今回の事例は、中国の子会社に対する仕入れの値増し金が、子会社の資金不足を補うための資金供与であり、「国外関連者に対する寄附金」であると認定された裁決事例です。この事案では、国税当局は仮装隠ぺい行為を伴うとして重加算税を賦課しましたが、国税不服審判所は重加算税を取り消しました(平成25年7月5日裁決)。

事実関係
①X社は、配管用継手製造等を営む法人であり、中国に100%出資の製造子会社であるJ社を有している。
②X社は、J社からのバルブ製品の仕入れ取引に関し、「値増し合意書」を作成し、それに基づき、X社は平成20年9月から平成23年4月にかけてJ社に対し合計1億5,000万円を送金し、これを仕入勘定に計上した。しかし、上記送金の一部について中国の国家外貨管理局支局から国家外貨管理規定に合致しないとして返金を命じられ、X社に返金された。X社は返金額を預り金勘定に計上した。
③X社は、J社への送金を可能とするため、現地の会計事務所の助言に基づき、X社とJ社との間で金銭消費貸借契約書を作成しJ社へ送金した。J社は送金された金額を借入金として経理した。
④国税当局は、X社が、J社への送金額を仕入勘定に計上したことについて、X社がJ社との間で取り交わした金銭消費貸借契約書の記載内容が両者の意思を表しているといえるから、この送金額はX社からJ社への貸付金であり、損金の額に算入されないとして課税処分を行った。また、X社の行為は隠ぺい又は仮装の行為に当たるとして、重加算税を賦課した。X社は国税不服審判所に処分の取り消しを求めた。

審判所の判断
①X社は、中国の会計事務所より、X社からJ社への送金については増資又は貸借の形にすれば解決できるとのアドバイスを受け、J社への送金に当たって金銭消費貸借契約書を作成したと認められる。また、元利返済期限が到来する利息をその都度免除していること等から、金銭消費貸借契約の成立要件である当事者間における交付した金銭に係る返済の合意が存するとも認められない。X社及びJ社が金銭消費貸借契約書を作成したことは、X社が外貨管理局の許可を得てJ社に必要な資金を送付するために、金銭消費貸借契約の形式を採用したにすぎず、利息の免除やJ社における借入金の計上もこれに対応させたものにすぎない。したがって、仕入れとした金額が貸付金であるとの国税当局の主張は採用できない。
②一方、値増し金の算定根拠をみると、J社の為替差損、諸経費の増加、訴訟裁判費用、建物の補修費及び赤字補填のために行われたとみるのが相当であり、X社とJ社との間において、値増しの対象とされた既往の各取引について、事後的に本件製品の実績原価を算出した上で値増しの額を算出するなどして既往の取引価額の修正について合意したと認めることはできず、親会社であるX社が、資金不足に陥ったJ社に対し、金銭の贈与を行ったとみるのが相当であり、寄附金に該当する。
③重加算税の賦課については、本件の場合、会計事務所から早期の資金提供のためには増資又は貸借の形で解決することができる旨のアドバイスを受けて、金銭消費貸借契約の形式を採用したにすぎない。また、値増しのために一応の計算を行ったことがうかがわれることからすれば、X社の取引に不自然な点はあるものの、仕入計上に関しては、X社に事実の仮装・隠ぺいと評価すべき行為があったと認めるだけの証拠はなく、X社に事実の仮装・隠ぺいの行為はなかったといえる。
コメント
本件は、仕入れの値増し金について、形式的に値増し合意書が作成されていたものの、金額の算定根拠を詳細に検討した結果、値増しについての合理的な理由がなく、子会社の赤字補填のために行われたものであり、寄附金にあたると認定したものである。値増し自体は第三者間取引でも行われ得ることであるが、合理的な算定根拠がない場合や、その目的が海外子会社の財務支援であると判断されると寄附金課税の対象となってしまうので、安易な価格調整は避けるべきであろう。
また、本件では貸付に当たるものを仕入れとして計上したことについて、仮装・隠ぺいに当たるとして重加算税が課されたが、審判所は、現地会計事務所のアドバイスに従って会計処理しており、故意に事実をわい曲する行為とは認められないと判断し、重加算税を取り消した点も注目される。