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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~オオカミが来たぞ!~

有名なイソップ寓話の一つに「オオカミ少年」があります。「嘘をつく子供」とか「羊飼いと狼」ともいうようです。嘘をつきすぎて大人に信じてもらえなくなったオオカミ少年と、近時の消費税増税を照らし合わせてみましょう。

嘘と真実

紹介するまでもありませんが、この有名な寓話は、羊飼いの少年が退屈しのぎに「狼が来た!」と嘘をついて騒ぎを起こし、大人たちが武器をもって集まり慌てる様子を楽しむという話です。

少年が繰り返し同じ嘘をつくので、そのうち、大人たちは少年のいうことを信じなくなり、本当に狼が現れた時にも、「狼が来た!」というその少年の言葉を信用せず、結局誰も助けに来なかったため、村の羊が全て狼に食べられてしまったという話です。

この「オオカミ少年」の寓話から、「オオカミ少年効果」などと呼ばれる現象があります。すなわち、警報があまりに頻繁に発されると、人々が、次第にそうした警報に対して無反応になっていく・・・そのような効果を「オオカミ少年効果」と呼びます。

消費税の増税とレジスターの導入

さて、今年(令和元年)の10月1日に、消費税が増税されましたが、かかる消費税法改正においては、飲食料品に対する軽減税率が適用されることとなりました。

この軽減税率制度の導入により、スーパーや小売店での商品販売においては、8%の消費税と、10%の消費税が混在することになりますが、これを手計算で行うことは難しいといわざるを得ません。一般的には、レジスターによる計算に頼るほかないわけですが、レジスターの導入についても、それ相応の準備が必要となることは指摘するまでもないでしょう。

また、同時に開始された、キャッシュレス決済の際のポイント還元制度についても、やはりレジスターなかりせば対応できません。

資本金5,000万円以下の中小企業に該当する店舗においてキャッシュレスによる会計を行えば5%ないし2%のポイント還元がなされるわけですが、この点、店舗がチェーン店であるか否か、フランチャイズ契約をしているか否かといった観点から、5%の還元率であるのか、あるいは2%の還元率であるのかに差異があり、全国一律の割合が適用されるわけではないのです。

この制度導入に当たっては、まず、店舗としてキャッシュレスに対応する必要があり、これには設備の設置を含め各種の準備が必要となりましょう。手計算では到底追いつけない以上、つまるところ、やはりこれに対応できるレジスターの設置が要求されるというわけです。

さて、現在、全ての日本中の店舗で、軽減税率適用のレジスターやポイント還元対応のレジスターが用意されているのでしょうか。キャッシュレス決済の対応がなされているのでしょうか。
この点については疑問の声が聞こえてくるでしょう。

ここで、昨年の新聞記事を振り返ってみましょう(平成30年9月28日付け毎日新聞)。
「消費増税まで1年 軽減税率対応遅れ レジ更新、中小重荷」という見出しの記事です。

 10月1日で10%への消費税増税まで、残り1年となる。今回の増税では、消費者の負担軽減策として食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率が導入される。小売店などでは価格表示の変更やレジの更新などの対応が必要になるが、食品の「店内飲食」と「持ち帰り」で税率が違うなど制度は複雑なうえ、これまで何度も増税が先送りされたこともあり、準備の遅れが目立っている。

すなわち、この記事によれば、事業者は、「消費税がまた延期されるのではないか」との観測から、上記のようなレジスターの設置をはじめとする各種の対応を見送っているというのです。

繰り返される消費税の延期

なるほど、消費税は平成26年4月に5%から8%に増税されて施行されてきましたが、当初は、翌27年10月に消費税が10%に増税されると法律上の決定を得ながらも、政府は増税の平成29年4月への1年半延期を決定しました。

この理由は、国内の個人消費が低迷している中での増税がデフレを伴うおそれがあるというものでしたが、その後、平成28年6月においても、政府は消費税の増税延期(2年半)を決定しています。この延期の理由は、いわゆるチャイナリスクをはじめとするアジア新興国の経済の陰りが日本経済に影響を及ぼしかねないというものでした。

このように2度にわたって消費税の増税が直前になって先送りされたことが記憶に新しいなかにあって、今年(令和元年)10月の消費税増税が果たして実行されるのか、あるいは延期されるのかという点を十分に見極めなければ、高額なレジスターを用意することをためらう事業者が相当数いたとしても何も不思議ではないでしょう。

上記の記事が述べていることは、「オオカミ少年効果」と同様の意味を有しているといってもよいのではないでしょうか。

 

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著者: 酒井克彦

中央大学法科大学院教授/法学博士

中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔3訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ改正相続法の税務』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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