人気連載第16弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は、マカオの税収のほとんどを占める、gaming tax (カジノ税)を解剖してみます。

カジノ天国マカオ!

マカオで夜遊びしました~!(1年前の話ですが・・・)

マカオで1番イケてるというクラブのエントランスにて

中華人民共和国マカオ特別行政区は、その名のとおり中国の中の特別行政区です。香港とともに、中国の“一国二制度”の下で資本主義が認められています。独自の通貨(マカオ・パタカ)を持ち、独自の税制を持つ行政区です。

面積約28㎢、人口約64万人の小さな区域ですが、1人当たりのGDPは、なんと世界4位($111,600)です。日本の1人当たりGDPは世界48位($42,800)であることと比較すると、どれだけ経済的に潤っている国か分かりますね。

なぜ小さな小さなマカオがこんなにも潤っているのかというと、それはいわずもがな、世界を代表するカジノ天国だからです。

かつては“東洋のラスベガス”といわれたマカオですが、カジノの収益は年間約4兆円で圧倒的に世界1位。ラスベガスは年間約1兆円で世界2位に降格しています。ラスベガスはカジノ以外の要素、たとえば、ショーやレストランなどに力を入れているため、いまや“カジノ天国”というよりも“総合複合施設”へと路線変更しているのです。

マカオにあるカジノの収入合計は約4兆円・・・と聞いても規模がピンとこないかもしれませんが、日本の防衛費が約5兆円であることと比べると、とんでもない大金であることが分かります。

マカオのカジノ売上げは年々伸びています。ただし例外的に、2014~2016年は売上げが低迷しました。習近平国家主席による反腐敗運動の影響がカジノの売上に及んだためと考えられます。

カジノの歴史

せっかくなので、カジノについて少し掘り下げて見たいと思います。
ポルトガル領だったマカオは、1962年からずっと、スタンレー・ホーという人物がカジノの独占営業権を有していました。スタンレー・ホーは、私の通う香港大学の大先輩です(私は現在、香港大学大学院に在籍しています)。

マカオが1999年に中国に返還されたのち、中国政府はマカオを国際的な観光都市にするべく、外資誘致を始めました。それまでカジノ施設は11個でしたが、スタンレー・ホーが独占営業権を失った2002年を皮切りに、香港のギャラクシーやアメリカのウィンなど、有名なカジノホテルが次々とマカオに流れ込んできました。結果、2019年現在、マカオには41のカジノ施設があります。

さて、そんなマカオのカジノ。41のカジノ施設には、さまざまなゲームが設置されているわけですが、どのゲームが1番収益を上げていると思いますか?

ギャンブル初心者の筆者は、ブラックジャックとルーレットの存在しか知りませんでした。そしてなんとなく、ブラックジャックって有名だから、1番収益を上げているのかな? と予想していました。

しかし、その予想は大外れ。正解は「バカラ」というゲームです。ネバダ大学ラスベガス校のリサーチによると、なんと、このバカラが売上の89%を占めています(2018年統計)。


参考:UNLV CENTER FOR GAMING RESERCH Casino Revenue By Game

読者の皆さま、バカラというゲームはご存知でしたか?

香港よりもさらに低税率なマカオ

さて、そろそろ税制の話をしたいと思います。
まずはマカオの財政をのぞいてみましょう。

マカオの歳入は約1兆6500億、そのうち税収は1兆3200億です。税収の内訳を簡単にグラフにすると、以下のようになります。


参考:マカオ財政局公表統計

マカオの税収は、なんと86%がGaming tax、カジノなどからの税収で構成されています。法人税にあたるProfits taxは税収の約5%、個人所得税にあたるSalaries taxは税収の約2%しか構成していません。ほとんどの税収をカジノなどの収益に頼っていることが分かります。

法人税や所得税は、マカオにとってあまり大切な税源ではありません。そのせいか、マカオの法人税・所得税率はアジアで最も低い税率となっています。マカオにおける法人税は12%、所得税率は0~12%の累進税率(給与所得及び自営所得)、そして10%(不動産所得)です。

さらに、“所得税”といっても日本とはコンセプトが違います。

日本の所得税は、基本的にすべての所得が所得税の対象です。これは税制の世界では“General Income Tax System”と呼ばれるものです。利子も配当も、給与も年金もすべて受け取ったものは所得税の対象となります。原則として、すべての所得は課税対象になります。

これに対してマカオの税制は、“Schedular Tax System”と呼ばれるものを採用しています。これはなにかというと、すべての所得が所得税の対象であるという大前提をなくして、特定の所得のみが課税対象に選ばれ、その特定の所得について、それぞれ別の税率を課すという方法です。別の言葉で表すと、”包括的所得概念“がないともいえます。特定の所得ごとに特定の税率が決まるので、それがスケジュールになっている=Schedular Tax Systemと名付けられています。

マカオで税金のかかる個人所得は、Professional Income = マカオ国内で得た給与所得や自営所得、そしてProperty Tax =不動産に貸付から得る所得に対する所得の2つです。Property Taxは、日本だと“固定資産税”と翻訳されてしまい誤解を生むことがありますが、マカオには資産税はなく、ここでいうProperty Taxは不動産所得にかかる所得税という意味合いです。

マカオにはパンダもいます

税率は既述のとおり、Professional Incomeは最高12%の累進税率、Property Taxは10%です。そして、さらに、マカオ国内での所得にしか税を課さないTerritorial Tax Systemを採用しているため、マカオ内で生じた所得のみが課税対象となります。居住者である納税者がマカオ国外源泉の所得をどんなに得ていようとも、マカオへの納税義務は生じないということです。

アジアのタックス・ヘイブンと呼ばれている香港の法人税率は16%、所得税率は0~17%の累進税率(または一律15%の税率を適用して低い方の税額を負担する)。次いで低税率国として人気のあるシンガポールの法人税率は17%、所得税率は最高22%の累進税率です。これらと比べても、マカオの税率はとても低いですね。

 

そんなマカオにおいて、高い税率が適用される税目が1つだけあります。

 

それは・・・もう予想がつくかと思いますが、Gaming Tax (ギャンブル税)です。既述のとおり、税収の86%を構成するギャンブル税ですが、その税率は35%と、とても高く設定されています。
歳入については以上のとおり、歳入のほとんどを税収が占め、さらにそのほとんどをGaming Taxが占めるのがマカオの特徴です。歳出は約1兆5000億円で、主に公務員への給与や公共事業に使われています。中国内の行政区に過ぎないので、防衛費や外交費はありません。財政は真っ黒な黒字です。

 

そんなマカオ、香港から高速船でたったの1時間足らずで着きます。香港観光と併せて、ぜひ連休の旅先として、ご検討ください。

 

今回のケースの結論:マカオ最大の納税者は観光客の皆さんです!