時折、巨額の脱税事件が世間を賑わすことがありますが、例えば医師の脱税事件の場合には、自由診療報酬部分を利用した脱税が多いものと思われます。租税法を研究している筆者としては、こうした巨額の脱税事例が起こるたびに、租税法令の遵守について危惧の念を抱くのですが、今回は租税法令遵守に焦点を当ててみたいと思います。
世間を賑わせた脱税事件

有名な美容整形クリニックの医院長が脱税し数十億円の追徴税額を納税したという話が、以前、多くの牛耳を集めたことがあります。租税法令の遵守がなされていなかったこの事件は、租税専門家のみならず多くの一般市民の間でも話題になりました。
医師などの収入の中心は、大きく分けて社会診療報酬と自由診療報酬に分かれますが、社会診療報酬部分は明確に保険制度に組み込まれているため、税額の計算の基礎となる所得金額の計算をごまかしづらいのに対して、自由診療報酬部分は収益計上が脱漏しやすい点が指摘されることがあります。
最近は、従来以上にアンチエイジングへの関心が増しており、おそらく、シワ取りやシミ取りなどの自由診療は多くの需要があるのでしょう。
例えば、美容整形でいえば、ホウレイ線の除去などがその代表ではないかと思われます。
ホウレイ線は法令線?
ところで、このホウレイ線、漢字で書くと、「豊麗線」などと書かれることもあります。また、年齢を重ねて生まれるためでしょうか、「豊齢線」と表記されることもありますが、いずれが正しいのでしょうか。
辞書を調べてみると、「豊麗線」とも「豊齢線」とも記載されているのみならず、「法令線」と表記されています(『三省堂国語辞典』〔第6版〕)。むしろ、「法令線」が一番最初に登場するのです。
鼻のわきから口のはしにのびる、八の字のしわ。〔人相学で、鼻のわきを「法令」と言い、規則正しさなどに関係するという〕
石龍子『観相学大意〔下巻〕』198頁(誠文堂新光社1935)は、唇は道徳力に関係し、腮(あご)骨は法律に関係するといいます。そして、「口角に沿うて法令がある。相書に『法令深くして正しきものは、萬事に規則正しく、權威も强し』とあり、また『大海豊満は愛嬌多し』とある。」としています。なお、大海とは、頬の下の部分を指します。
この点について、飯間浩明『辞書を編む』177頁(光文社2013)では、次のように説明されています。
すなわち、法令線がはっきりしている人は、法令遵守の精神に富んでいるというのですから、その人の行動そのものが法令のようであるとさえ言われる「しわ」も、そう考えるとありがたいものでもあるのです。
美容整形クリニックで法令線を除去するのもよいですが、いずれにしても、法令遵守の精神まで失ってしまうのはよろしくないように思われます。