当初、周りからは弥生会計を使うことに疑問を投げかけられた。それでも「これからはパソコンの時代だ」と未来を予測し、独自の会計事務所路線を歩んできた加賀計算センター(千葉・柏市)の田中敬子代表取締役・税理士と田中敏文取締役・税理士。いち早く自計化に取り組むことで見えてきた税理士の未来像を語ってもらった。

パソコンを有効活用するために買ってみた弥生会計

宮口編集長
弥生会計を使いはじめたきっかけを覚えていますか。
田中敏文
先生
ええ、覚えています。当時の私は、NECのPC-9801や富士通のFM TOWNSなどのパソコンを持っていました。
宮口編集長
当時のパソコンですから1台30万円ほどしますよね。
田中敏文
先生
高額なパソコンを持っていたので「業務に使えないかな」と考えたのがきっかけです。
宮口編集長
他にもいろいろな会計ソフトがありましたが?
田中敬子
先生
弥生会計ソフトが一番安かったんです(笑)
田中敏文
先生
当初は「そんな安いソフトは信用できない」と、税理士の義理の父から言われました。
宮口編集長
あのころの弥生会計は、まだ評価されていませんでしたね。
田中敏文
先生
某税務会計ソフトメーカーの役員からは「そんなソフトは邪道ですよ」「そんなソフト使っていたら会計事務所がだめになりますよ」とも言われました。
宮口編集長
反対の声ばかりの中、よく使い続けましたね。
田中敏文
先生
徐々に使うようになったんです。「安い顧問料で面倒を見てください」と言う顧問先に対して、弥生会計を使ってもらうようにしました。
宮口編集長
弥生会計で自計化させた?
田中敏文
先生
そういうことです。ちょっとした小遣い稼ぎのつもりでした。

旧職員の簿記派と新職員のパソコン派の融合

宮口編集長
奥様を含め事務所全体で弥生会計を使い始めたのはいつごろでしょうか。
田中敬子
先生
Windows版の弥生会計がリリースされたころです。
宮口編集長
どんな感想をもちましたか。
田中敬子
先生
当時使っていたオフコンの会計ソフトは、簿記の知識がないと使いこなせませんでした。ところが、弥生会計は、現金出納帳や預金出納帳を使えば何とかなってしまう。その仕組みが画期的でした。
宮口編集長
簿記の知識が必要ない。
田中敬子
先生
そうなんです。オフコンの会計ソフトに入力するときは、借方を入力したら必ず貸方も入力します。しかし弥生会計ソフトの場合は片方だけ入力すればいい。
宮口編集長
職員の人たちは弥生会計の使い方をすぐに覚えましたか。
田中敏文
先生
ベテラン職員は苦労していました。簿記の知識があるので、現金出納帳に入力したら売上帳にも入力してしまうんです。当初はニ重計上ミスが多かったです。
宮口編集長
知識があるから余計なことをしてしまう。
田中敬子
先生
そうです。一方、若い職員はパソコンを直ぐに覚えるので、ベテラン職員よりも早く弥生会計を使いこなせるようになりました。簿記の知識よりもパソコンスキルの方が重要でした。
宮口編集長
ベテラン職員が辞めてしまうようなことはありませんでしたか。
田中敬子
先生
辞めることはありませんでした。ベテラン職員にも少しずつパソコンを覚えてもらいましたから。
田中敏文
先生
新たに職員を採用するときは「パソコンが使える人」という採用条件にしました。

