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富裕層にメス、所得税申告漏れ1件当たり3 千万円超

近年、国税当局が税務調査でマークしているのが、海外取引等で高所得を得ている富裕層。このほど公表された国税庁の平成29事務年度所得税調査等の状況によると、1件当たり3千万円超の申告漏れがあることが分かった。

2017年7月から2018年6月までの1年間に実施された所得税の調査件数は、62万3千件と前年度に比べて3.8%減したが、このうちの38万4千件から同1.7%増の9038億円の申告漏れ所得を把握した。前年度と比べると調査件数等は減少しているものの申告漏れ所得金額は増加しており、その追徴税額は1196億円におよんでいる。

国税庁資料より

実地調査には「特別調査・一般調査」と「着眼調査」が

調査には、納税者宅に臨場せず文書や電話による連絡や、税務署に来署してもらい申告書等の不明な点を確認して是正する「簡易な接触」、納税者宅や金融機関等へも調査・捜索にあたる「実地調査」の2種類に大きく分けられ、さらに実地調査は「特別調査・一般調査」と「着眼調査」がある。
このうち、特別調査・一般調査は、特に高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に行われるもので、調査先数も多く深度ある調査を行うため、調査日数も必要となる。着眼調査は、資料情報や事業実態の解明を通じて調査が行われ、調査日数は比較的短期間となる。ちなみに、29事務年度の平均調査日数をみると、着眼調査が2万3218件行われて平均調査日数は3日であるのに対して、44万9735件行われた特別・一般調査では9.1日と約3倍かかっている。

申告漏れ所得金額ワースト1はキャバクラ

申告漏れのあった38万4千件を業種別でみると、1件当たりの申告漏れ所得金額では最も高いのが「キャバクラ」の1件当たり2897万円で、以下、「風俗業」1974 万円、「不動産代理仲介」1774万円、「システムエンジニア」1365万円と続く。
ワースト1位となった「キャバクラ」は、前年まで「キャバレー」として業種管理されていたが、今回から業態に合わせて細分化。この名称としては初めての統計だ。しかし、この10年間はキャバレーと合わせると、ワースト1が5回、ワースト2が4回となり、「風俗業」とともに不正の常連業種であることには変わりはない。
また、業種別の申告割合の高い業種をみても、「キャバクラ」が93.7%、「風俗業」が89.7%となっており、実地調査に赴けばまず申告漏れ(不正)が把握できるといっても過言ではない状況だ。

海外投資者の申告漏れは997億円

国税当局が近年力を入れているのが、海外投資者、富裕層、無申告者、インターネット取引を行っている者に対する調査。
海外投資等を行っている個人へは、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度を利用して有益な資料を収集し調査選定を行っている。29事務年度は4616件(前年度3145件)の実地調査を行い、977億円(同541億円)の申告漏れ所得金額が把握している。1件当たりの申告漏れ所得金額は2116万円(同1,720万円)で、実地調査(特別・一般)全体の平均額1021万円の約2.1 倍にあたる。1件当たり追徴税額は342 万円。
海外取引の区分別の調査件数構成比をみると、海外投資(海外の不動産、証券などに対する投資(預貯金等の海外での蓄財を含む)が34.4%、輸出入(事業に係る売上及び原価に係る取引で、海外の輸出(入)業者との契約による取引)が12.0%、役務提供(工事請負、プログラム設計など海外において行う、労力、技術等の第三者に対するサービスの提供)が9.1%で海外投資が全体の3分の1を占め、1件当たりの申告漏れ所得金額は、海外投資が3320万円を群を抜いて多く、以下、役務提供1477万円、輸出入1053万円と、やはり海外投資の金額は大きいようだ。
なお、国税庁では、今後も今年9月に初回交換が行われたCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)などを効果的に活用し積極的に調査を実施していく。

