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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~一条鞭法と消費税法~

租税には、一般的に公平性、中立性、簡素性の3つの原則が求められますが、我が国の税制は決して簡素なものとはいえないと思われます。もっとも、そうした各種税制の中でも、消費税法は簡素化を図って創設された制度といわれてきました。今回は、軽減税率導入を巡って大きな議論を巻き起こしている消費税法に注目しましょう。

簡素化を目指した一条鞭法

中国・明の万暦帝の時代、メキシコや日本からの銀が流入したことを背景とした税制に「一条鞭法」があります。
これは、明王朝の後期に中国各地で施行されたものですが、人頭税の性質を有する「丁税」と土地に対する税制である「地税」を一括したものを、銀によって納税させる制度です。

一条鞭法は、まさに簡素化を目指した税制であるといってもよいでしょう。なぜなら、この制度は、当時複雑化していた税制を、丁税と地税にまとめ、一括することに意義があったからです。
このアイデアはその後の清における地丁銀制に影響を与えたものと理解されています。

万暦帝期において宰相張居正のもとで全国に広まったこの制度は、のちに地税依存傾向を導いたようですが、いずれにしても、歴史的に注目すべき簡素化税制の導入だったといえるでしょう。

税制改革法の理念と消費税法創設

我が国における簡素化を代表する税制としては、一般消費税を上げることができます。
昭和63年法律第107号として施行された税制改革法によって、かかる消費税が設けられました。同法3条《今次の税制改革の基本理念》は、次のような理念を謳っています。

「今次の税制改革は、租税は国民が社会共通の費用を広く公平に分かち合うためのものであるという基本的認識の下に、税負担の公平を確保し、税制の経済に対する中立性を保持し、及び税制の簡素化を図ることを基本原則として行われるものとする。」

税制改革法によって消費税法が創設されたわけですが(税制改革10)、この規定からも明らかなとおり、消費税法の導入は、「税制の簡素化を図ること」を基本原則として断行された税制改革と位置付けられています。

すなわち、この改革の下で、税制改革法10条《消費税の創設》3項は、「消費税の創設に伴い、砂糖消費税、物品税、トランプ類税、入場税及び通行税を廃止する。」とし、また、同法14条《消費税の創設に伴う地方税に関する改正》2項は、「消費税の創設に伴い、電気税、ガス税及び木材引取税を廃止する。」としたのです。

つまり、消費税の創設によって、国税・地方税を問わず、物品税をはじめとする各種の個別消費税を廃止したのであって、これはいわば、一条鞭法と同様の簡素化税制が実施されたものと位置付けることができましょう。
このように簡素化をフラグに立てて実施された税制改革の下で創設された消費税法は、これまで簡素化を重視した制度設計となって運用されてきました。

改正消費税法と簡素性の原則

しかしながら、2019年10月から実施されることが予定されている改正消費税法はどうでしょうか。
例えば、国税庁は、「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達(法令解釈通達)」を公表しましたが、軽減税率が導入される「食事の提供の範囲」について次のように示達しています。

「改正法附則第34条第1項第1号イ《31年軽減対象資産の譲渡等に係る税率等に関する経過措置》に規定する〔筆者注:軽減税率の対象とならない〕食事の提供は、事業者がテーブル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所において、飲食料品を飲食させる役務の提供をいうのであるから、レストラン、喫茶店、食堂、フードコート等(以下『レストラン等』という。)のテーブルや椅子等の飲食に用いられる設備のある場所で、顧客に飲食させる飲食料品の提供のほか、飲食目的以外の施設等で行うものであっても、テーブル、椅子、カウンターその他の飲食に用いられる設備のある場所を顧客に飲食させる場所として特定して行う、例えば、次のようなものは、食事の提供に該当し、軽減税率の適用対象とならないことに留意する。」

そして、そこでは次のような例が示されています。

(1) ホテル等の宿泊施設内のレストラン等又は宴会場若しくは客室で顧客に飲食させるために行われる飲食料品の提供
(2) カラオケボックス等の客室又は施設内に設置されたテーブルや椅子等のある場所で顧客に飲食させるために行われる飲食料品の提供
(3) 小売店内に設置されたテーブルや椅子等のある場所で顧客に飲食させるために行われる飲食料品の提供
(4) 映画館、野球場等の施設内のレストラン等又は同施設内の売店等の設備として設置されたテーブルや椅子等のある場所で顧客に飲食させるために行われる飲食料品の提供
(5) 旅客列車などの食堂施設等において顧客に飲食させるために行われる飲食料品の提供

このように、外食が軽減税率の対象から除外されているものの、「持ち帰りのための飲食料品の譲渡(飲食料品を持ち帰りのための容器に入れ、又は包装を施して行った飲食料品の譲渡)は、軽減税率の適用対象となる。」として、更にその例外が設けられています。

また、(4)、(5)でも、施設内に設置された売店や移動ワゴン等による弁当や飲み物等の販売は軽減税率の対象となることとされています。
もっとも、そのうちでも、「座席等で飲食させるための飲食メニューを座席等に設置して、顧客の注文に応じて当該座席等で行う飲食料品の提供」や「座席等で飲食させるため事前に予約を受けて行う飲食料品の提供」については、軽減税率の対象とはならないとされているのです。

改正後のこのような税制が、税制改革法で簡素化を目的に導入された消費税法の現在の姿です。明の時代から税制の簡素化の試みはあったわけですが、現実における税制において簡素化への希求が放棄される理由はどこにあるのでしょうか。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ 仮想通貨の最新税務』、『キャッチアップ改正相続法の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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