本格的に弥生会計を使い始めてから仕事が変わった

宮口編集長
当時、弥生会計を使っている会計事務所を探している企業が多かったと聞きます。田中先生も弥生会計のおかげで顧問先が増えたのですか?
田中敏文
先生
増えました。当初は「楽な商売になったな」と思いましたよ。なにせ顧問先が自分で記帳してくれるんですから。
宮口編集長
記帳代行の仕事がなくなって楽になった。
田中敏文
先生
そうなんです。でも、直ぐに問題も起きました。
宮口編集長
どんな問題ですか。
田中敬子
先生
自計化すると顧問先がそこそこの決算書まで作れるようになります。
田中敏文
先生
そうすると、顧問先から聞かれる質問が変わってくるんです。
宮口編集長
質問が変わる?
田中敏文
先生
試算表などのアウトプットに対していろいろと質問されるのです。
宮口編集長
質問のレベルが上がったと。
田中敏文
先生
そうです。「どうやったら売上が上がりますか?」とか「どうやったら経費を削減できますか?」とか、相談の内容が劇的に変わったんです。
田中敬子
先生
危機意識を持ちました。経営のアドバイスができないと、私たちは必要とされなくなってしまうかもしれないと思ったんです。
田中敏文
先生
私は、中小企業家同友会という経営の勉強をする任意団体に参加して、経営の勉強を始めました。
宮口編集長
経営コンサルのような仕事に比重が移ったんですね。
田中敏文
先生
自計化したことでこうなったので、弥生会計を導入したことを少しだけ後悔しました(笑)
宮口編集長
ところで、自計化を推進すると「顧問料を下げてくれ」と顧問先から言われる事務所も多かったようですが、いかがでしたか。
田中敬子
先生
それはなかったですね。
田中敏文
先生
記帳代行だけを行っていたらそう言われるかもしれません。
田中敬子
先生
私たちは顧問先が自計化するにあたりパソコンの使い方なども指導してました。
田中敏文
先生
顧問先のパソコンが故障したときは、私が修理に訪問してあげてました。
宮口編集長
ずいぶんパソコンに詳しいですね。
田中敏文
先生
自分たちで事務所内のネットワーク環境を構築したり、サーバーを立てたりしていましたから、パソコンには詳しい事務所だと思います。
宮口編集長
自計化と同時にパソコンサポートもするし経営アドバイスもする。これなら、「顧問料を下げてくれ」とは言われないですね。

AI技術などが登場するこれからの時代における税理士の理想像とは

宮口編集長
これからの時代、どのような税理士が求められると思いますか。
田中敏文
先生
経営をトータルに知っている税理士が求められると思います。
宮口編集長
そのような知識や経験はどう身につけられるんでしょうか。
田中敏文
先生
事務所を法人化しましたが、そのことで経営をリアルに体験し、中小企業家同友会で論理に落とし込むというサイクルが生まれました。
宮口編集長
経営アドバイスができるようになった?
田中敏文
先生
最初は難しかったですよ。何せ相手は立派な経営者ですから。
宮口編集長
なるほど。経営については顧問先の方が詳しいこともある。
田中敏文
先生
そうです。中途半端な知識で偉そうなことを言ってしまうと、何倍にもなって難しい質問が返ってきます。ある日、ビルゲイツの話しをしたんです。そうしたら社長がすごく興味を持ってくれて、いろいろ質問されました。「失敗した」と思いました(笑)
宮口編集長
知らないことは知らないと言う。謙虚な姿勢は大切ですね。
田中敬子
先生
そうです。まずは社長の話をじっくりと聞いてあげればいいと思います。
田中敏文
先生
経営者は自分の考えを整理したいんです。だから話を真剣に聞いてあげるだけでも意味がある。最後に自分の考えがまとまると「先生ありがとう」と言ってくれます。
宮口編集長
ちなみに、税理士だからできることはありますか。
田中敬子
先生
私たち税理士の強みは、クライアントを通じて、いろいろな業種の経営を疑似体験できることです。それが経験値となり、経営アドバイスをするときに生きてくるんです。
田中敏文
先生
「他の会社の状態はどうですか?」と聞かれたとき、個別の情報は言えませんが、あの業界はどうだとか、こうやって売上を伸ばす方法があるとか、一般論として経営を語れるようになれるのは税理士の強みだと思います。
宮口編集長
AIやクラウドなどの技術が進歩すると税理士の仕事も変わりそうです。将来についてはどう考えていますか。
田中敬子
先生
計算はコンピューターがしてくれるでしょうから、お客様が話をしやすい雰囲気を作ってあげられるとか、アナログな部分が重要になってくる気がします。
田中敏文
先生
既存の仕事は価格競争になってしまうと思います。AI技術が使われると、弥生会計のデータから自動的に経営分析が行われるようにもなるでしょう。
宮口編集長
弥生なら実現しそうですね。
田中敏文
先生
そうなったとき、経営者は分析データを見て不安に感じたり、「これから何をしたらいいんだろう」と悩んだりすると思います。そこで、経営者と一緒になって未来を切り開いていく。そんな仕事が税理士に求められるのではないかと思っています。

有限会社加賀計算センター/税理士法人サニタス(千葉・柏市)

田中敏文 (税理士) 1980年税理士試験合格、2013年経営革新等支援機関認定者
田中敬子 (税理士) 有限会社加賀計算センター 代表取締役

1993年有限会社加賀計算センター設立。2016年12月税理士法人設立。
“私たちはお客様の会社が健康で元気になるお手伝いをします”という理念のもと、お客様との関わりを大切にしています。
https://www.kaga-kei.jp/