国外に5,000万円を超える財産を保有する居住者(非永住者を除く)は、確定申告の際に「国外財産調書」を提出しなければなりません。今回紹介する事例は、個人が出資した香港の外国法人についてタックスヘイブン対策税制の適用を受け、「雑所得」として課税処分されるとともに、当該海外子会社の株式について国外財産調書の提出漏れを指摘された事案です(平成29年3月3日裁決)。

事実関係

個人Aは香港に所在する外国法人の株式を有していた。
税務調査において、当該外国法人についてタックスヘイブン対策税制の適用を受け、課税対象金額をAの雑所得に算入するという更正処分を受けた。
さらに、Aは国外財産調書を提出していなかったところ、5,000万円を超える外国法人の株式を有していたとして国外財産調書を提出しなければならないと指摘された。
また、国外財産調書を期限内に提出しなかったとして、5%加算された過少申告加算税を賦課された。
Aは課税処分の取り消しを求めて審査請求したが、棄却された。

国外財産調書を提出しなければならなかったか否か

「国外財産調書を提出しなければならなかったか否か」について、審判所は次の通り判断した。

①Aは、平成25年12月31日において、外国法人の発行済株式4,000,000株を有しており、これは国外財産に当たる。

②国外財産の価額は、その年の12月31日における「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」によることとされている。

③この「見積価額」については、金融商品取引所等に上場等されている有価証券以外の有価証券で、その年の12月31日における売買実例価額がなく、また、翌年1月1日から国外財産調書の提出期限までにその財産を譲渡した場合における譲渡価額がないものの見積価額は、「取得価額」とする旨定められている。

④問題となっている上記外国法人の株式は、金融商品取引所等に上場等されている有価証券以外の有価証券であって、平成25年12月31日における売買実例価額、及び平成26年1月1日から国外財産調書の提出期限までの間における譲渡価額はなかった。また、その取得価額は4,000,000香港ドルであった。

⑤国外財産の価額が外国通貨で表示されている場合の円換算は、その年の12月31日における外国為替の売買相場のうち、TTB(対顧客直物電信買相場)によることとされている。香港ドルの平成25年12月30日におけるTTB(12月31日の相場がないため、その直前の日の相場を用いている)は、1香港ドル当たり13.16円であった。

⑥これらに基づいて、上記株式の平成25年12月31日における価額を計算すると、52,640,000円(=4,000,000香港ドル×13.16円)となり、50,000,000円を超える国外財産を有することから、国外財産調書を提出しなければならなかったというべきである。

過少申告加算税の5%加重について

本事案では、個人Aはタックスヘイブン対策税制の適用を受け、追徴税額に対して5%加重された過少申告加算税を課されている。
この5%加重について審判所は、個人Aは平成25年12月31日における国外財産について国外財産調書の提出義務を負っていたにもかかわらず、これを提出期限内に所轄税務署長に提出していなかったことから、国外送金法第6条第2項の規定による5パーセントを加算して計算された過少申告加算税の賦課は適正と判断した。

コメント

パナマ文書やパラダイス文書が公開されたことにより、「タックスヘイブン」という言葉が注目されているが、日本ではこのタックスヘイブンを使った租税回避を防止するための制度として「タックスヘイブン対策税制」がある。
このタックスヘイブン対策税制は、法人のみに適用されるわけではなく、日本の居住者である個人が株主となって海外に子会社を設立した場合にも適用される点は押さえておきたい。個人に対して適用される場合には、「雑所得」として課税されることとなる。
また、個人が出資した外国法人の株式は、国外財産にあたり、国外財産調書の対象となる点も確認しておきたい。
近年、国税当局は、海外への資産隠しや、海外に設立した法人を利用した租税回避に対する課税に力を注いでおり、国外財産への監視体制も整ってきていることから、今後、こうした国外財産の申告漏れがないように十分注意したいところである。