消費税は、事業者が国内において資産の譲渡等をした場合に課されます。しかし、輸出については、いわゆる輸出免税として消費税が免除されています。ここでは、「輸出」という概念の解釈が問題になりますが、同じ「輸出」という概念が使用されている関税法との関りなども考察すべきでしょう。今回は、消費税法上の「輸出」概念について考えてみたいと思います。

各国の消費税制と輸出取引
輸出免税は、①日本からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付けのほか、②外国貨物の譲渡または貸付け、③国内及び国内以外の地域にわたって行われる旅客もしくは貨物の輸送または通信、④輸送の用に供される船舶または航空機の譲渡もしくは貸付けまたは修理などが対象とされています(消費7①)。
仮に、輸出取引について各国の消費税制度が統一され、各国における租税負担の水準がほぼ等しくなり、しかも物やサービスの流れが相互的であるのであれば、輸出をした国である源泉地国で課税をするとしても特に不都合は生じません。
しかし、現実的に、そのようにいかないことは明らかです。
すなわち、各国の消費税制が不統一で、しかも物やサービスの流れが相互的でない場合に上記のような課税ルールを採用すると、輸入超過国の国庫の犠牲において輸出超過国の税収が増大するのみでなく、租税負担水準の低い国の製品が国際競争上有利な立場となってしまうのです。
他方、仮に、消費をした輸入国において課税されるルールを採用すると、輸出品は、輸出した源泉地国の消費税を免除され、輸入した国の消費税を課されますので、消費税負担に関する限り、輸入した国および他の国々の製品と全く同じ条件で競争し得ることとなり、税制の国際的競争中立性が確保されます。
また、各国は、自国品・輸入品の別なくその領土内で消費される物品から税収を確保することができるわけです。
我が国が輸入品(外国貨物)に対して国内で製造・販売される物品と全く同様に消費税を課す一方、輸出される物品に対して消費税を免除している理由については、上記のように説明するのが通説といえましょう(金子宏『租税法〔第22版〕』742頁(弘文堂2017))。
このように、消費税法は、輸出品に対する課税を源泉地国(源泉地国課税ルール)ではなく、輸入した国たる仕向地国で課税をするルール(仕向地国課税ルール)を採用しているのです。
「輸出」という概念
さて、この「輸出」とはどのような行為を指すのでしょうか。
私たちが海外旅行をする際に、国際空港のサテライトショップで買い物をして、それを旅行に携行すると「輸出」になるのでしょうか。例えば、空港内の売店で折りたたみ傘を購入して、それを持参して海外旅行をする場合、輸出免税として扱われるのかという疑問です。多くのケースでは、このような場合も輸出免税の対象となっていると思われます。
そのように考えると、消費税法上の「輸出」の意義は、一般的な感覚で理解する「輸出」という用語よりも広いようにも思われます。しかし、この「輸出」概念は、一般的な概念であるとする判決もあるので確認してみましょう。
すなわち、東京地裁平成18年11月9日判決(税資256号順号10569)は、一般概念としてみれば、「『輸出』とは、貨物を外国に仕向けられた船舶又は航空機に積み込むことをいうのであり、船舶又は航空機への積込みという貨物の物理的な移転行為をとらえた概念である」としていますが、これは、例えば同じ「輸出」という概念を使用している関税法のそれよりも狭いものです。
ところで、消費税法に規定されている用語に「輸送」という概念もありますが、この「輸送」という概念を巡っても明確に定義されているわけではありません。
なお、この点、名古屋地裁平成20年10月30日判決(税資258号順号11066)は、「輸送」を関税法の概念と同一のものと理解すべきとしています。
租税法中に用いられた概念について、これをどのように解釈するかは議論があり、その解釈上の困難性がしばしば指摘されますが、消費税法の輸出免税を巡る2つの概念の理解にも、関税法との相違等が見受けられるところ、概念によっては消費税法固有の解釈も必要になりましょう。