約20分から約15分になりました。前回と同じ箇所の指摘はなく、新たな1件への対応を含む時間です。これは確認・修正工程の比較であり、2回目の全体処理時間を示すものではありません。

実務で見るべきは、読み取り精度と「確認まで含む時間」
OCRについては、人でも判読が難しい不鮮明な証憑を除けば、ほぼ100%正確に読み取れているという利用者評価が寄せられています。ただし、これは利用者の実務上の評価であり、一定条件で測定した正読率ではありません。
文字の読み取りと仕訳の判断は別です。今回の事例でも、全件を担当者が確認し、必要な修正を行いました。AIに仕訳候補を作らせることで、その確認を含めても処理時間を短縮できた点に、実務上の価値があります。
過去の処理を、次の仕訳に使える形で残す
社宅支払いの事例が示すように、顧客ごとの処理方法を参照できることは、作業負担の軽減につながります。事務所がAI仕訳を導入する際には、過去仕訳から勘定科目、税区分、補助科目、摘要などの処理傾向を整理し、AIが参照できるルールとして残すことが重要です。
過去の処理をそのまま踏襲するのではなく、担当者が妥当性を確認して判断基準を整えます。運用中に修正した内容もルールの見直しに生かせば、次回の処理や担当者間での共有に役立ちます。
まずは顧客1社・1カ月分で、効果を確かめる
導入を検討する際は、今回の事例のように、取引量と内容が比較的安定した顧客から試すと比較しやすくなります。確認したいのは、次の3点です。
- 証憑整理から確認・登録まで、同じ範囲で作業時間が減るか
- 修正が必要な取引は何か、担当者が無理なく確認できるか
- 初期設定や過去仕訳の準備を含め、継続運用に見合う効果があるか
処理範囲をそろえて導入前後を比べれば、自事務所での使いどころを判断できます。まず1社で運用を固め、効果を確かめながら対象を広げていく進め方が現実的です。
事務所でのAI活用は、仕訳候補を作る速さだけでなく、人による確認まで含めた効果で判断することが大切です。今回のように、毎月繰り返す作業で時間を減らせれば、その時間を顧客への相談対応や提案に振り向けられます。
AIを使いこなすことが事務所の競争力になる
私は、2027年にかけてAIを使いこなす事務所では、記帳や資料整理などの定型業務で生産性を10倍以上に高めることも十分に可能になると考えています。私が担当している開発・導入の現場では、すでに実現を目指せる段階に入っており1人100社の顧問をすることも現実的になってきています。これは今回の2事例で事務所全体の生産性が10倍になったという意味ではなく、仕訳の前後を含む業務の自動化を進めた先の見通しです。この証憑出してください、この請求振り込まれていないけど大丈夫ですか?のようなコミュニケーション作業も既にほぼ自動化されています。
一方、税務の専門知識を持つことと、AIやシステムを業務に組み込めることの両立は非常に難しいです。日々の実務に追われ、新しい技術を試す時間を確保しにくい事務所もあるでしょう。私が導入を支援する中でも、メールをAIに書いてもらう程度のAIの使い方を少し知っていることと、毎日の業務で半自動化するほど使いこなしていることの間には、大きな隔たりがあると感じます。だからこそ、いま自ら情報を集め、実務で試し、運用を整えることが大きなチャンスになります。
定型業務の大部分を自動化できれば、同じ人数でより多くの顧客を支援したり、一社ごとの相談や提案に時間をかけたりできます。その結果税理士の仕事は、数字を作る作業から、その数字をもとに資金繰りやM&Aの提案、節税など経営判断を支える仕事へ、さらに重点を移していくと考えています。
他の事務所の動きを待つだけでなく、自分たちが先に使いこなす。その姿勢で、人が担う確認と税務判断を大別しながら、定型業務のほぼ全自動化を目指していくべきだと思います。AIを試す一歩が、これからの事務所の競争力をつくります。
今回使用したツールと関連サービス
デイトラが開発・提供する「仕訳るくん」は、証憑の収集・整理から仕訳候補の作成、担当者による確認後のソフトへの登録・CSV出力までを支援するサービスです。資料回収・提出の催促を支援する「催促くん」、年末調整の書類配布・回収、質問対応、資料整理を支援する「年調くん」も開発しています。
サービス紹介:仕訳るくん・関連サービス



