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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~AIが作成したデザインと源泉徴収~

二松学舎大学では、夏目漱石の孫である夏目房之介氏などと共同で、「漱石アンドロイド」プロジェクトを進めています(https://www.nishogakusha-u.ac.jp/android/index.html〔平成31年2月1日訪問〕)。このプロジェクトでは、夏目漱石のアンドロイドを作成し大学等で講義を行ったり、演劇を行うなどの試みがなされていますが、こうした「偉人アンドロイド」を巡る人格権や著作権、肖像権などの各種の権利の捉え方については様々な意見がありましょう。今回は、AIの著作物と源泉徴収にスポットを当ててみます。

思想や感情に基づく著作物

所得税法は、「国内源泉所得」の一つに、「国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの」として、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」を規定しています(所法161①十一ロ)。

ところで、著作権とは、著作者の有する実定法上の権利を指し、著作権法において保護されている権利です。
この点、著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とし(著作権2一)、著作者とは、「著作物を創作する者をいう。」と定義しています(著作権2二)。

すなわち、著作物については、「思想」又は「感情」が前提とされていることからすれば、これらが人間に特有のものであって、ロボットやAIには思想や感情がない以上、ロボットやAIが作り出したものを著作物ということはできないようにも思われます。

AIと思想・感情

しかし、AIは、本当に思想又は感情を有し得ないのでしょうか。

この点について、最近の研究では、AIが鬱病になることがあり得る点を示唆しています。例えば、ザカリー・マイネン氏(Zachary Mainen)は、米・ニューヨーク州で開かれたシンポジウム「Canonical Computation in Brains and Machines」において、脳内の神経伝達物質セロトニン(Serotonin)が機械学習にも重要な意味を持つと発表しています(Serotonin and the regulation of neural inference and learning)。

そこでは、将来的にAIがうつ病に悩まされる可能性もあると指摘しているのです(https://tocana.jp/2018/04/post_16658_entry.html〔平成31年1月13日訪問〕、https://www.youtube.com/watch?v=dMHhcf3jAPE〔同日訪問〕)。
うつ病になるということは-そもそもそこにいう「うつ病」というものが何を指すかについては議論があると思われますが―、AIも感情を有する可能性を意味しているようにも思われるのです(松原仁『AIに心は宿るのか』16頁(集英社インターナショナル2018)も参照)。

AIの生み出す作品はAIのものか

もっとも、仮に、ロボットやAIによって生み出されたプロダクトが思想や感情を創作的に表現したものといい得ても、それだけで解決のつく問題ではありません。

すなわち、著作権とは、著作者の有する実定法上の権利を指すところ、著作者の定義をみると、前述のとおり、著作物を創作する「者」をいうとされていることからすれば、ロボットやAIを「者」ということができるかという点に関心がシフトすることでしょう。

所得税法上の「者」とは、自然人及び法人(人格のない社団等も含まれる。)を指しますが、機械やコンピュータ、ロボット、AIはここには含まれないと解されます。そうであるとすると、文理上、「者」ではないロボットやAIは著作者となり得ないこととなり、ロボットやAIが著作権を有することはないということに一見すると落ち着きそうです。

さて、ロボットやAIが作成するデザインや絵画、音楽について、著作権が観念できないとすると、そのプロダクトの使用料又は対価について、はじめに紹介した所得税法161条の「国内源泉所得」を観念することができないこととなり、ひいては課税対象が制限されることになるのでしょうか。

はたまた、ロボットやAIは、あくまでも利用者にとっての電子計算処理システムのようなものと位置付けるべきであるとして、これらのシステムを利用してデザイン等を作成した者の国内源泉所得として考えるべきということになるのでしょうか。ロボットやAIの創作物を巡っては租税法上においても議論のあるところです。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ 仮想通貨の最新税務』、『キャッチアップ改正相続法の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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