天皇陛下の譲位に関心が高まる中、皇太子さまが即位され、改元される5月1日が「祝日」になれば来年は10連休になることから一層国民が関心を寄せている。一方で、譲位による皇位継承は明治以降ないことから、「相続」でない皇位とともに皇嗣が受けた物についての課税問題が一部で話題になっている。というのも、現行法では天皇陛下の終身在位しか想定していないためだ。
仮に5月1日が祝日になると、祝日法に基づき「祝日」とした場合は前日と翌日も休みとなり、4月27日から5月6日まで10連休となる。「休日」ならば前後は平日のままで飛び石連休となるため、10連休にできないかも含めて政府は検討している。
政府は5月1日が休みになれば、国民を挙げて新天皇の即位を祝福できるだけでなく、元号を使ったシステムの改修など改元による国民生活への影響を最小限に抑えられるとみていようだ。
いずれにしても、天皇陛下譲位に伴い、皇太子さまの即位を祝う国民の気持ちが高まるなか、譲位による皇位継承が明治以降想定されていなかったことから、皇室財産の承継についての課税問題も話題になっている。
終戦後、皇室財産の多くは国有財産となったものの、一部は皇室が所有している。その一つが「三種ノ神器」だ。三種ノ神器は、歴代の天皇が皇位のしるしとして受け継いだという三つの宝物。八咫鏡(やたのかがみ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)のことで、これまで歴代天皇によって継承されてきた。
そもそも、「天皇陛下にも納税義務があるの」と思う人も多いようだが、所得税法第9条には、所得税を課さないものとして「皇室経済法第3条、第4条及び第6条 の規定により受ける給付」をあげており、これ以外は一般国民同様に納税義務があるとされる。
非課税にあたるのは「内廷費」「皇族費」、そして「宮廷費」。これは歳費として国から支給されるのだが、「内廷費」とは、天皇家と皇太子家に支払われるお金。それ以外の皇族には品位保持を資する目的から「皇族費」が支給されている。
このほか、皇族で非課税なのが相続税の一部だ。相続税法第12条には「皇室経済法第7条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物が相続税の課税価格に算入しないとされている。皇位とともに伝わるべき由緒ある物、いわゆる「御由緒物」というものがそれに該当する。
昭和天皇から今上天皇に相続されたものとして非課税になったのは合計580件。中には、三種ノ神器も入っている。
相続税を納税したケースでは、たとえば、今上天皇が昭和天皇から遺産9億955万7千円を相続し、約4億2800万円の相続税を納税したようだ。
現行法では生前退位は想定外
ところが、現行法では、相続税に関しては非課税規定を設けているものの、生前退位については想定しておらず、「御由緒物」の贈与における課税問題については不透明であった。そのため、2016年4月21日には天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議(座長=今井敬氏)が最終報告(2016年9月23日内閣総理大臣決裁)により、「天皇の退位に伴い,三種の神器(鏡・剣・璽)や宮中三殿(賢所・皇霊殿・神殿)などの皇位と共に伝わるべき由緒ある物(由緒物)は,新たな天皇に受け継がれることとなるが、これら由緒物の承継は、現行の相続税法によれば、贈与税の対象となる『贈与』とみなされる」とされた。このままでは、三種ノ神器をはじめとした御由緒物に税金が課せられるという前代未聞の事態になる可能性が出てきた。たとえば、三種ノ神器に贈与税が課せられるとしたら、贈与税はどのように算出されるのか。まずは三種ノ神器の評価額を決定することになり、それはそれで本当に評価することができるのか大変な事態になる。ちなみに、三種ノ神器は天皇陛下でさえ実物をご覧になることはできないとも言われていることから、鑑定士が見たり触ったりできないものと推察される。
では、この問題はどのように解決していくのかと思っていると、政府はすでに手を打っていた。「天皇の退位等に関する皇室典範特例法(成立:平成29年6月9日、公布:平成29年6月16日)」を定め、その中に「贈与税の非課税等(附則第7条)」を設けていた。そのまま引用すると「この法律による皇位の継承があった場合において皇室経済法第7条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物については、贈与税を課さないものとする」とある。つまり今回は、特例法としての皇室典範を修正することでこの問題を解決したのだ。こうした機会でもなければ皇室の財産、相続などについては考えないだけに、今回の天皇陛下の譲位は日本人としていろいろなことを勉強させてもらった。