国税庁資料より

無申告者等の申告漏れ平均額は2136万円

国税当局が力を入れている中でも長期間渡りマークし続けているのが無申告者への調査。というのも、無申告は申告納税制度の根幹である“自発的な適正納税”を揺るがしかねない問題であり、適正申告・納付している納税者に強い不公平感をもたらすこととなるため、的確かつ厳格に対応していく必要があるからだ。
29事務年度も7779 件に調査を展開し、1662億円の申告漏れ所得を把握し207億円を追徴した。1件当たりの申告漏れ所得金額は2136 万円と調査全体の平均額と比べて2倍の金額におよんでいる。
不正事例をみると、人気アーティストのチケット等を扱っていた調査対象者は、退職金を元手にネットオークションでアイドルのコンサートチケットやCDに付いている握手券の販売を開始し多額の利益を得ていた。また、コンサートチケットは自身名義のほか、複数の知人名でファンクラブに入会して大量のチケットを購入していた。そして、複数所有していた自身のネットオークション用のIDのうち一部のIDで出品できなくなると、今度は知人を介して入手したネットオークション用のIDや決済口座も使用してコンサートチケット等を販売し、5年間で約1億600万円の申告所得を除外していたことから、重加算税を含めて約4100万円が追徴されている。

仮想通貨などネット取引の申告漏れ所得金額は219億円

今年の確定申告では、ビットコインなどの仮想通貨の取引により、億単位で稼いだいわゆる“億り人”が話題となったが、国税当局ではこの仮想通貨に関しても適正申告の周知とともにしっかり情報収集を行っている。仮想通貨はインターネット取引のネットトレードに分類されており、これを含めたインターネット取引全体では2015件に調査が行われ、申告漏れ総額は219億円に上る。1件当たりの申告漏れ所得金額は1087万円で追徴税額は186万円だった。取引区分別では「ネット通販」が616件、「ネットオークション」が435 件、「ネットトレード」が336 件、「ネット広告」が241件、「コンテンツ配信」が33件となっている。

不正事例をみると、仮想通貨の取引による利益について自主的に修正申告書を提出していたものの、部内資料等から修正申告書の内容を大きく上回る仮想通貨取引による利益を得ていることが想定されたため調査された会社員のケースでは、調査の結果、多数の仮想通貨取引所に本人及び妻名義の取引口座を開設し、自身で開発した仮想通貨の自動売買プログラムを使用して多額の利益を得ており、仮想通貨取引の利益は申告する必要があることを知りながら、本人名義のうち、一部の仮想通貨取引の利益は修正申告したが、妻名義などで行った仮想通貨取引による利益は修正申告書に含めていなかったことが明らかになった。申告漏れ額は1年間で約5千万円に達し、重加算税を含め約2400万円が追徴されている。
また、会社員として勤務する傍ら、副業として自身のHPに企業広告などを掲載することによりアフィリエイト収入を得ていたAのケースでは、勤務先に副業が見つかると給与等が減額される恐れがあることから申告しておらず、さらに規約違反により自身のアカウントが停止になった後も妻名義のアカウントでアフィリエイトの業務を行うとともに、妻名義の銀行口座にアフィリエイト収入を振り込ませることで、6年間にわたり約5300万円を申告から除外していた。追徴税額は重加算税を約800万円。

仮想通貨取引はこれからも調査ターゲット

気になる今後の調査対象だが、やはり一番は仮想通貨により高額な所得を得た者だろう。というのも、国税庁では仮想通貨取引に関する所得について、納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を図るため、今年4月以降、6回にわたり「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」を開催するとともに、所得計算や申告手続き方法を公表・周知を図るとともにFAQを公開。また仮想通貨取引の適正な申告に向けて積極的に取り組んでいくことを表明しており、目を光らせているからだ。

著者: イーター侍

税金ライター/元税金専門誌編集者

四半世紀以上、税金専門誌の編集者として国税庁、国税局、税務署、会計事務所に出入りする。数年前に独立した後、編集者時代に築いた人脈をいかし、ネットワークビジネスを手がける。その傍ら、趣味と副業を兼ねて税務関係ニュースを追いかける“中年ライター”だ。

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