インターネット通販大手、アマゾンのジェフ・べゾスCEO(54)がこのほど、妻・マッケンジーさんと離婚した。ベゾス氏の資産は14兆円以上といわれ、2人が均等に資産を分けたら、マッケンジーさんは女性で世界一の資産家になる。これは海外の、それも超資産家の話しだが、われわれ日本人が離婚したときの財産分与における税金問題はどうなっているのだろか。

ベゾス氏の資産は1370億ドル、日本円にして14兆円を超えるといわれ、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏などを抑え、世界一の大富豪だ。そのベゾス氏がツイッターで離婚を発表した。この大富豪の離婚発表で注目されているのが財産分与。仮に1370億ドルの資産を2人が均等に分け合えば、ベゾス氏は、長者番付の首位から陥落する一方で、妻のマッケンジーさんは、フェイスブックのザッカーバーグ氏をもしのぎ、女性世界一の資産家に躍り出る。
その昔、超資産家の離婚で注目されたのがロシアのロマン・アブラモヴィッチ氏。2003年7月にイングランドのサッカークラブのチェルシーを買収したことで一躍有名になった人物だ。アブラモヴィッチ氏は、2007年3月に60億ポンド(日本円で約1兆3500億円)の慰謝料で離婚したと、当時マスコミで騒がれた。もし、今回、ベゾス氏が離婚による財産分与を均等にしたら、これを大きく上回る財産分与になる。
さて、海外の、それも超資産家の離婚劇はさておき、日本において離婚に伴う財産分与(民法768条、771条)は、夫婦が婚姻中に共同で築いた夫婦共有財産と位置づけられる。それも、夫婦共有財産であるか否かの判断は、名義などの形式基準ではなく実質判断によるものとされる。
財産分与の割合は、財産形成における寄与度にもよるが、通常は折半だ。昔は、専業主婦の妻の分与割合は3割程度と判断されたが、最近は“内助の功”という価値基準もあり、5割と判断されることが多いようだ。
財産分与は、
①夫婦共同生活中の共通の財産の清算(清算的財産分与)
②離婚後の相手方の扶養(扶養的財産分与)
③離婚による精神的損害の賠償(慰謝料的財産分与)
の3つの性質を併せ持つと解されており、財産分与(民法768)は、離婚のときに夫婦の協力で築いてきた財産を2人で分け合うことなので、原則として贈与税はかからないとされる。
ところが、離婚による財産分与でも贈与税がかかる場合がある(相基通9-8)。1つが、分与された財産が過大である場合。財産分与が過大かどうかの判断は、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の価額など、夫婦間のすべての事情を考慮した上で判断される。過大であると判断された場合は、その多すぎる部分に対して贈与税がかかる。ちなみに贈与税は、もらった方が納めるのではなく、贈与した方が納めるので、夫が妻に贈与したと判断されたら、贈与した以上にお金がなくなるわけだ。とはいうものの、過大かどうかの判断は、難しいのが現実と言える。
そして2つ目が、離婚の目的が贈与税や相続税を逃れるためであると判断された場合だ。つまり、財産を移すための、いわゆる「偽装離婚」をした場合、贈与税が課せられる。
この二つの用件に引っかからないためにも、実務的には、離婚に伴う財産分与が行われる場合、その額が過大でないこと、また税金を逃れるための離婚ではないことを、証拠として残しておくことが重要になる。
証拠といっても実際にはどのようにすればいいのかという話だが、財産分与の証拠資料を残す方法の一つとしては、家庭裁判所で離婚の調停をしてもらうこと(調停離婚)。離婚の調停が成立すると、調停証書の正本がもらえるので、それを証拠資料とすることができる。
離婚が「協議離婚」ならば、財産分与に関しては公証人役場で公正証書を作成して認証を受ければ、こちらも証拠資料となる。
ところで、財産分与が土地や建物などで行われた場合、譲渡所得として課税される場合もある。なぜなら、財産分与を土地や建物でした場合、その「モノ」をいったん売却して現金化し、現金を渡したと考えるからだ。最高裁判決では「譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償である必要であることを要しない。したがって、所得税法33条1項にいう『資産の譲渡』とは、有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいうものと解すべきである」としている(最高裁昭和50年5月27日判決)。
つまり、現実に経済的利益を得たかどうかを問わず、資産が移転して発生したキャピタルゲインが課税対象になるというのだ。
そもそも、不動産も夫婦で築いてきた共有財産なので、不動産だけ譲渡になるのはおかしいという不満の声も少なくないが、最高裁は、「夫名義の資産形成に対する妻の貢献度が顕在化するまでの間、妻が夫名義の財産に対しなんらかの潜在的な持分を有するとしても、それは未だ持分割合も定まっていない抽象的な権利というべきものであり(右資産形成の態様には種々様々なものがありうるし、夫婦の財産は通常複数のものから成るものであるから、それらのすべてについて一律に妻が二分の一の共有持分を有するとみることはできない。)、現実の財産分与手続がされて初めて具体的な権利として確定するものである。したがって、財産分与が単に右潜在的持分を顕在化させ、それを正式に帰属させるだけの手続とはいえないのであって、財産分与によって初めて夫名義の財産に対する妻の所有権又は共有持分が発生するといわざるを得ないから、そこに資産の譲渡と目される実質があることは明らかである」と判示している(最高裁平成7年1月24日判決)。
とはいうものの、居住用不動産の財産分与に関しては、一定の要件のもとに優遇処置が認められる場合もある。
また、居住用財産を売ったときは、所有期間の長短に関係なく「居住用財産を譲渡した場合の3千万円の特別控除」(措法35)を使えば、譲渡所得から最高3千万円まで控除ができる。ただし、この特別控除は、売り手と買手の関係が、親子や夫婦など特別な間柄である場合は適用できない。そのため、離婚の際に同特別控除の適用を受けるのであれば、夫婦関係がなくなった離婚後に居住用財産を分与する必要がある。離婚話で夫婦間に大きな隔たりと、感情的な問題が絡んでくると、現実的には離婚後に前述のようにことをスムースに進めることは難しいかもしれない。お互いに弁護士や税理士などの第三者を介しながら、税金までを見越した離婚を進める必要があるわけだ。離婚は結婚よりもエネルギーを使うとよく言われるが、そういったなかで税金対策も見越した、いわば“余裕の離婚”を進めるというのは、計画的に離婚していくことになるのだろう。
ちなみに、厚生労働省の統計によると、日本人の離婚年齢は、男性と女性で年齢に幅があるが、男性なら30~44歳までが最も確率が多い。女性は30~34歳が最も確率が高く、35~39歳、40~44歳の順だ。

アマゾンのベゾス氏と妻のマッケンジーさんは、ツイッターで別居生活をしながら十分な時間をかけて離婚に至ったと報告しているが、財産分与と税金対策まで考えたら、このぐらい離婚も計画的にしていくことが重要になるようだ。